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ドッペルゲンガーにアイはない  作者: 氷雨 ユータ
アイに薪を 火に贄を

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強いられる影

「……これ、どういう事だよ」

 誰も分からないし、誰も知らない。ドッペル団の存在が大々的に周知されているのは不都合で、世の中にはタイミングというものがあるが、この場合最悪だ。この組織はまだまだゲンガーから正体を特定されないように使う名前の所属元になっている程度の弱小組織。そこからどうやって抑止力を得ていくかという話をしたかったのに、只の殺人集団のレッテルを貼られてしまうのは不味い。これが法によって禁じられた行為だと分かれば警察を相手取る事になる。流石に、全国的に警察を相手して欺き続ける自信はない。

 かと言ってこのネタ投稿と思われる記事について削除を求めれば、自分達の存在を知らしめるようなものだ。彼女が首を傾げるなら最早誰にどう見せようと関係ない。ただただ、最悪の一手を打たれたというだけ。

「…………ゲンガーがこっちを認知してる?」

「あり得るの?」

「一番詳しいのは朱斗だから何とも言えない。が、今までを振り返るなら違うな。『隠子』は姉ちゃん案件で、しかもアイツはゲンガーと人間を区別なく襲ってた」

 レイナが道中で見たヒトカタだって襲われたのだ。多分、『遊び』のルールが分からなかったか守れなくて。姉貴なしで怪異に挑んだ結果、あそこが一番ミスやアドリブが多かったものの、結果としてまず疑いようもなく何かしらが漏れた可能性は排除していい。

「大神君は中々大事になったと思いきや、家族全員誤報のとんでもない結末が待ってた。大神幸人ゲンガーを殺した所から何者かがゲンガーを認識した上で殺していると知られた可能性もなくはないが、ドッペル団って名前まで出るのは不自然だ」

「待って。ゲンガーって。互いの正体を。見破れないんじゃないの?」

「見破れなかったとしてもだ。その後の誤報は分かるだろうし、仮にも侵略してるなら幾ら連携出来なくても誤報=今はゲンガーってくらいには帰結する。大神家になり替わった奴等は近くで本物を観察していただろうから、やっぱりある程度までは察せる。ある程度まではな」

「救世人教の方は。どうなの」

「あの時はゲンガーっていうよりも、僕と匠君で澪奈を助けに行っただけというのが近いよね」

「よくて全身大火傷の重体がどうやって一か月くらいで治ったのかは不思議だが、別にこれもドッペル団が知られている件について何も関係ないしな。レイナ、おかわり」

「……ん」

 夏場の冷えた麦茶は八割増しで美味しい。これはきっと気のせいではなく、レイナは既に三杯も飲んでいた。

「結果、心当たりがない。強いて言えば俺と出会う前からゲンガーと戦ってた朱斗次第だが」

「その時ドッペル団成立してないでしょ。それを言い出したらテストが終わるまでこの組織無かったし」

「そう言えば。そうね。じゃあ『隠子』の時に。居たのかしら」

「それはないだろうな。俺達は多分通常の手段じゃなくて、結界を超えてあの場所に立ち入ってる。全員あそこで枝を踏んだだろ。あの神社が燃えてないのはそもそもこっちの世界と別の場所にあるからで、あそこに居たなら同じ道から帰らなきゃルールに引っかかる」

 姉貴のレポートを見ただけなのにさも得意げに語ってみせる俺。実際の手柄はどうあれあの場所から抜け出そうとするには俺達の後ろを最低限ついてこないといけないので、別の出口から脱出された可能性は考慮するだけ時間の無駄だ。

 大神君みたいにルールに引っかかってしまったなら猶更出られまい。


「何がなんだかさっぱり分からないし、警戒すべきとは思うけどこの話やめない?」


 彼女の発言には一理ある。証拠も無ければ状況も曖昧なこの話題を続ける意味はあまりない。それよりも俺達は銀造先生の動向について考えるべきで、彼の追求からどう逃れるべきか、何故大神君に執着しているかを相談した方が組織としても建設的だ。

「それは賛同出来ないな」

 俺は頭を振って、自らの首を絞めるように話を蒸し返した。

「理由はともかくドッペル団の話が外に出たのは見過ごせない。正直、ゲンガーとかお腹一杯だったからちょっと休みたかったんだけども、ここまで来ちゃうと仕方ない面もある。俺達に求められる判断は二つだ。ドッペル団としての活動を暫く停止するか、いっそここで大きい事件を起こして知名度を上げてしまうか」

「メリットは何だい?」

「活動停止は単純に記事が風化するまで待つから、今までの状況まで戻せるだけだ。知名度を上げる方は前々から噂されてたって事で抑止力になりやすい。ただ、人とゲンガーの直接的な見分け方が存在しないから単なる殺人集団とみなされて警察に追われるリスクがある」

