第九十三話 クレイグ登場
「儂は確かに魔族じゃがそんな事は今はどうでもいいんでは無いかの」
「どうでもよくない、父上は僕よりあんたを信じたんだぞ」
「五月蠅いのぉ、そんな文句は後にするんじゃ、それよりどうしてお主は此処から抜け出さないのだ。こんな結界などお主には効かんじゃろう」
「僕だけが逃げ出すのなら簡単な事だ、ただね此処を抜け出すためにこの結界を壊すと、地下牢に監禁されている僕の部下が殺されてしまうんだ」
国王はこのラティアの事をよく理解しているようで上手く逃げ出さないようにしていた。国王はこの先どうしようと考えていたのか知らないが、自分の弟は殺せなかったのだろう。
ドンドンドンドンドンドン。
「ラティア様、誰と話をしているのですか、今から中に入りますよ」
結界の一部分が消え、扉が開いて兵士が中に入って来た途端にその兵士は時間が止まってしまったかのように動かなくなった。
「どうせあんたがしたんだろ、まさか殺してないよな」
「そんな事はせん。それにこいつは今からは儂の人形じゃ、いいかお主は先に此処から出て儂の屋敷に隠れて待っていろ、こやつが儂の隠し通路で案内してくれるのでの」
「無理だって、僕が逃げたのが分かったらどうなるのかさっき話したじゃないか」
「そ奴らは儂とこやつらで逃がしてやるわい」
「ちょっと待ってよ、今更何なんだよ」
「儂はの二人とも大切な孫じゃからどちらかに肩入れはしたくなかったんじゃ、じゃがあ奴の暴走が想像以上じゃからの」
まだ会話の途中だったが傀儡になってしまった兵士がラティアを抱えて連れて行ってしまった。こんな中途半端で良いのかとも思ったがリシオは全く気にしていないようだ。
「あのさ、まさか捕まらないよな、一緒に行動した方が良かったんじゃないか」
「部下の場所を知っているくせに対処出来ない奴は邪魔じゃ、儂かアドリアーノがちゃんと指導出来ていればもっとマシになったんじゃがの」
◇
リシオの魔法で闇に潜りながら向かった地下牢はラティアの部屋と違ってかなり劣悪な環境だった。
俺達の出番は全くなく、看守を傀儡に代え捕らえられた者達に回復魔法で体力を復活させた。
(こんなに簡単に済むのに……そんなに手出しをしたくなかったのか)
「そうじゃの、お嬢ちゃんはこの者達を連れて一緒に行ってくれるか、傀儡が案内するからそれに従ってくれ、ムックとやらも頼んだぞ」
『リシオ様、私も一緒に戦いたいのですが』
「貴様が一緒に行かないと何かあった時に儂らに知らせる事が出来ないじゃないか、いいか貴様の役目は重要なんじゃ」
解放された者達は体力が戻ると同時に戦いに参加しようとしたが、そんな彼等にもリシオは傀儡にしてしまう。
「えっちょっとそんな事をしていいの」
「邪魔だから良いんじゃよ。それにあ奴に会ったら元に戻るようにしたあるから安心せい」
傀儡になった看守を先頭に解放された傀儡も歩きだしたのでアーリア達もその後を付いて行った。
「さて、次が最後じゃの、いいか次からはお主やるんじゃ、儂にはアドリアーノの息子は殺せん」
私に肩を掴んだリシオはそのまま転移魔法で飛んで行く。
◇
王がいる部屋には一人だけが優雅に食事をしていて部屋の壁際には指示を待っている執事達が待機していた。
王はエメラルドグリーンの長い髪を持ち、顔は小さくて女性と見間違えてしまいそうな端正な顔をしていた。
華奢な体をしているが私達を見ても慌てる様子がないので魔法に自信があるのだろう。
「無粋な連中だな、何しにここに来たんだ」
「目が腐っとるのか、儂の顔を見ても思い出せないとはの」
面倒くさそうにリシオの顔を見ると、その穿った目がどんどん見開いて行く。
「まさか……生きていやがったのか」
クレイグが手にしていたグラスを床にたたきつけると、そこから業火を身に纏った竜が床から現れ部屋の中を飛び回った。
リシオも私も障壁で身を守ったが、壁際の執事達は逃げる間もなく一瞬で焼き尽くされてしまった。
「何てことを……リプレイ」
王の間に転移する前に戻した。リシオは肩に手を置いてきたが、まだ行く訳には行かない。
「あのさ、その顔を変えてくれよ、正体を明かさない方が良い」
「そうか、まぁ仕方あるまい……これでいいかの」
一瞬でリシオが顔を変えたのだが、その顔は何の特徴もない何処にでもいそうな顔に変化させた。
「まぁいいんじゃないかな」
「では行くぞ」
またしても前と同じように目の前では一人で食事をしているクレイグがいる。
「何だお前らは」
「馬鹿な真似は止めて貰おうと思ってね」
「ふんっ死ね」
私とリリオを包むかのような火球が飛んできたが、リシオは障壁を傾けて目の前に出してその火球を天井に弾き飛ばした。
天井には大きな穴が開くと。それに驚いた執事達が頭を抱えしゃがみ込んでしまった。
「貴様、我が城を壊しやがって、外に出ろ、直ぐに殺してやるわ」
「あぁ望むところだ」
クレイグの身体が空中に浮かび、穴の開いた天井から外へ飛んで行った。
「あ奴め、いつの間にか空中浮遊を覚えたんじゃ」
「そんな事はいいから早く執事達を避難せてよ、ここからは俺が戦うんだよな」
「儂は応援に回るとするかの」
「無理だったら覚悟は決めてくれよな」
リシオは執事達を一斉に傀儡に代えこの部屋から追い出した。
(さて、あいつは何時戻って来るかな)




