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ドッペルゲンガーにアイはない  作者: 氷雨 ユータ
写身学級

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10/173

下準備

「隠してあったみたいだね」

 プレゼントが用具入れの中に隠してあった。否、捨ててあった。その答えが示す所の意味は二つに一つ。美子に思い入れが無かったから、捨てたのだ。それがゲンガーでも本物でも行為は変わらない。俺はどちらか片方と確かに恋仲であったが、もう片方にとってはそんな事知った話ではない。関係を邪推されそこから正体を特定される可能性までを危惧するかは分からないが、色々と邪魔だろう。

 窓から放り捨てられたネックレスを受け取った。直で見ても感想は変わらない。俺がプレゼントしたものだ。

「…………もう、いい。戻ってきていいぞ」

「ん。山本君は?」

「それは鎌かけ次第だ。美子については……まだ何とも言えない。でもハッキリさせる事は出来る」

 ゲンガーの特性を聞いている限り、外見での判別は不可能。近しい関係にある俺だけが違和感を覚えたが、それでも問い詰める事は出来ない。美子がおかしいのは明らかと言っても、他の人から見ればその限りではない。俺が悪い夢を見たか破局のショックで頭がおかしくなったか。どっちかの説明が合理的だ。

「最後に聞いておきたいんだが、ゲンガー同士で協力は出来るか?」

「お互い正体を把握してればね。ただ、それはリスクが高い。自分から偽物と開示しなきゃ相手も開示しないし、バレるのが嫌いな奴等だ。もし相手がゲンガーでなかったらすぐさまぶっ殺してしまうだろうけど、本物なら人間が一人消えた事になる。事件になれば面倒だ。それは『本物』として平和に過ごしたい彼等にとって不本意でしょ」

 そして山本君のゲンガーはやり方が未熟で、本人にも了解を得ていない。そんな迂闊な同類と組むのはリスクが高い。そう、ゲンガーはリスクというものにかなり慎重だ。個人差はありそうだが、無謀な奴ならここまで判別に難儀はしない。


 ―――顔を隠したのがここまで役立ったとはな。


「どうするの?」

「部活が終わるまで時間を潰すつもりだ。あー、予定はないか?」

「匠を差し置いて優先する予定なんて何もないよ。向こう数百年は君の為に使うつもりだ」

「ごめん、流石にそこまで生きられる自信はないわ」

「そう? じゃあ長生き出来るように食生活を管理してあげよう。そうなるとこのままの関係という訳にもいかないから、まずは恋人にしてほしいかな」

「がっつくなあお前。そういう話はまあ……ん。考えとくわ」

「お、脈ありな感じ?」

「調子に乗るな」

 話が脱線したと思ったら求婚された。何を言っているか分からないと思うが、『他人事』なので気にしなくても大丈夫だ。一先ず受け流してから改めて語り出す。

「予定がないなら、吹奏楽部の所で部活が終わるのを待っててくれ。それで部員の中で……一番美子と仲良さそうな奴に聞いてほしい事がある。それで今日は終わりだな」

 出来る事なら明日にでも決着させたい。これ以上恋を引きずると後戻り出来なくなる。それでもいいと思っていた瞬間が無いとは言わない。美子に対して操を立てても良いと。だがそれは、ついさっきまでの話だ。本物であれゲンガーであれ、俺が渡したプレゼントは彼女にとって何の思い入れもないものだったという事。ゲンガーなら当然だが、本物なら…………

 だから、終わらせる。そして新たな恋を始めるのだ。悲しくなんてない。そんな筈はない。誰かが誰かを好きになって破局した。そこまでの話。それだけの『他人事』。

「大丈夫?」

「……ああ。平気だ」

「ん。オッケー。手土産に期待しておきなよ。家に帰ったら直接教えてあげる」

 慰めのつもりか、朱莉の声は優しかった。『他人事』に感情を揺さぶられる程俺の情緒は豊かではないが、その心遣いはとても嬉しい。好きになってしまいそうなくらい―――




「サラッと同棲を既成事実にしないでくれるか?」

「あ、バレちゃった」


 
















 

 

 部活が終わる時間は一律でないけれど、私にとっては些細な誤差。一時間も二時間も瞬きを繰り返せば直ぐ。ほら、もう経った。

「はあーーーーーーーーーーー」

 早く破局しないかなあ!

