第三十一話 インベルガーの惨状
障壁の向こうにいる男が同じ事を言っているが、そんな言葉を無視して私は障壁を抜けて行く。
先にこいつらを片付けてからだな。
「てめぇいい度胸しているじゃないか」
「五月蠅いな、どうでもいいんだよ……いってぇ~」
ある程度の興奮状態は魔法にいい影響を与えるみたいだが、限度を超えると魔法が全く使用できなくなってしまった。
いきなり切りつけられた私は恥も外聞も捨てて五分が過ぎるまで逃げまくっている。
『ご主人様、直ぐに助けますので』
『いいから、子供を守ってくれ』
まだか、まだか、まだか、まだか…………リプレイ。
「てめぇいい度胸しているじゃないか」
「うらぁ」
障壁を超えた瞬間に直ぐに矢を放つ。
「あ~ボスが~」
「この野郎がっ」
何も気にせず、幾重にも分裂した【光の矢】が外の男達を貫いて行く。
あの逃げ回った五分少々の時間が怒りに変わり、もうこの中に話し合いが出来る奴がいようとも私の矢は止まらない。
「あっちょっと待てよ、勝手に出てくるな」
何故だか知らないがインベルガーの意識が俺の頭を支配していくような感覚が訪れてきた。
「ぐぅぎが~」
私の口から奇妙な音が漏れて【混沌の弓】を投げ捨てると、倒れている男から剣を奪って暴れまわり始めた。
いい加減にしてくれないかな、こっち側の連中だけじゃないのに。
ちゃんと話を聞かない男は意識だけの存在となっても健在で、外の連中を全て倒した後は満足したようで、身体の支配を私に戻したが、余計な事にかなりの体力を削ってくれた。
「旦那、旦那、まさか一人でここまでやるなんざ凄いですな」
コールマ商会のかしらと呼ばれた男が嬉しそうに近寄ってくる。
「あぁ、それよりもさ……」
「おいっお前ら、旦那はお疲れなんだ。まだ息にあるにとどめを刺してこい」
「へいっ」
私の言葉を遮り、てっきり只の商会だと思っていた連中が倒れている奴らを刺しまくっている。
怒鳴りつけたいが、インベルガーのせいでかなりの体力を失ったのでゆっくりと歩いて、馬車の扉を開けた。
その中には恐怖に怯えながら一塊になって震えている子供達がいた。
「何だよ鎖で繋がれているじゃないか……それに君達はもしかして獣人なのか」
『ご主人様にそれを伝えようとしたら、邪険にされたんですけど』
『すまなかったよ、となるとやはりこいつらの商品は……』
外からは死んでいる連中が持っている者を奪っているのだろうか、(金がある)や(この装飾品は貰った)だの楽しそうな声が聞こえてくるが、私はただ胸が痛くなるばかりだ。
ボーッと見ていないで鎖を外さなければと思い子供達に寄っていくと、後から商会の男が声を掛けてきた、
「旦那、どうしたんですか、そのガキが欲しいのでしたら格安でお売りしますぜ」
「あのさぁこの子達をどうするんだ」
「勿論別の所売りますよ、獣人族のガキですから良い値で売れるんですよね」
その男の楽しそうな声を聞いていると、またしてもあいつの意識が私を支配し始めたが、今回はこの私も力を貸してあげたくなった。
身体の中が燃えるように熱くなり、右の拳が赤く燃えている。
振り向きながらその拳でその男の頭を打ち抜いた。
顔に大きな穴が開いたが傷口が焼けている為に匂いは酷いが血は一滴も流れない。
もう好きにしろよ、私の中の色々な私が怒っているんだぜ。
「この人間どもが~」
『どうしたんですご主人様、貴方も人間ですよね』
『………………』
『貴方は誰なんです』
ムックは今の身体を動かしているのは私であって私でない事に気が付いているようだ。
私は自分の身体を通してVRのように暴れている姿を見ているし、なんなら気持ちを強くもてば身体の支配権を取り戻せそうだがあえてそんな事はしない。
ただ私に体力のメーターと言う物があるのなら、ガンガンに減っている事だろう。魔力すらも何故か体力に変化されて私の身体はコールマ商会の連中を虐殺している。
ちょっとこれ以上は不味いな……代われ、もういいだろ、お前はやり過ぎなんだよ。
願うだけでいきなり視界が変わり、身体が鉛のように重くなっているのを感じる。
『ムック、悪いけど助けてくれないか、身体が動かないんだ』
『元に戻ったのですねご主人様。今からは安心して私にお任せください』
『頼んだよ』
ムックは頼りになるが、インベルガーと言う私はどうして暴走してしまうのだろうか、獣人族の屈強な身体では無いのだから考えて行動して欲しい。
それにしても、インベルガーだけこの身体を操れるのはどういう訳なんだ。
馬鹿な私にはこれ以上使わせたくない……まぁそれも俺なんだよな。




