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第二十三話 魔獣ムック

 この魔獣は私の中に魔王リシオの何かを感じ取ったみたいだが、魔王の中にいたのは僅かな時間だと思うのだが、その時にリシオの何かを私は持ってしまったというのか。

 

 お~い、あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど…………駄目か。


「なぁ君の名前は何なんだ」

『私如きに名などありません。しいていえば魔狼ですが、それよりも本当に魔王様では無いのですか』

「それは確かだね、そもそもこの俺が魔王だったらもっと魔力があっても良いと思わないか」

『そう言われてみればそうなんですけど……』


 子犬の姿のまま話していると何故か可哀そうに思えて来たが、本当の姿は全然違うんだと忘れないでもう少し様子を見ようと思う。


「あのさ、正直に言うと魔王リシオの中に取り込まれていたことがあるだけなんだ。それにね、はっきり言うと俺は遊びのように人間を殺した魔王リシオと思われると心外なんだよな」

『そうなのですか……』


 それ以上の声は言葉にならない程の声が頭に聞こえてきている。この魔獣があの魔王リシオを崇拝しているのなら討伐しても構わないと思うが、目の前で子犬の姿のまま前足で顔を覆っている姿を見ていると思わず抱きしめたくなってくる。


「んっどうしたのその子犬は、いや魔獣だよね」


 少し離れた場所で魔狼と向き合っているのだが、こんなに静かな場所なのでアーリアが目を覚ましてしまったようだ。


「そうだよ、こいつは魔狼なんだけどさ、この身体じゃ人を襲ったりはしないだろうから見逃しても良いかな」


 自分で言って驚いてしまうが、何となく私はこの魔狼を殺したくはない。


『あの~私は人間なんぞ襲った事は無いんですけど』

「本当に人を襲わないか、暫く育ててみようか」


 アーリアは今の姿に心を奪われたのか魔獣を抱きしめながら頬ずりをしている。確かに良いのかもしれないが、元の姿を知っているだけにちょっと引いてしまう。


『リシオ様、この小娘をどうにかして貰えませんか』

『あのな、だから俺はリシオじゃないんだってば、それにアーリアはどうにも出来ないよ』

『私にはどうしても貴方様がリシオ様にしか思えないのです。本当に別人と分かるかで側にいてもよろしいでしょうか』


 アーリアが目の前にいるので頭の中で話し掛けてみたが、どうやら魔獣にだけは通じるようだ。それはいいのだが、どうしたらいいものか。


『あのさ、俺は魔王として行動はしないし、何なら魔獣を討伐する側に回るよ』

『それでも構いません。お願いしますリシオ様、いやご主人様』


「ねぇ、この子かなりモフモフだよ、凄く気持ちいいんだけど」

「良かったね」


 本当の姿はかなり怖いんだけど、まぁいいか、直ぐに敵対する事は無いだろう。


『ご主人様、この小娘をどうにかして貰えませんか』

『どうにも出来ないと思うんだよね、悪いけど仲良くしてくれよ』


「可愛いな~、この仕草も良いよね」


 頭に届いている言葉と行動が合っていない可愛らしい仕草を魔獣はしているので、ますますアーリアは強く抱きしめている。


「そうだ、名前はどうする」

「そうだね……ムックがいいな、コロコロしているからね」


 その理由は全く意味が分からないが、アーリアが決めたのならそれでいいと思う。


『ご主人様、その名前は何となく嫌なんですけど』

『あのさ、そんな事を言える訳無いだろ、悪いけど一緒に来るのだったらその名前を受け入れててくれよ』

『それが条件ですか……仕方ないですな』


 アーリアはムックのお腹をさすっていて何だか幸せそうだ。この子犬の姿では全く戦力にはならないと思うが元の姿をアーリアに見せてはいけない様な気がした。


『あのさ、アーリアの前ではその姿のままでいてくれよ』

『かしこまりました。ご主人様』


 ご主人様か、まぁリシオ様とは言わなくなっただけましか。


 この先この魔獣ムックとはどのような関係になるのか分からないし、ムックの本性も知らないが討伐対象にならない事を願うしかない。


  

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