オレとアイツ
「わぁ!まじで絵うまッッ!」
クラスでオレが絵を描いているとみんながそう言ってくれる。
その日の気分で花だったり動物だったり描くものは様々だ。絵を描いているといつの間にか夢中になって気にしている事やムカついた事全て忘れられる。それにみんなが誉めてくれるのが嬉しくて、オレは学校の昼休みは専ら絵を描くことに時間を費やしている。
「でもアイツだけは違うんだよな。」
オレはぼそっと呟いて教室の端に目を向けた。
いつも後ろの席で本ばかり読んでいてオレの絵を見に来た事が一度もないのはクラスでアイツだけだからだ。
前からアイツの事が余り好きでは無かった。本ばかり読んでいて話しかけにくいし、見ていない時はなにやらノートに書き込んでたり兎に角友達とかかわり合う所を見た事がない…きっと中学受験かなんかで勉強してるんだろうな。と思ったらなんだか違う世界の人に感じて苦手意識を抱くようになったからだ。
「…でもいつか絶対アイツが思わず見に来たくなるような上手い絵を描いてやる。」
オレはそう思いながら今日もペンを動かしていた。
そしてある日の事だった。休校日だったので散歩をしながら気に入った場所をスケッチしようと思い辺りを見つつ歩いていた。すると誰かがオレの横を走っていき何かを落とした。
「これって…スケッチブックじゃん。」
慌てて後を追いかけ叫んだ。
「あのーッツ!これ!落としましたよ!!」
すると前に居た持ち主が足を止めクルリと此方を見た。
「あっ、ありがと…あれ?なんでキミが?」
振り返ったのはオレの苦手なアイツだった。
あのいつも本をよんではノートに書き込んでいるのを繰り返していたアイツ。
オレの絵に見向きもしなかったアイツ…。
「…なんでって休みだし今日はスケッチしに行こうかと思ってたから。」
少し強張りながらそう答えるとアイツは目を丸くし続けて言った。
「それ!本当かい!?」
嘘つくわけないだろと思いながら
「本当だよ。」
とオレが答えるとアイツはいきなり頭を下げこう言ってきた。
「僕に絵を教えて下さいッツ!」
唖然として声が出ないオレから自分のスケッチブックをとるとパラパラと捲り少し恥ずかしそうにしながらアイツは言葉を続けた。
「その…僕いつも絵の勉強してて、でも思ったように描けないから皆に見られるの恥ずかしくて…」
おずおずと見せられたスケッチブックにはとても上手いとはいえないけれど丁寧に描かれた桜や家の風景画がいくつもあった。
「…キミの絵が上手だっていうのは知っていたから気になってたんだけど、もし自分のもみせる事になったら嫌だし…1人で描いてたんだ。でもなかなか上達しなくて今日は絵の練習しようと思って来たんだ。」
…ようやく分かった。アイツはずっと絵の勉強や練習をしていたんだ。
いつの間にか抱いていた苦手意識がオレの中から消え、満面の笑みでオレは答えた。
「よし!一緒に描こう!」
「!?うん!!」
二人はスケッチブックをしっかりと抱え晴れ渡った空の下を一緒に走っていった。
四作目です。
絵を描く事が上手な男の子を主人公に考えてみました。