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ドッペルゲンガーにアイはない  作者: 氷雨 ユータ
狂真サークル

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18/173

うすら寒い真実

 朱莉との勝負は無条件に俺の勝利だった。因みに彼女が持ってきた風紀を乱しそうな話題は『最近駅前で生徒が勧誘される』というもの。それだけなら学校の関与する所ではないが、一部入信してしまったが為に校内でも宗教勧誘が発生しているとか。

「あーうん。それは勝てる訳ないなー」

「俺の勝ちだな」

 ただ、彼女の持ってきた問題もそれはそれで大いに風紀を乱し得るので、要対処だ。レイナにはこちらの話題の方を共有しておいた。銀造先生が中々戻ってこないが、大神君は一体何をしているのだろう。

「で、本当にゲンガーなの?」

 この話題は非常にデリケートである。ゲンガーは『本物じゃない』以外に見分けが全くつかないので、もしもそうであるなら該当者を徹底的に調査。どちらがゲンガーなのかはっきりさせた上で殺す必要がある。前回のゲンガーが未熟だっただけで本当は殺人よろしく事後処理もしないといけないらしい。倫理的にも手間的にも、本物を殺すなんて事があってはならないのだ。

 二年C組のアルバム―――厳密には彼等が一年生だった頃のアルバムを取り出して、朱莉に該当者を指差しする。彼の名前は齊藤享明さいとうたかあき。この高校は二年生になるとクラス替えがあるのだが、彼は担任もクラスも変わらなかったようだ。

「良くこんなもの引っ張って来れたね」

「風紀委員の力だな。流石に返さなきゃいけないが、話を聞くに一年生の頃も成績でかなり悩まされていたらしい。だから普通に考えるなら机に突っ伏してた方がゲンガー。エアガン持ち込んでた馬鹿が本人って所か」

 彼については何も知らない。接点もない。山本君や美子の時と違ってそもそも接触しづらいのが一番難しい所だ。本人とゲンガーが密に繋がっているならボロを出させるのは相当きつい。本人は艱難辛苦を引き受けるもう一人の自分をらしくする為に全てを教えるだろうし、ゲンガーにはそれを吸収する力がある。

 本人とコンタクトを取っていなかった山本ゲンガーでさえもあれだけ似ていたのだ。これは一筋縄ではいかない。

「……しかし、まだ居たとは驚いたな。匠君、これは非常にお手柄だよ」

「多分横の連絡は取れてないよな。もし取れてたら、特に俺が全力で警戒されるだろうし」

「そこは心配しなくていいと思う。本当に危なかったら僕が殺すから大丈夫」

「間違って本人を殺すなよ」

「人が人を殺すなんて信じられないね。そんな事あるんだ?」

 古今東西の殺人事件という概念を忘れた朱莉。倫理観が非常に心配である。悪友とは飽くまで悪戯に乗っかってくるタイプの友達という意味で使っていたしそう思っていたのだが、どうも悪友の悪とは実の所単に『悪』なのではないかと思い始めた。


 ―――それは考え過ぎだな。


 倫理観はさておき、彼女が良い奴なのは誰の目から見ても明らかだ。それに、ちょっと抜けている所もある(男装を忘れているのかと疑えてしまうスキンシップ等)し、何より付き合いが良い。

 意図もなくじっと見つめていると、朱莉が身長差を弁えて視線を合わせてきた。

「どうしたの?」

 周囲には誰も居ない。何せここは風紀管理部の部室だ。レイナまで出払ってしまえば当面の間人は来ない。


「―――きゃあッ!!」


 不意に抱きしめると、朱莉が女の子っぽい声をあげて身体を縮こまらせた。校内なのでまだ男子の制服を着ているが、誰かがこの瞬間を目撃すれば直ぐに女子だと気が付くだろう。それくらい初々しくて、恥を知っていて、愛らしかった。

「な、何ッ? なになになに?」

「いや、普通の女の子だなって」

「―――君って人は……! 僕のミスディレクションを台無しにするつもりかいッ!」

「ミスディレクションってどの辺がだよ」

「制服の辺りが。一応誤った誘導ミスディレクションって……どうでもいいよ。ねえほんとさ―――こういうの、やめてよねッ? バレたら……責任取ってもらうから」

「お前が性別隠してる事にどうやって責任を取れって言うんだ」

 腹を切れとでもいうつもりだろうか。ゲンガーとの陣取り合戦に後れを取る事になるからそれくらい言われても仕方ないと思っているし、やるかどうかについても考えよう。果たしてそこまでのシビアさは筋違いであった。彼女は完全に男子モードをオフにして、素面で照れながら言った。

