第十二話 暴走
崖の上から下を見ると、盗賊のアジトのみすぼらしさに侘しさを覚えてしまう。あれなら昔の世界のキャンプ施設の方がいい。
「あれが<閃光の風>のアジトですか」
「あぁそうだな、必ず<閃光の風>の奴らを倒すぞ」
う~ん、なんだろ、ギルド長と弓使いの男の会話を聞いていると何故だか背中が痒くなってきた。頼むからいちいち<閃光の風>の名前を呼ばないで欲しい。
そもそもがそんな風な名前で呼ぶからあいつらはのさばるんだと思う。どうせならもっと恥ずかしい名前を勝手に付けて広めてしまえばいいのに。
「そろそろ時間だな、合図がきたら最初に俺達が攻撃を仕掛けるからな」
作戦は高台になっている此処から魔法と弓で攻撃をし、混乱した奴らを下にいる部隊が囲んだ状態で攻めるの事が決められている。
私はこの作戦に何ら文句はないが、私の中にいるインベルガーが首をかしげているのが頭の中に浮かんでくる。
だからと言って私は何も言うつもりはないし、F級の冒険者の意見何て聞いてくれる訳が無い。私がするのは作戦を考えたギルド長の顔を潰さないようにサポートし、私の事を見直してもらうしかない。
そう言っても私の風魔法は補助しか出来ないし、さっきの魔法は今は使える気がしない。背負っている矢筒の中身を使い切ったら私の出番は終わりだ。
勇者の時の相棒だった【混沌の弓】が使えるなら魔力が続く限り矢を放つ事が出来るのにな。
あの弓は本当に便利だったんだけどな……んっまさか。
微かに【混沌の弓】を近くに感じる。昔と同じように左手を伸ばし弓があるかのように構えると……。
左手の中に【混沌の弓】が現れた。
「えっ、嘘だろ……」
「静かにしろ……お前は何で両手に弓を持っているんだ」
「何ででしょう」
右手に持っている弓は僕が買った安物の弓だが、左手に持っている弓は勇者の時に手に入れた願えば現れる弓で魔力によって魔法の矢を放つ事が出来る。
これがあるのなら私の弓や矢筒は邪魔でしか無いのでこの場でお別れする事に決めた。
「お前ら合図と共に攻撃をするんだ。いいか、少しでも減らすんだぞ」
弓を構えてイメージすると何の変哲のない矢が現れる。本当だったら【風の矢】か【光の矢】が良いのだけども、試射をしていないので最初は基本の矢で対処しよう。
下からは盗賊の笑い声が聞こえてくるので、何の変哲の無い日常が下には広がっている。あの連中が何をしたのか知らないが誰も捕まえる気が無くこの場で処理をしなくてはいけないようだ。
私が構えた弓が小刻みに揺れている。これが普通の弓なら絶対に対象には当たらないが、この弓なら視線で狙いを付けるだけでほぼ外すことなく仕留める事が出来る。
「さぁ開始だ、3、2,1、撃て」
右手の指を放すんだ、それだけであいつを殺せるのに……あいつって私に何をしたんだよ。
何が起こっているのかまだ理解していない様でキョロキョロしているその男に狙いを付けているが、私のこの指が張り付いてしまったようで指を離す事が出来ない。
「お前、またかよ」
隣の冒険者から冷たい声が声が突き刺さる。いつの間にか視界を遮っていた汗を払いギルド長の方を見ると、先程までの目とはまるで違った怒りにも似た視線を向けてきた。
何をやっているんだ私は、これだと同じじゃないか、何の為に転生したんだ。もうこの世界が最後なんだぞ、だったらやるしか無いじゃないか…………リプレイ。
「さぁ開始だ、3,2,1、撃て」
何も考えずにただ指を離し、何も分かっていない笑っている男の額を貫いた。
魔術師の冒険者はテニスボールほどの【火球】を手前の建物に落とすと、その中から何人もの半裸の盗賊が飛び出したので、目で目標を捕えてただ弓を放った。
そして、囲んでいた冒険のアジトに飛び込んで行ったので、これからは只のサポートに回る事なる。
これはで良いんだよな……これが続くなら冒険者なんか辞めても……だったら俺が行く。
身体が私の支配から逃れ高台から一気に降りていく。アジトに入ると倒れている者から剣を奪い前にいる冒険者を飛び越えて身体ごと盗賊を斬る伏せるが、どうみても動きはまるで別物だと言うのに全く気にしていない様だ。
お前、インベルガーだな、ちょっと落ち着けよ、この身体じゃそんな動きは無理だって言うのに何をやっているんだよ、直ぐに体力切れを起こすぞ……いけるかっリプレイ。
どうやら身体は言葉には出さずとも私が願えば【リプレイ】は可能だと言う事は分かったが……またしてもインベルガーの暴走は治まらず、ただ五分間を奴に与えるしかない。
2度目はあえてインベルガーのなすがままにさせたら大怪我をした。
3度目、私はやり直しを覚えているが、インベルガーの記憶はそれを知らないらい事が判明する。だから同じように大怪我を負ってしまう。
4度目は私のままでいようと抵抗を試みるも、坂の途中で半分だけ身体の支配を取り戻したが、転がり落ちたのでそこから【リプレイ】が使えるまで地獄の時間を味わった。
5度目、6度目は坂の下で抵抗を試みると、徐々に自分を取り戻す時間が早くなってくる。相変わらず途中で転んでしまう。
7度目に入り、ようやく無事に私として下に降り立つとそこには目の前では殺し合いが行われていて、私だけが場違いな人間のように思えてきた。




