その二 リシオは考える
さて、このまま人間の街に入っていいものなのか? そもそもこの服は魔国の服だからいらない詮索を受けるんじゃ無いだろうか。
街の入口が先に見える場所で進むかどうか悩んでいると、後から近づいてきた男達にいきなり後頭部を殴られてしまった。
「おいっお前、邪魔なんだよ、目障りだから消えろ」
「何をするんじゃ……ふ~ん、まぁよい、お詫びにその服を寄越すんじゃ、それで命を助けてやってもいいんだぞ」
「馬鹿にしてんのか」
四人の男達はその薄汚い青年が、元魔王である事を知らずに剣を抜きながら囲み出した。
「もうこいつは奴隷として売っちまおうぜ」
「馬鹿な奴らじゃな……消滅せよ」
まだ十代の頃の辻本修也の顔と身体を持った魔王リシオは、その男達に息を吹きかけただけでその身体を砂に様に変えてしまう。
ただ、全員を殺すのではなく、あえて一人だけ生かして置いた。
「あっあっあっあっ」
「何じゃい、まともに話せなくなったのか? まぁよい、お前は逃げるんじゃないぞ」
腰を抜かした男を横目に見ながら持ち主を失った服をリシオは選び始めた。人間のセンスなど持ち合わせていないリシオはマントを腰に付けるなどセンスの欠片も無い。
これなら普通の人間に見えるじゃろう。さぁ次はこやつと一緒に街に入るとするかの。
「おい、お主の家は何処なんじゃ、儂を案内せい」
「あうあうあうあうあうあう」
「何じゃ、それなら……儂に従え……さぁ案内せよ」
魔力を込めた視線だけでその男の自我が崩壊し、リシオの傀儡と成り下がってしまった。
その男は虚ろな目で何故か街の方に行くのではなく、森の中に入って行く。
こいつの住処は何処なんじゃ、こやつは外れかの。
暫く森の中を進んで行くと、小さな池を囲むようなちょっとした集落が見えてきた。
「あっあっあそこが……家です」
「何じゃ、お主は何でこんな場所で暮らしとるんじゃ、まるで愚劣なゴブリンと変わらないでは無いか、まさかお主は人間に化けたゴブリンなのか」
汚れた物を見るかのように眉をひそめたリシオだったが、その二人を見ていたその集落の老人が小走りでやって来た。
「お~い、スポックどうしたんだ。何でそんな奇妙な奴と一緒にいるんだ」
「奇妙とは儂の事かの」
「は~お前は新入りなのか? それとも奴隷なのか、生意気な口を叩くんじゃね~よ」
手に持っていた短い槍の先でリシオを叩くが、その手ごたえはまるで岩を叩いたようだった。
「いてぇな、てめぇは何を着込んでいやがるんだ」
「騒ぐな虫けらが、それより此処は何なんだ」
「そんな事も知らねぇのかよ、お~いみんな出てこい。変な奴がいるぞ」
何処に隠れていたのか知らないが、20人程の醜くい男達が武器を持って集まってきた。
「何だかのぉ……儂に従え」
まさかこんなに簡単に術にかかるとはの、勇者やその連れにはこんなに上手くいったことがなかったのにな、儂の魔力が……いや、まだ弱まったままだな、そうなると勇者らが特別だったのか?
さてどうするかの、そうじゃ勇者が特別なら儂は勇者になれば面白くなるかもしれん……それで本物に会ったら不味いか……まぁよいその時はその時じゃ。
「おいっそこのお前、儂が勇者に見えるようにするんじゃ」
この中で一番年配の男に指示を出すと、年齢にそぐわない軽快な動きで行動し、直ぐに綺麗な皮の鎧とマント、そして切れ味のよさそうな剣を持ってきた。
これで良いんだろうな、さて、どうするかの、こんな場所で勇者も無いだろしの……。
「おいっお前ら、先ずは此処にいる者を全員殺してこい」
無言のまま男達は自分達のアジトに向かい、そこにいた家族や仲間達を殺しまくった。
リシオにとっては心地よい悲鳴が聞こえ、一時間もしない内に何も聞こえなくなると傀儡たちはゆっくりとリシオの元に戻って来た。
そしてこの付近では最大の盗賊団であった<褐色の源>は滅ぼされた。
「よし、お前らはこの辺りで一番大きな街に向かうんじゃ、ほれっさぁ進め」
無言のまま元盗賊達は森の中を走り出す。リシオも一緒に走るが、この身体に慣れていないせいか多少もたついてしまう。
「お前ら走るのは止めてゆっくり進むんじゃ、儂は魔術師なんじゃからの」
何度か転んだあとでリシオは走るのを諦めた。何度も転んだおかげで綺麗だった鎧は薄汚れてしまったが、逆に歴戦の勇者みたいな雰囲気を醸し出している。
森を抜け、丘の下に目的地と思われる街を見下ろせる場所で傀儡たちを一旦止まらせる。傀儡たちは武器を手にしているが半裸の者や普通の服しか身に着けていないのがリシオには気掛かりとなった。
こやつらは弱そうなんじゃよな、このまま行かせてもいいのだが、簡単にやられてしまいそうだな…………魔獣にでも手伝ってもらうか。
「出でよ、魔狼」
リシオが指を差した場所が赤く光って、その中から馬よりも大きくいかつい顔をした魔獣が何体も飛び出てきた。
「久し振りじゃの、知らん顔ばかりじゃが世代が変わったんだろうな、まぁよい、こいつらを乗せてあの街の男達を殺しまくるんじゃ、ただな、女や子供は殺すなよ、奴らはそいつらを殺すと余計な力が出るからの」
魔狼達は人間を背中に乗せるのは抵抗があったが、記憶に刻まれている魔王の魔力に触れ喜びの方が勝っていた。傀儡たちも意思があったのなら魔狼の姿を見ただけで逃げ出したと思うが、何の感情も無く背中に乗り始める。
「さぁ行け、暴れて、暴れて人間どもに絶望を与えて来い」




