第九十話 秘密の暴露
今回はちょっと長めになります。
「ねぇねぇあの爺さんがあんたが探していた人なの」
「そうだと思うよ、こんな場所に住む人間なんてそうはいないだろうな」
急な登り坂を登っていくとその平屋の家も、その老人の姿もはっきりと見えてきた。
よく見ると平屋の家は大部分が山に中にめり込んでいて、見えている部分は一部分にしか過ぎない。
そしてその家の周りだけ優し気な明かりが差している。
そして一番驚いたのは、ムックが元の姿に戻って老人の前に座り、尻尾を左右に激しく振っていた。
「ムックは何をしているのかしら」
「あの老人を知っているのか」
近づくにつれ老人の顔が皺の一本一本まで分かる位にはっきりと見え、その顔に何処か見覚えがあるような気もするがそれが誰なのか思い出せない。
「こんな所迄やって来るとはの、誰が来るのかと思ったらお主だったのか」
「えっ俺の事を知っているのですか、どこかでお会いしましたっけ」
必死になって過去の私の記憶を探るが、その顔を全く思いだせない。だが、心の奥底で私はこの老人を知っている。
「まぁ良い中に入るのじゃ、此処迄来たのじゃから茶でもふるまってやるわい」
老人の後について家の中に入って行くと、その中はテーブルと椅子だけがある只の広い空間だった。
不思議な事にムックはその老人の側を離れようとはしないのだが、時折、私とアーリアの方を見て困ったような表情を浮かべている。
向かい合わせとなった椅子に座ると、老人はおもむろに何もない空間に手を入れ、私達の前に淹れたてのコーヒーとショートケーキを出してきた。
「えっ何なの、かなり美味しそうなんだけけど」
「嘘だろ、この世界に来て初めて見たぞ」
恐る恐る食べ始めるとあの世界を旅立ってから久し振りに味わうコーヒーと甘いケーキが口に中一杯に広がった。
「お主は今まで何でこういったものを再現しようとせんのだ」
にっこりと笑うこの老人は顔こそ全く違っているが、その正体を私はやっと確信した。
「何で俺の顔を使っているんだ」
「ちょっと何を言っているのよ」
確かに今の顔に比べたら凹凸が少ない顔だが、その皺だらけの顔を若返らせたら毎日のように見ていた顔が出てくる。
「もっと早く気が付くと思ったんじゃがの、そうじゃ、お主の最初の顔じゃよ、ただ勝手に老けさせてもらっとるがの」
その笑っていない目を見た途端に全身に流れる血が冷却水に変わってしまったかのように一気に寒さが襲ってくる。
出来る事ならアーリアの手を掴んでここから逃げ出したかったが何故か指一本動かす事が出来ない。
「えっちょっと、ねぇあんた毒でも飲ましたの?」
「落ち着くんだ、俺が何とかするから」
「二人とも落ち着きたまえ、毒など入っとらんし逃げ出さないと約束するだけで動けるようにしてあげるよ、こうでもせんとその男は逃げ出すと思ったようじゃからの」
「約束するわよ、これでいいでしょ」
そう言いながらもアーリアは逃げ出そうとしていたのか、いきなり跳ねるように立ちあがり、勢い余って後ろに倒れてしまった。
「何をしとるんじゃ」
「ちょっと……どうでもいいでしょ」
倒れたことが余程恥ずかしかったのか、椅子を直すとそのまま黙って座りなおした。
「お主はどうするんじゃ」
『ご主人様、リシオ様の話を聞いて下さい。それに私は命に代えても小娘は守って見せますので』
私の事はどうするんだと言いたかったが、そこまで言うのならば少しは言う通りにした方が良いだろう。
「話を聞くよ」
「良かろう」
ずっと抑えつけられていた身体が一気に解放されたようだ。
「ねぇそれでこの老人は何者なの?」
「目の前の老人は人間じゃなくて魔王なんだよ」
「魔王って……何馬鹿なこと言ってるのよ」
「確かに魔王と呼ばれていたのは昔の事じゃが、馬鹿だと言われるには心外じゃの」
リシオは何も動かなかったが、その身体から邪悪な魔力が溢れ出してくる。その魔力に包まれたアーリアは涙を流しながら気を失いそうになっている。
「もう止めてくれ、アーリアも信じたはずだ」
「まだこれからが本番なのに残念じゃの」
リシオが魔力を解放するのを止めると、アーリアは崩れ落ちるように座り込んだがそれ以上倒れないようにムックがしっかりと支えている。
「それだけで俺の魔力を超えているじゃないか、それもあんな邪悪な魔力は初めて……じゃないか」
「そうじゃお主が儂の頭の中にいた時に触れたはずじゃ、まぁそれはお主のせいじゃないと今は分かっとるから文句は言わんがな」
「その代わり俺の持っている数々の記憶を覗いたんだろ、随分と有効活用しているじゃないか」
「そりゃそうじゃ、便利だからの、ただあ奴の記憶には触れたくはなかったがの」
震える身体を押さえつけるように両手で抑えているが、その記憶とは勇者の事を言っているに違いない。
「あのさ、どうしてその顔を使っているんだ」
「そりゃ最初は憎んでいたからお主を忘れないようにしたんじゃよ」
何があったのかは教えてくれなかったが、今は恨んでいないし、人間に対しても敵対心は消えてしまったそうだ。ただ好きかと聞かれればどっちでもないらしい。
「それじゃあどうして此処にいるんだ?」
「今の王国の国王は儂の孫なんじゃよ、だからここであ奴が誰かに殺されるのを待っとるんじゃ」
「えっ意味が分からないんだけど」
リシオは話し始め、孫という言葉に間違ってはいないが、魔族と言う事ではなく、義理の息子の子供だと言う事だった。
ちなみにグラッパ王国の初代国王がリシオで、二代目がアドリアーノ、そしてその息子が三代目となっている。
三代目であるクレイグは身体が弱い子供であったが、アドリアーノが30代の若さで事故死してしまったので国王となった。
ただ病弱のままだったのでリシオに復権を望む声が多く上がったが、リシオの秘術で病気を克服し国で一番の魔力を持つ事で国王の座を失う事はなかったのだが、徐々に性格が歪んでいってしまった。
「だったら祖父であるあんたが咎めれば良いだけじゃない」
「それが出来んのじゃ、儂が死ぬ前の最後の力で奴の病気を治し、その力を受け継いだことにしたんでな、今更生きているとは言えんじゃろ。それに奴は人間だと信じているしの」
「あ~~~~~~もしかしてこんな変な国にしたのはあんたのせいだったの」
「アドリアーノの頃の国はどこよりも平和な国だったんじゃがな」
言いたくはないがリシオが余計な事をしたせいだろう。魔族特有の魔力を受け継がせたら普通の人間ならおかしくなっても仕方がない。




