第二十四話 ムックと密かに話す
アーリアが見張りを交代してくれたので眠りについたのだが、朝になり目を開けるとムックを抱きしめたまま眠っているアーリアの姿が目に写った。
おいおい、それは無いだろ、こんな場所で見張りもせずに二人して眠っていたら命取りになるんだぞ。
『お早うございますご主人様、この娘がしつこかったので私が眠らせました。その代わりに私が見張りをしていましたので問題はありません』
「わざと寝かせたのか……魔法でか」
『はい、そうです』
まさかムックが魔法を使うとは思わなかったから簡単にかかったんだろうな、だったら少しからかうのも良いかも知れない。
「アーリア、大変だ。ムックが死んでいるぞ」
「えっ……何で私は眠っていたの」
ムックに死んだ振りをしてもらうと、中々のいい表情をしてくれている。
嘘だと分かっていても本当に死んでいるかと間違うぐらいなのでアーリアの反応が見て笑おうと思ったのだが…………。
『ご主人様、ちょっと汚いのでどうにかして欲しいのですが』
『……リプレイ』
あまりにも気持ちよさそうに眠っていたので少しからかおうと思ったが…………いい年してこんな事を考えた私が全て悪かった。
まさか、あんな風に声を上げながら泣き出すとは思わなかったので、罪悪感で胸が締め付けられるようだった。
『ムック悪いんだけど何か獲物を獲って来てくれないかな』
『お安い御用です』
幸せそうな顔で眠っているアーリアを見てもまだ罪悪感が取れないので、美味しい朝食を準備してあげようと思う。
下準備をしながら昨日は少しだけ使えたインベルガーの感知能力の練習をしようと思う。
……上手くいかないな。
これならどうだ。
インベルガーの記憶の欠片を探りながら意識を合わせると、あの感覚が戻って来る。
獣人族だった頃は自然に出来ていたことだが、この身体だとちゃんとその当時の事を思い出して意識を集中すれば何とか使えるようだ。
……昔ほど範囲は広くないけど使えないよりはましだろう。
2級以上で1級未満て感じだな。
◇
「あれっ、ごめん、いつの間にか眠ったの?」
「覚えていないのか、ちゃんと交代したんだよ」
「そうだっけ? ふ~ん、ムックは?」
「森に入って行ったな」
「ちょっと何で止めないのよ、あの子を一人にしたら危ないでしょ」
ムックは見た目通りの子犬ではなく魔狼だと言う事をアーリアは忘れているようだ。
そもそもムックはたった1匹で生きてきたんだから全く問題ないというのに。
「ムック~何処なの~戻っておいで~」
アーリアは身支度をしながら叫んでいるので、早く戻ってこないと朝食どころではなさそうだ。
『ムック、悪いけど急いで戻ってくれるか』
『了解しました』
「アーリア、ちょっと落ち着きなよ、ムックが戻って来る気配がするからさ」
「あんたいつの間にそんな事が出来るようになったの」
「あいつは魔狼だよ分かるんだよ」
今は感知など使っていないから適当なのだが、直ぐにムックは戻って来るだろう。
ズサッ
自分の身体の三倍以上の大きさの猪を咥えたムックが木々を飛び越え私の前に降り立った。
『戻りました、いい獲物でしょう』
『凄いな、十分過ぎるよ』
「ムック~心配したんだよ、もう勝手に行ったら駄目だよ」
背後からムックを抱きしめ頬ずりしているが、アーリアだどういう思考回路でそうなるのか理解できない。元の姿を見てはいないのは分かるが、ムックは子犬ではなく魔狼だと知っているはずなのに。
『ご主人様どうにかして下さい。こんな小娘に抱かれたくないんですが』
『う~ん、悪いけど我慢してくれないかな。私の側にいたらこれからもこうなると思うよ。それになリシオはもう死んでいるんだ。ムックは自由になった方が良いよ』
『お言葉ですがリシオ様はまだ消滅してはいません。私は契約をしていないので繋がりは薄いのですが、それでも生きている事だけは分かります』
『どういう事だ』
猪を捌きながらムックの話を聞いているが、どうやらリシオは生きている可能性が高そうだ。リシオを完全に消滅させるなら聖魔法か勇者の力が必要で、それが本当だとするとあの時……だとしたらリシオの同族はなぜ滅んだんだ。
『魔王様は簡単に消滅しない存在なんです』
ムックは真面目に私に答えるが、その姿を見ると未だにアーリアにおもちゃにされているのでどこまで本心なのか分からない。