 因みに活動を停止すればゲンガーの侵略が滞りなく進むというリスクがある。更に言ってしまえば、活動再開の目途も立つかどうか。風化ラインが曖昧なので起こり得る事態だ。

「自殺他殺事故全部誤報誤報誤報。その中でマジの殺人をする奴が出てきたら流石の警察も躍起になるだろ。しかも銀造先生に限らず最近の周りは『死』の概念に疑問を抱き始めてる(死亡ニュースが全て誤報になるのも異常事態なので麻痺しているのかもしれない)から、俺達は『死』の概念をもたらす死神みたいな立ち位置になるかもな。そうなると本当に大悪党だ。教科書に載るレベル」

「……ずっと。気になっていたんだけど」

「何だ?」



「救世人教の山火事心中。皆。忘れてないかしら」



 俺達は三人で顔を見合わせて、確かにと視線を交わし合った。言われてみればそうだ。全てゲンガーに替わっていくのを誤報として『死』を嘘とするなら救世人教はどうなる。朱莉は全員ゲンガーだと言っていたがこれはそういう内部事情の問題ではない。彼等は結局復活してなどいないのだから、『死』という概念はまだ確たるモノとして残っていなければならない。

「分からん」

 思考放棄。謎が多すぎて頭が痛くなってきた。

 朱莉だけが何とかその疑問に食らいつく。

「飽くまでその辺りの納得が行くような理屈だけど、『死』の概念はまだ完全に否定されてる訳じゃない筈だ。夜山羊菊理だっけ。山で僕が最初の犠牲者になった時、祖父が老衰で死んだとか言ってて『死』の否定に懐疑的だったよね。僕達のクラスが本気七割程度でかなり浸透しているだけで、まだそこまでなんじゃないかなあ」

「で? 浸透してないから何だって言うんだ?」

「君の考えを利用させてもらうなら、僕達ドッペル団だけが本物の『死』をもたらせる。そして僕達は立場上、テロリストみたいに意見表明も出来ない。警察に追われるなら猶更出来ないね。こういう時って辻褄合わせに便利な方法があるでしょ。近いのに陰謀論ってあるんだけど」

「実は。政府がやっていましたって?」

「それじゃ本当に陰謀論だ。そうじゃなくて理屈の付け方だよ。僕達が悪党としてゲンガーからも人間からも敵視されるようになったら、流石に救世人教の件に目を付ける人が現れるだろう。それで、じゃあ何で彼等は死んだんだって考えたらさ―――普通の人はどう思うかな」


 ―――後付けて実はドッペル団の仕業だった、となるだろう。


 前も言った通りゲンガーの存在を公表するのは悪手だ。信じられないなら結局公表しないのと同じだが(殺害方針が独自の思想に基づいていると片づけられるから)、万が一にも信用されてしまった場合、俺達にも見分けがつかないものをその他全員が見分けなくてはいけなくなる。それの行く末は気に入らない人間を焼くだけの魔女狩りだ。ゲンガーの侵略をこちらが手助けしてどうする。

「さあて、どうするかな。ここはリーダーでもあるネームレスに判断を仰ぎたい所」

「……」

 俺は今、全く別の事を考えている。菊理こと山羊さんの未来だ。あれはもしや、ここでの判断を間違えたせいで起きてしまったのではないかと。朱莉に関係性を悟られていないのは結構だが、それで彼女が死ぬなら元も子もない。飽くまで可能性、しかし排除はしきれない。判断は慎重に行おう。

 俺は時計を見上げながら、怠そうに言った。

「―――会合の場であれだが、今決めないと手遅れって事もないだろ。銀造先生がどうして俺達を疑ってるのか、大神君に固執してるのかをハッキリさせてからでも遅くはない。まだ少し考えさせてくれ」

 言い終わったと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。矛盾も疑問もなくそれは強制終了の合図。授業をサボってまで会議するのは『普通の人間』と言えるのか。俺達ドッペル団はゲンガーのように飽くまで何も知らない普通の人を装わなければならないのだ。


 だからこの話はもう終わり。


 アクア君との擦り合わせもあるから、今はこれが最善だ。

「そっか。じゃあ戻らないとね。三人でお弁当食べるの、結構新鮮で楽しかったかも。僕はまたやりたいな」

「俺もだよ。まあクソ暑かったけど」

「今度。扇風機を。借りて来るわ。匠悟が居るなら。またやりましょう」

 この判断が正しかったという確証は何もない。







 山羊さんの死に無関係ならそれで良いのだが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 考えたくないけどスパイか… [一言] 銀造先生はそういう陰謀論信じないって思ってたのになぁ
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