第十三話 アジトの中で
意識が身体の中にいると現実味はあまりなかったが、目の前で行われている殺し合いを見ると、身体の中で震えていない部分は何処にもないように思えた。
「おい、そこのF野郎、早く援護しろよ」
「あっはい、すみません」
もう余計な事は考えるな、1,2,3,4…………。
相変わらず指は震えているが、それぐらいで狙いを外す事はこの弓ではありえない。
次第に息が乱れてくるし、額から流れてくる煩わしい汗がこれが現実であると教えてくれるようだ。
実際の時間はどれぐらいなのか分からないが、8と数え終わったところで私の肩をそっと叩いてきた男がいた。
「出来るようになったじゃね~か、お前なりに鍛え直したんだな」
「いっいえ、あの、あの時はすみませんでした」
その男はトッドと言い、僕が失態を犯した時のパーティのリーダーの男だ。今迄は僕を見ても無視していたが久しぶりに声を掛けてくれた。
「あの時はからかい半分で前衛にさせた俺もちょっと悪かったな、ただな……」
「逃げてしまった僕が全て悪いんです。本当にすみませんでした」
無視されたからと今迄一度も謝りに行かなかった僕が全て悪いので私としてだが謝る事が出来て良かった。
ただ、今はそれを喜ぶ精神状態ではない。
勇者だった頃の記憶は何度も盗賊を退治し、全て作業のように殺しているのかと思ったが……それは私の勘違いだったようだ。
フラッシュバックのように蘇った記憶では、どんな悪人だとしても同じ同族である人間を殺す事にかなりの罪悪感を持っていたようだ。
下手したら辻本である私よりも苦しい思いを抱えている。
勇者クレメンテは魔力も力も恵まれていたが、心は同じ魂とは思えない程に心優しい男だった。優しすぎたかも知れない。
あの世界では未知の病と言われて死んでしまったが、あれは多大なるストレスが生み出した病だと思う。
その結果、勇者だと言うのに誰にも知られていない。
もし、同じ世界だとしたら私は悲しい勇者だ。
◇
「ギルド長、発見しました~」
こんな死体だらけの場所を笑顔を見せながら二人の冒険者が漆黒の木箱を抱えて運んできた。 この討伐の依頼主の一人がこの木箱の持ち主で、持ち帰ると特別な報酬が私達に支払われる。
「あの中身は黄金竜の鱗らしいぞ」
「そうなのか、それなら是非とも拝んでみたいものだな」
箱の中身は知らされていないので、噂だけがこの中を駆け巡っていた。
誰もが箱の中身に興味があり、ギルド長が開けてくれるものと信じて周りに集まっている。
「おいっ近くに寄って来ても開けないからな、勝手に開けると報酬が下がるんだよ、お前らだって嫌だろ」
「そんな事を言って中身が入っていなかったらどうするんです。どうせ奴らが開けたに決まっているじゃないですか」
「どうせ分配するんだから、この木箱の報酬何てたかが知れてますよ、それよりどんなお宝が入っているのか見ましょうよ」
「鍵がかかっているんだからまだ開けていないに決まっているだろ」
私が切ない気持ちでこの場所にいるというのに、バカ騒ぎをしているこの状況に何だか無性に腹が立ってきた。
「あのっ、ちょっとどいてくれますか」
石を抱えながら人込みをかき分け、木箱に近づいた途端に一気に叩きつけた。
「あ~~~手前、何てことしやがるんだ」
ギルド長は頭を抱えてうずくまったが、近くの男がその木箱の中に手を入れると、取り出したのは本来ならば綺麗なドレスだった。
残念ながら取り出し方が乱暴だったので切れてしまっているが。
まさかそんなものが出てくるとは思わなかったのでこの場の空気がかなり白けたものとなった。
「どうしてくれるんだ」
「ちょっとそこまで怒らなくても……リプレイ」
髪の毛を逆立てた怒りの表情でギルド長が掴みかかろうとして来たので急いで時間を戻す。
ワーワーやっている時に戻ったが、私みたいな真似をする奴は現れないし、もう興味は無くなったのでその輪から離れてみた。
んっなんか違うな。
離れて見て分かるが、冒険者達の全てがその木箱に興味があると言うより、わざと騒いでいるように私には見える。
この討伐で興奮が治まらないのか、それともそれに酔いたいんだろうな……。
「なぁフレイク君はあの輪に入らないのか」
辺りを伺うようにしながら神経質そうな男が近づいてきたが、彼は私の名を知っているが私はその顔を見ても名前を思い出せない。
「興味がありませんので」
「そうかい、だったら今の内に小遣い稼ぎしに行こうぜ、あいつらが忘れている内にさ」
「何をするんですか」
「顔の皮を剥ぎに行くに決まっているだろ、この中には賞金が掛かってる奴も紛れているはずだからな」
「リプレイ」
誰にも話し掛けられないように一定の距離を保ちながらこの辺りを周回し、ギルド長が撤退を指示するのをただ待つことにした。