 匠は傷心してる。その傷口を埋められるのは私しか居なくて、それ以外は膿でしかない。美子は偽物だって言ってるんだからさっさと忘れて別れてくれれば良いのに、まったく、未練がましい男はモテないと聞いた事がないのだろうか。

 そんな不良物件は是非私の方で引き取らせてもらいたい所だけれど、そうもいかない。匠に頼られた事は凄く嬉しい。彼にとって私がどういう存在か、それは把握しかねるけれど、好感度稼ぎにはもってこいじゃないか。

 

 ―――もしも心が読めたなら。君はノリが軽いって突っ込んでくれるのかな。


 思うだろうね。でも真面目には取り組んでるからお目こぼしをしてもらいたい。だって『他人事』だし。

 そうでしょ?

 吹奏楽部の部室を遠くから眺めつつ、私は匠とのデートプランを妄想する。これが現実になると思うと胸が高鳴る。心臓が弾けて、そのまま死んでしまいそうな緊迫感。憤死というものがあるなら、恋焦がれて死ぬ事もあるよね。

 ああ、死んでしまいたい。

 私が死ねば、匠はまた悲しんでくれる? 携帯で尋ねたい気持ちを抑えて、頼まれた通りの仕事をこれから遂行する。部活動を見ていた限り、美子と仲が良いのは繭子と愛歌まなかか。交友は薄いな。どうやって話を持ち掛けよう。

 暫く考えて、名案と呼べそうな案が何一つ浮かばなかった。とはいえ、相手がゲンガーでも声を掛けたくらいで本性を見せるとかはないと信じたい。

「すみませーん。繭子ちゃん居ますか?」

 楽器の片づけが終わらない内に入室。声を掛けたつもりが、顧問の先生が出てきてしまった。教師を介すると他の先生を使った言い分が後で偽装だと看破される可能性があるから、他の言い分を考えないと。

「あの事でちょっと話があるんです」

「あの事って?」

「先生は生徒間のプライベートな話に首ツッコむんですか? 部活中ならともかく、もう部活は終わってるんですよね? 直ぐ済みますよ。一分くらい」

 制限時間を自ら提示すると、顧問の先生は引き下がってくれた。難関を突破した事で先生の介入はかえって強みだ。顧問に呼ばれれば生徒は拒否出来ない。そこからはスムーズに愛歌ちゃんが私の前に運ばれた。

「ちょっと聞きたい事があって」

「何?」

「美子ちゃんの事。ほら、草延匠悟君と付き合ってたでしょ? 別れたって直接聞いた?」

 人様の恋愛事情に首は突っ込まぬという礼儀は持ち合わせているか。それを高校生に求めるのは酷だね。繭子ちゃんは苦々しく顔を歪めて僕を音楽室の外まで突き飛ばした。

「うわッ」

「やだ、聞こえたらどうするの!? 聞いてないわよ、聞ける雰囲気じゃないもの」

「それは何で?」

「だって……彼氏の話振ったら知らない顔するのよ? 別れた原因とか愚痴とか語るとかじゃなくて、本当に知らないみたいに。あのあくどい美子がそんなになるって、もう聞ける訳ないし」

「あくどい?」

「……今まで五人くらいと付き合ってたかな。全員、美子を振ってる。原因は価値観の違いって言うけど、私彼氏の方に聞いたのよ。そしたら皆言うの。不気味だったって」

「……不気味。へえ。因みにその付き合った五人について聞いていい? 裏を取りたい」

「ねえ、そっちの部活で『顧問』にチクるとかやめてね? 確かにあの子性格は悪いけど、匠悟君? と付き合った直後は別人みたいに明るかったの。性格が悪いだけで善い子だから、意地悪とかなしね?」

 秘密は三人以上で共有すると秘密ではなくなる。ここだけの話にしたいかもだけど、繭子ちゃんはもう駄目かもね。『他人事』だから助ける気もないや。後ろの方で美子が物凄い形相でこっちを睨んでるけど、気にしない気にしない。私には関係ない話だ。




 どうせ、明日には決着がつくだろうし。

 

っもう一回だすかも。

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