「……改めて性別をカミングアウトしてから、ついでに君との交際もカミングアウトする。僕と付き合いたくないでしょ?」

「ああ、可愛いから全然オッケーだけど」

「そうだろそうだ…………え?」

 ビー玉の様に大きな瞳を見開いて、脈絡なく朱莉が三秒間停止した。うーん弄るのが面白くてやめられない。やはり朱莉は普通の女の子だし、丁度いい相方だ。

 さて、この話は一旦終わりにして、また活動を再開しよう。

「ちょ…………今の、本気?」

「え、何がだ?」

「この難聴! 乙女心をもてあ…………後で覚えてろよ」

 廊下に出たらすぐに男子の仮面を被ってしまった。幾ら抜けていると言ってもこの辺りはしっかりしているらしい。そうでないと今まで誤魔化しきれていたのが奇蹟という事になってしまうが。

 

 ―――誤魔化し?


 そう言えば、どうして俺にだけ本当の事を教えてくれたのだろう。文脈を考慮すれば協力してほしかったから敢えて秘密を明かしたと考えるべきだが、どうも何かがズレている気がする。本人に聞いても教えてくれ無さそうだ。さっきの今で少しイジッてしまったし。

「てめえらか」

「あ、先生」

 廊下の先で、銀造先生と鉢合わせた。肩から袋を提げており、時代が時代なら敵の生首を入れて自軍へ持ち運んでいる兵士の様でもある。

「それは?」

「澪奈に頼まれたもんだ。エアガンをバラして詰めた。あのガキ共、ロッカーの中にも入れてやがったのよ」

「あ~……成程。それは罪深い。職員会議の時にでも言うつもりです?」

「勿論だ。最初に見つけたのはオメェらしいな。すげえじゃねえか。引き続き頑張れ」

 褒められた気がしないのは、声音が厳つすぎるからだろうか。それとも単に俺が先生を苦手としているだけ……いずれにせよ愛想笑いで返す以外の方法がない。

「そうだ、オメエの事探してた後輩が居たぞ。もう帰ったがな。『取り戻してくれてありがとうございました』って伝えてくれと」

 そう言えば澪奈に仕事を渡すついでに眼鏡も渡したのを思い出した。そこから何があったか銀造先生に渡り、巡り巡って感謝だけが帰ってきたか。これが現代のわらしべ長者……という程でもない。現物は何もないし。

「何の話? 破局したからって匠君が後輩にコナ掛けたって?」

「言い方!」

「ククッ」

 銀造先生にまで悪いイメージがついてしまった。俺の高校生活、女の子にコンタクトをとるだけでコナをかけたと吹聴されては堪ったものじゃない。朱莉は何を考えているのだろうか。昔からこんな事をする奴だったか?

 だったわ。

 弄られない人が居るとすれば、それこそレイナくらいしかいないが…………部活で三角関係みたいになるのは、ちょっと。さっきのイジりが巡り巡って来たか。それにしても報復が早すぎる。


『そう。何かあったら。頼ってね。絶対』


 ……恋愛相談とかしても後悔しないタイプなら、遠慮なく頼りたい。いっそ彼女になってくれと言ってみようか。やめておこう。風紀管理部が風紀を乱してどうするのだ。

「銀造先生」

「ン?」

「俺ってモテると思いますか?」

「顔ぁマシだが、心が腐ってやがる。ちったぁ潔くなれ。またイジめられたくなきゃな」 


 『他人事』だからいいようなものを、ズケズケと。今の発言で心に致命傷を負った俺は急に死にたくなったが、人生万事塞翁が馬とも言う。


 美子と別れなかったら朱莉について知る事はなかったし。

 イジめられてなかったら風紀管理部にスカウトされる事もなかった。

 謎にパンツを見た罪を捏造しなければ千歳と仲良くなるきっかけは無かったし。

 そもそも引っ越さなかったらきっと俺は狂っていたし。


 人生、そんなものなのかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ていうかアレ?今更気づきましたけど主人公、自分の事を「他人事」って言ってるんです・・・? しかしサイコかゲンガーか二重人格かは分からない・・・
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