第二十八話 冒険者のルール
弓を出したのはいいが、目の前の中年に【混沌の弓】の凄さが伝わるだろうか。
「悪いが手に持っても良いか」
「良いとは思いますけど、持てるのかな」
私に手から離れるとどうなるのか確かめたことは無かったので、ちゃんと渡せるかが不安だ。
だが、私の心配は杞憂に終わり、その男はちゃんと受け取れて、じっくり観察してから私に手に戻って来た。
「かなり年代物のエルフの弓だな、こんないい物を使っているくせにE級なのか」
「あのぉ、この討伐でD級になれたりしないですかね」
「それが無理だって事はお前も分かっているだろ」
何を考えているか知らないが、私にはその理由が分からないので答えを聞こうとしたところ、その男の後ろの扉からお盆の上に硬貨を乗せた女性が戻ってきた。
「ギルド長、後は私が変わります」
「あぁそうか……そうだ、今回はあれを買い取るが、次からは買い取らんからな」
「えっどうしてですか……リプレイ」
ギルド長が姿を消す前に何度もその理由を尋ねたが、どんなに話し方を変えても頑なに教えてくれない。
ただ一つだけ教えてくれたには「それが分からんようなら、冒険者など辞めちまえ」だった。
「あっそうか、すっかり忘れていたよ」
「ようやく分かったんですね、今回はこの街では初回なので見逃しますが、次回はありませんので注意して下さい」
「ちょっと、何なんですか」
文句を言おうと思ったがアーリアが私の肩に手を置き、その手が強かったのでそこから先の言葉を飲み込んだ。
それ以上何も言わない方がいいらしい。
「いいですか、それでは今回の受付は終了となります。なお、次回からは決められたルールは守って下さい」
「はい、すみませんでした」
何となく、私も謝らなければいけない雰囲気が漂っている。
「すみませんでした」
何が悪いのか私には何一つ分かってはいないけど、昔の癖というか身についてしまった危機回避というのか知らないが、思わずつられて一緒に謝ってしまう。
それでも、これだけでこの雰囲気がいい方に変化するならそれでいい。
『ご主人様、いかがしましょうか、こやつらを殺しましょうか』
「静かにしろ」
思わずムックに怒鳴ってしまうとムックは耳を下げて身体を小さくしながらアーリアの胸の中に飛び込んだ。
ムックが余計な事を言いそうなので怒鳴っただけなのだが、本当の声を知らないアーリアは無言で私を睨んでいる。
「失礼します。ほらっ行くよ」
少なくない買取額を受け取りそのままギルドを出ると、アーリアの肩を掴んで振り向かせる。
「なぁなんで謝らなくてはいけないんだ」
「あのねぇ、そんな事よりムックに八つ当たりしないでよ」
「いや、こいつが変な事言うからだよ」
「馬鹿なの、勝手な妄想しないでよ」
そうだよな、会話が出来る事を知らないんだもんな。
『おいムック、そんな風にアーリアに甘えるから誤解されるんだろ』
『怒っていますよね』
『もう怒らないから、普通にしてくれよ』
その言葉でムックは尻尾を振りながら私の胸に飛び込んで来ようとしたので、思わず振り払ってしまった。
アーリアにはまたしても怒らせてしまったので【リプレイ】も考えたが、これぐらいでもう使わない。
このところ簡単に【リプレイ】を使ってしまっているので、このままだと若い身体のまま死んでしまいそうな気がしてならない。
「噛みつかれると思ったんだよ、それよりさ、どうしてあそこで謝らなくちゃいけなかったんだ」
「あんたねぇ、とは言っても私も忘れていたから駄目なんだけどさ、アラクネはB級魔獣に格上げになったんだよ、だからさぁ私達のどちらかにB級がいなければ討伐しても意味無いんだよ」
「…………んっ」
フレイクの記憶を遡ると冒険者のルールを思い出した。
そう言えば階級が付けられている魔獣はその階級と同じか、それ以上ではないと討伐しても評価されないのだった。
冒険者を無茶させないルールなので罰則などは無いが、その決まりがあるだけで無理に討伐する冒険者は殆どいなくなった。
「ちゃんと規則を読んでおくんだったな」
「次から気を付ければいいんじゃない。それよりさ、もう私達はダンジョンを目指さない?」
「良いけど、二人だと厳しくないか」
「深い場所にはいかないし、もし行きたくなったら向こうで考えればいいでしょ」
◇
私が想像していたダンジョンとは少し違っていて、ダンジョンの近くには簡易ギルドだけではなく、宿泊施設や道具屋迄もがあった。
てっきり多くのパーティが長い日数をかけてダンジョンの攻略を目指すものだと思っていたが、実際は低層階を主戦場にして夜は宿屋で眠るそうだ。
それだと低層階の魔獣は狩り尽くされてしまうように思えるが、ある一定の時間が過ぎると魔獣は復活するのだそうだ。
私にとっては疑問があるのでアーリアに色々質問してしまったが、その質問の意味がアーリアには理解してくれなかった。
この世界の人には当たり前のことなので、私のように疑問に思う者がいないのだろう。




