第十六話 護衛開始
ブルクハルトや他の冒険者の間で変な空気が流れていたのはやはり馬車の装飾にあったようだ。この馬車を所有する商会はルカメヤ商会と言って、会長は元は平民の商人であったが、今は金の力で男爵の地位を手に入れたらしい。
だからと言ってこの装飾する意味は俺には全く分からないし、此処にいる誰もが意味が分からず嫌そうな顔をしている。
すると馬車から気取ったような痩せぎすの男が降りてきた。
「君達はこの馬車に不満でもあるんですか、これはですな、あえて派手にしたら馬鹿な奴らが寄ってこないのではないかと言う実験なのですぞ」
「あの、流石にそんな効果は無いと思うのですが」
「護衛隊長がそんな事を言ってどうするんですか、いいかね、多くの依頼料をお支払いしているのだから黙って護衛をすればいいんですよ」
「あっはい」
ブルクハルトは額から汗を流しながら恐縮しているので、やはり依頼人には敵わないのはどこの世界でも同じだ。
「すみません。余計な事を言いました」
「そうですね、この事はご主人様には秘密にしてあげます」
てっきりその男が依頼人かと思ったが、従業員か執事だったようだ。
「それじゃお前が偉そうにするなよ」
「何ですか貴方は」
「リプレイ」
またしても言葉にしてしまったが、確かにストレスはたまらないけどあまり多様して癖になると不味ような気がする。もっと慎重に使おう。
一切何も口を挟まずにいると、近くに宿から商会の面々が続々と出てきて、馬車に乗り込んで行った。
ブルクハルトも気を取り直し迅速に配置を決めていく。
「お前は会長であるオスカリ様の馬車に乗ってくれ、従者の隣で警護してくれればいいからな、それと言葉遣いに気を付けるんだぞ」
「えっそれは面倒なんですけど、リプレイ」
三回も【リプレイ】を試してみたが、結局素直に従った方が無難に思えてきた。そのそも馬に乗った記憶はあるが実際に乗った訳じゃないのでペーパードライバーみたいなもんだ。
「失礼します。僕が隣で護衛をしますのでお願いします」
「あぁよろしくな、ペスコの街までかなりあるからな、楽しくいこうぜ」
この従者は30代前半のいわゆるイケメンという人で、他の馬車の従者に比べて浮いている様な人だが、話し易そうな人なので変な気を使わなくても済みそうだ。
◇
商隊は順調にペスコの街に進んでいるが、商人は座っているだけなのに数時間ごとに休憩を挟み、更には野営をしようとしないのでこれでは10日の拘束では収まりそうもない。
そして今日も何もないつまらない一日が過ぎていく…………。
ドンッドンッ
「おいっまだ起きているか」
「起きているけどどうかしたかな」
「お前じゃなくて他の奴らは何処に消えたんだ」
「飲みに行くって言ってたよ、俺は断ったから行先は聞いていないけど」
別に街いる間は飲む事は禁止されている訳じゃないが、ブルクハルトの嫌な予感が当り、気が緩んだ冒険者達は夜中を過ぎても戻ってこなかった。
翌朝になり、まだ酒が抜けていないのが、辛うじて動けるのが5人で、二人はまだ泥酔状態になっている。
俺とアーリアが素面なのを見て、ブルクハルトは盛大な溜息を吐いた。
「お前らだけでもまともで良かったよ」
「商人にバレたら問題ですよね」
「奴らは顔を隠させて馬に乗せるさ」
泥酔の二人も強引に馬に乗せ、馬車は峠に向かって行く。
「お早うシューヤ君、君は普通なんだけど大部分の他の連中は元気が無いようだが、病気でもしたのかい」
「病気じゃなくて飲み過ぎなんですよ、困った連中です」
「何だと、真面目な冒険者をやとったつもりなのにこれかよ、おいっお前ら馬車を止めろ」
えっ何ですか、どうしたんですか、怖いんですけど。
いきなり豹変した従者は実は彼が依頼主のオスカリで、従者のふりをしていた訳では無く、ただ馬車の操縦が趣味らしい。
それに盗賊に襲われた時に馬車の中にいたので逃げ遅れたのがかなり怖かったそうだ。
「旦那様、いかがしましたか」
「酒に酔っている奴を全員……」
これ以上は聞いていられないな、リプレイ。
「お早う、シューヤ君……」
「これから峠ですからね、緊張しているんじゃないですか」
これしか思いつかないし、この先は霧が深くなってきたからこれで何とかなってくれるといのだが。
「ふ~ん、そうか」
オスカリの声には抑揚が無いので、完全には俺の言葉を信じてはいない様だが、今回は決して馬車を止める事は無かった。
峠に差し掛かると、数人の冒険者は酔いから覚めてきたようでしっかりと身体を起こして馬に乗っているが、まだ半分以上の冒険者は夢か現実か区別がついていないだろう。
峠を進んで行くうちに霧が出てきて、俺の身体に何かが纏わりついてきた。
「すみません、屋根の上に登ってもいいですか」
「いいけど落ちるなよ」
屋根の上に登っても視界が良くなる訳では無いが、弓を放つなら此処が一番いい。
もうこの商隊が襲われるのは確実だろう。今回は敵の姿ははっきりと感じ取れないが、悪意が向かって来ているのだけははっきりと分かる。




