第十八話 退けた後で
「おいっ怪我をしている彼等に回復薬を飲ませるんだ」
この場所がもう安全だと判断したオスカリが、馬車の中にいる者達に声を掛けながら率先して冒険者を救おうとしている。
「もしかして、あいつは従者じゃないのか」
「そっか、知らないんだよね、彼が依頼主のオスカリさんです。まさかブルクハルトさんも知らないとはね」
「てっきり中にいる爺さんが依頼主だと思っていたからな、だとするとあの爺さんは誰なんだ」
「ねぇ、そんな事はどうでもいいじゃない。それよりもあんたは人間相手にもちゃんと射る事が出来るんだね、それなのにE級とは何を考えているの」
「まぁいいじゃないですか」
思わず返り血を浴びたままのアーリアを見ると敬語に変わってしまう。それにブルクハルトに対しても中途半端な言葉遣いになってしまっていたので、冒険者らしく直していかないと。
「お~い、一人回復したぞ~」
「お~~~」
声の上がった方に注目すると、先程まで死にかけていた男が立ちあがって、普通にお礼を言っている。
これがこの世界の回復薬か、これが私がいた世界に持ち込めるのであればどれだけの財産を持つ事が出来るんだろうな。
即死さえしなければいいのか。
「あいつは助かったはいいけど、その代わりに自由を失ったな」
「どういうことですか、いや、どういうことだ」
「変な奴だな、まぁいい。お前は回復する前のあいつを見たか」
「ええ、瀕死でしたね」
「だろ、それがあんな風に戻せるんだ。ただの回復薬じゃないさ。上等な回復薬なんだろうよ」
もしかしたら飲ませる前に何やら話し掛けているのは契約を交わしているのかも知れない。そう思うとオスカリ率いるこの商会の事が恐ろしく思えてくるが、どんなに高いとしても死ぬよりはましだろう。
「あそこまで酒におぼれるからよ」
「そうだな、あれさえなければもっと助かった奴がいたのにな」
「そんな事よりどれだけ私が苦労したか」
前からやって来た敵は殆どがこの二人が相手をしたのでアーリアはそれが不満なのだろう。
それよりも何か忘れている気がする。
「そうだっ、偵察に行った二人はどうなったのかな」
「死んでいるに決まっているだろ、いくら酒が入っていても敵よりも先に見つけると思っていたんだがな」
もしかして……。
この場でじっとしていられず、最後にあの二人を感知していた場所に向かって走り出した。
2人の死体があればいいけど、無かったら……。
走り出してから数分で辿り着いた場所には死体が一つだけあったが、その男は背中を刺されうつ伏せになってことが切れていた。
となると、これは裏切り者か……リプレイ。
「いってぇ~」
全速力で走っているところに戻ってしまったので、盛大に転び全く受け身が取れない状態で転がってしまう。
「あんたは何がやりたいの」
「大丈夫かよ」
「いやぁちょっとね」
二人はかなり呆れているらしく視線が冷たいが、私にとってはこの身体の痛みよりもいい情報を持ち帰って来ている。
「護衛を辞めたくなったか」
「そうじゃないですよ、それより偵察に行った二人は誰なんだ」
「キシリとジーンだがどうかしたのか」
思わず名前を聞いたけど、私にはあの死体がどっちなのか判断がつかない。
「あっ嫌、身体が細い人なんだけど」
「何を言っているんだ。あいつらは二人とも細いぞ」
「あぁそうなんだ」
「君は何かを知っているのかい」
いきなり心臓を儂掴みにされたような気がして驚いてしまうが、背後からいきなり声を掛けて来たのはやはりオスカリだった。
「何となくですけど、二人の内のどちらかが内通者かと思いまして」
「てめぇ仲間を疑うのかよ」
ブルクハルトは私の胸倉を思いきり掴んできて、その目は赤く染まり常軌を逸している。
少し話して駄目だったら【リプレイ】するしかない。
「その手を話すんだ。彼の話を聞こうじゃないか」
「今思い出すと、敵と鉢合わせする前に一人の気配が消えていたんですよ、ただ、すぐに混乱して感知が出来なくなったので正確ではないんですが」
まさか現場を見てきたとは言えないのでこれ以上の事はいえないので、根拠としてはかなり弱い気がする。ただ昨日飲みにしつこく誘って来たのはたしかジーンだったような気がする。
「一人の気配が消えたとするとまだ生きている可能性があるな……」
「まぁその内に分かる事でしょう、ただ一度戻って護衛を雇いなおした方がいいですね、もっと人数を増やした方が良いかな」
オスカリがほんの少しだけ笑ったような気がしたので、もしかしたら経費が浮いた事が嬉しいのかも知れない。
ここまで護衛して死んだ者の経費が無くなったのだから、もっと護衛の人数を増やしても安く済むに決まっている。
オスカリはそんな事を考えていないと思いたいが。




