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宿を出る直前、宿の主人が申し訳なさそうに、領主が5人との面談を望んでいると伝えてきた。


Azumashiの面々はめんどくさそうにしていたが、リョークは背中に嫌な汗が流れるのを感じていた。

この国では異世界人はすぐに王城に向かわなければならないのに、この国の貴族である領主がそれを足止めしようとしてる。

どうしてだろう。

もしかして、自分がユズーシテオ師匠の竪琴を持っているからだろうか。


国境近くを統治する領主ということはそれなりに力のある貴族のはずだ。

ユズーシテオ師匠が王に拝謁を許された吟遊詩人ということも知っているはず。


通常、吟遊詩人は弟子を伴い、縁のある人々に顔つなぎをする。そうやって旅をしやすくするのだ。

ユズーシテオの持っていた竪琴を持つ、一人で旅する男。

疑いを持つのは当然だろう。

誤解はすぐに解ける。しかし、その裏付けをとるのに何日無駄にする?


異世界人と初めに会ったものは領主であろうがその命令を聞かなくても良いとされている。Azumashiの面々も命令を無視する気満々で、それに後押しされその伝言を無視することにした。


斎藤の話ではあまり遅くなってしまうと、彼らは異世界に帰れなくなってしまう。それは、彼らに申し訳がたたない。

領主の猜疑はリョークが王城で聖女と謁見してから晴らせばいい。


しかし、さらに関所で門番に足止めをされる。

「すまんが、領主様が異世界の方と一度目通りしたいと言っていてな。異世界の方を通過させるなと言われたんだ。わりーが領館へ行ってもらえないか」


「何言ってんだ。異世界の方はすぐに王城へ連れて行くのが決まりだろう。領主といえどもその決まりに背いてはいかんと王から触れも出ているだろうが」

御者のおじさんが門番へ毅然と言い返してくれるが、門番も困り顔だ。

「わりーな、おれらもそういったし、領館でも散々領主を諫めたらしいんだが全く聞く耳を持ってくださらないらしい。

おれらは領主様に雇われている身で、命令は絶対だ」

だからすまん、いうことを聞いてくれないか?

門番は眉を下げる。

「おれらにはもう関所を開ける権限がなくなった」


街の人たちが憤って門番を責める。通してやれと石を投げるものまで現れた。心なしかAzumashiの5人も少しだけいらいらとしているように見える。

どうしよう。

混乱するリョークの目の端に見えた、驚くほど鮮やかな青い髪の色。

師匠が、「どうすればいいか、わかるだろう?」と笑っている。

はい、とリョークはうなづいた。

リョークには歌がある。リョークの武器は歌だ。理不尽な命令を撥ね退けるために歌を歌えばいい。吟遊詩人はそうやって旅をするのだ。


「僕がなんとかします」


門番の前に進み出る。歌うのは昨日イチカナが教えてくれたあの曲。目を閉じて竪琴を聞いて。

ねえ、聞いて。僕の歌を。

ねえ、聞いて。この旋律を。

ゆるやかに流れる暖かな気流を感じて。

さらさらと流れる涼やかな風に目を閉じて。

目を閉じると見えるでしょう?

歌うことを楽しみながらリョークは歌う。気持ちが良かった。このまま歌っていたい。


「すまん」

歌は門番の一言に遮られた。一拍おいて聞こえた歓声にリョークはホッと戻ってくる。

街の人たちに門番のことを頼んで関所をくぐる。

くぐる直前、びっくりするほど鮮やかな青い髪の女の子が見えた。イチカナはにこにこと笑って親指を立ててリョークを褒めてくれた。そして、大きく手を振った。

リョークも、控えめに手を振り返す。もう一度、戻ってくると今朝約束している。昨日歌いきれなかった師匠の歌を歌うために。

それまでにもう少し竪琴を練習しておかなくてはいけないな。

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