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第九十二話 もう一人の王子

 どうやって国王の野望を止めるのかまだ決まった訳ではないが、リシオの情報が正確だとそれ程時間が残されてはいないので直ぐにでも行動するしかない。


 明日の朝一番で向こうことになり、今はリシオによって与えられた部屋の中でアーリアと二人だけになったのでアーリアが知りたかったことを全て話した。


「あのさ、そうなるとあんたはおじさんどころか老人になるのかな」

「う~ん、そうなのか、よく分からないんだよな」


「それで、あんたの本体というか元になっているのは辻本とかいう人で良いんだよね」

「う~ん、それもどうなのかな、もし俺が辻本のままだったらこんな事はしていないと思うんだよな、どっかの商会に入ってほそぼそと暮らしていたような気がするんだよな」


 よくよく考えると昔の私と今の私は違ってしまっていると思う。経験だけでは越えられない何かがあるようにしか思えない。


 そうなると色んな世界の私の集合体と言うのが正解のように思える。


「ねぇそれってどんな気持ちなの」

「う~ん、これでも辻本としての記憶が一番強いから違和感があるけど、まぁそれでも良いかなって気がするんだ。中には受け入れたくない存在の奴もいるんだけどね」


「あんたがそれでいいならいいのかな」


 深く考えたら別の答えが出るのかも知れないが、考えても私にどうにか出来るとは思わないし、それよりもそっちに頭を使っている時間はもうない。



 ◇



 リシオは朝になってクレイグの魔力を感じて転移魔法で一気に飛ぶと言ってきたが、そんな事が出来るのなら生死が不明のもう一人の継承者の元魔力を追えば良いのでは無いだろうか。


「何で試さないんだよ、生きていたらそこに行けるんだろ」

「そうなんじゃが、ラティアと会うのは気が進まんのじゃ」


「そんなこと言うなよ、国を立て直すにはそいつを国王にすればいいだろうが」

「そうよ、何で行方不明の時にそれをやらないかな、そんな都合のいい魔法を知っているのに信じられないよ、ねぇ馬鹿なの」


 アーリアが胸倉を掴みながら恫喝しているのは魔王だと言うのに、見た目が老人だからかその事を忘れているようだ。


 私は怒鳴った後でリシオの本性を思い出したのでそれ以上言う事は出来なくなるし、なるべくならアーリアにも大人しくして欲しいと願っている。


「ちょっと言い過ぎじゃないかな、あのさ、魔王なんだよね、殺されちゃうよ」

「あっそうか……ねぇ怒った?」


「いや、それぐらいでは怒らんよ、それより儂が情けなくてな」

「あのさ、どうしてそれをしなかったんだ、忘れていた訳じゃないよな」


 リシオがラティアを探そうと思わなかったのは、彼が現国王や前国王以上に優秀で、リシオが普通の人間ではないとアドリアーノに訴えたことがあったからだ。


 薄々は気が付いていたアドリアーノではあったがそれを認めたくなく、暫く修行としてラティアを他国に修行に出し、戻って来てからも何かしら理由を付けてリシオに会わせないようにしていた。


「あ奴は魔族が嫌いじゃから敏感だったんじゃろうな、まぁ魔族が好きな人間なんぞおらんと思うがの」


 リシオは窓の外に目をやり、その寂しそうな姿に寄り添うようにムックは座り、アーリアは思いきりその背中を叩いた。


「あんたねぇ魔王なんでしょしっかりしなさいよ、前国王はあんたの正体を知っていたと思うよ、それなのに息子を遠ざけたのはあんたが好きだったんでしょ」

「そんなんだろうか……」


 リシオの顔は窓の外に向いているので表情を見る事が出来ないが、もしかしたら泣いているのかも知れない。


(あのリシオが泣いているのか、信じられないな)


 もしかしたら同じ魔族がいないこの国で心を許せるのはアドリアーノだけだったかも知れないと思うと何だか俺も悲しくなってきた。


 ただリシオから同胞を奪った原因は私にあると思うが、その事は決して思い出して欲しくはない。



 ◇



 リシオに掴まって転移すると、部屋の中は清潔にされているし高価な調度品も置かれているが薄暗い部屋だった。


「何だ、どうやってこの部屋の中に入って来たんだ」


 ゆっくりと部屋の隅から歩きだしてきたその男性はバスローブのような物を羽織っただけだがしっかりとした容姿をしている。


「あのですね、いきなり何だけど貴方を救出に来ました。ただ此処が何処だか分かってはいないんですが」

「んっ何故場所も知らずにこの部屋に入れたのかね」


「此処はのぉ、王城の隣に建てられている塔に中じゃな、まさかこんな近くに幽閉されていたとはの」


 ラティアはその掌の上に光に玉を浮かべ、それをそっとリシオの方に向けた。


「やはり貴方は人間じゃ無かったんだね」


 


 

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