三身一体~呪いで三身一体になってしまった冒険者達は今日も呪解を目指して旅をする~
魔術と科学が共存する世界ユスティティア。
辺境の地を、一台の馬車が駆け抜ける。
馬車の荷台に乗るのは、一人の女。
赤いロングの髪に赤い瞳。スレンダーな体型に、冒険者とは思えないラフな格好が映える彼女の腰には、二丁の拳銃と二振りの短剣が装備されている。
そんな彼女に、馬車を操る恰幅のいい老人が声をかける。
「お嬢ちゃん、一人旅かい?」
問われた彼女は、閉じていた目をうっすらと開き、
「……いや。仲間がいる。」
一言そう呟くと、話しかけるなと言いたげに視線を老人にやる。老人は詮索することを辞め、口を閉じた。
沈黙が馬車を流れる。
それを破ったのは、老人の悲鳴だった。
「うわぁぁぁ!!︎︎」
馬車が急停車する。女は冷静に馬車の荷台から降りると、二丁拳銃を構え、
「……荷台に隠れていろ。」
そう言うと、彼女は茂みに向かって銃を乱射する。
「ちっ! 相手は女一人! 野郎共! やっちまえ!!」
茂みから現れたのは、十人程の男達。身なりから、おそらく野盗だろう。
「ふっ。女一人……ね?」
彼女は男達の中心に降り立つと、軽く手招きをする。
武器を構えた男達は、一瞬の静寂の後、襲いかかる。
女は、野盗の一人の剣を銃で受け止めると、もう一丁の拳銃を放つ。そして、一人を倒すと、背後から迫ってきた男のメイスを右にかわし、懐から短剣を取り出し、よろけた男に突き刺した。
「ちっ! この女、強いぞ!?」
「ど、どうします? ボス!!」
距離をとりながら、ボスと呼ばれた男が叫ぶ。
「たかが一人! 野郎共ビビるな!!」
ボスの男の言葉に、女はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、
「へぇ……そう。なら、コレならどうだ?」
そう言うと、彼女は馬車の馬を足蹴にし、飛び上がる。そして、光に包まれる。
その光から現れたのは、大きな白い翼を生やした長い金髪をなびかせた男だった。
「な!? 有翼人!? さっきの女はどこに行った!?」
混乱する野盗達に有翼人の男は、
「女? ああシャインのことか! 彼女なら今は私の中だ! そんな私は誰だって? いいとも! 答えよう! 私はラファ・シファー・ステンディダンバルネル!! 天才魔術師と呼んでも過言ではないとも!!」
自信満々に言う男・ラファに、野盗のボスは、
「なんだコイツは!? ええい! 弓と銃だ!!」
そう言って、銃と弓でラファを狙う。一斉に放たれた弓矢と銃弾の雨を、一歩も動かずに、いつの間にやら手にしていた杖を一振りし、
「プロテクト!」
一瞬にして、周囲に障壁を張る。
「な!? 詠唱無しで魔術だと!? 馬鹿な!?」
驚く野盗達に、ラファは、
「ふははは!! コレぞ天才の技よ! さて! 次は私の番と行こう!! エクスプロージョン!!」
ラファの頭上に、赤い炎の球体が浮かぶ。
「おおい!! ボス! コレやばいんじゃ!!」
叫び焦る彼らの姿を笑いながら、ラファは身の丈を超える火球を一気に放つ。
「ははは!! どうだ!? この天才的な魔術は! 恐怖しただろう!?」
なんとか火球をかわした野盗達だったが、その姿は既にボロボロで、大半が気絶していた。
「ちぃ! おい、お前ら! 逃げるぞ!?」
残りの手下達を引き連れて逃げようとするボスに、
「おっと! それはいけないな! フレナ! トドメは任せるとも!」
そう言うとラファの身体が光り、次の瞬間、降りてきたのは、褐色の肌に黒い髪に青い瞳のエルフの青年だった。
「な!? ダークエルフだと!? またしてもどこから!? なんなんだ!? お前らは!?」
狼狽えるボスと手下達に、ダークエルフの青年、フレナは肩にかけたホルダーから身の丈程の大剣を握り、
「……悪いけど、倒させてもらうね?」
そう言うと、大剣を一振りし、野盗達の武器を一瞬にして破壊してしまった。
「あああ! ボス! 武器が!!」
「くっ! に、逃げるぞ!!」
意味のわからない展開に、とうとう戦意を喪失した野盗達は一目散に逃げ出して行った。
「あ……行っちゃった。」
ポツンと佇むフレナと、馬車の荷台に隠れていた老人と目が合う。
「ひ、ひぃ!! お助けを!!」
野盗達との戦いを見ていたのだろう。得体のしれない彼らに恐怖で命乞いをする。
その様子を見ていたフレナは、
「……うん。ボクじゃ無理だから……ラファ、お願い。」
光に包まれ、先程の有翼人・ラファに姿を変える。それを見て、さらに恐怖でいよいよ失禁まじかの老人に、
「なに、気にすることはないさ! 貴方は神秘を見たのだから! だが、この神秘は秘密でね? なので、記憶を消させてもらうよ?」
そう一言優しい声で言うと、老人に杖を向け、魔術で記憶を消した。
***
「う、う〜ん」
夕暮れ時、老人は目を覚ます。
「起きたか?」
そこに居たのは、赤い髪の女性だった。
「あれ? あっしはなにを?」
困惑する老人をよそに、荷台に居た彼女は、
「さぁな? 白昼夢でもみたんじゃないか? それより、早く馬車を出して欲しいんだが?」
「し、失礼しやした!」
急かされた老人は馬車を走らせる。その様子に安堵したのか、彼女は目を閉じる。
(おやおや、シャイン? いくらなんでも愛想がないなぁ)
内側から話しかけられ、シャインは鬱陶しそうに答える。
(うるさい。記憶の改竄には成功したんだから、後はどうしようと勝手だろう?)
そんな他愛もない会話を、内なる世界でする。
彼女達の目的はただ一つ。三人分の魂に、一つの身体……まさに三身一体のこの状態を、いや、この呪いから解放されること。
その日を待ちながら、彼女達の旅は続く。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
この小説は、かつての私がかつての仲間とリレー小説をしようと生まれたキャラ達です。
もうその企画は消滅したので、今回供養として掲載させて頂きました。