『困った時はできる人に頼むべき』
あの日から私はずっと考えている。
あの日とは勿論、グレイにお菓子を投げつけて逃亡した日の事だ。
あれから四日。私は一度もグレイの所へ行っていない。アレクに約束したということもあるし、何より気まずいからだ。
少し心配だが、もう二度とアレクに黙って行くつもりはないので今の所はどうしようもない。
なので暇なここ数日、ずっと考えていたのだ。
どうやったら、グレイ達の飢えを無くせるのか?と。
答えは簡単にでた。
畑を作ればいい。
でもそのための道具も種も何もない。そこでこの考えはずっと止まっているのだ。
「あ〜あ。材料さえあれば、それっぽいもの作れるかもなのに。……いや、やっぱ無理かな?」
考えは纏まらない。それどころか、ループしてるような気さえする。
「はぁ。どっかに落ちてな………あ…」
そこで私は思い至る。私にはアレクという万能家族がいるではないか、と。
今までなぜ思いつかなかったのか。もしかしたら無意識のうちに避けていたのかもしれない。でも思い出したからにはもういくしかない!
ただ、散々怒られた事にひどく関係してるので、話を切り出しにくいのも事実。
私は考えた末、あることを思いつく。
よし、これでいこう。
私は覚悟を決めて、その日の夜、アレクに話をすることにした。
「ア、アレクくん。私、どうしても、助けたい子達がいるの。だから農具がほしい!」
寝る前に思い切って話を切り出せば、自分の口からそんな言葉が出てきた。
うん。自分でも意味わからん。
どうやら緊張のあまり、考えとは違う言葉が出たらしい。
本来は"土下座再び"をするつもりだったのだ。
……よし。押し通そう。
私は悟りを開いた。どうせ見た目は幼女なのだ。この際、それを利用してやろうと開き直る。
土下座よりも、そっちの方が遥かに可能性が高そうだと思ったからではない。断じてない。
「あのね、アレクくんに黙って外にでた時に、子供を助けたの。皆飢えてるから、畑を自分で作ればいいと思ったの。だから、農具と種が欲しいの。だ、だめかな?」
私は言いたい事を一息に言い切る。それはもう、誰にも口を挟ませない勢いでだ。次いでに上目遣いも忘れない。
これで必死な幼女の姿はアピールできただろう。
私はキラキラと期待を込めた瞳でアレクを見つめる。
そんな私をしばらく黙って見つめていたアレクは、突然その表情を緩めると苦笑した。
「仕方ないなあ。今回は手伝うよ。でも、次はないからね?」
私はそれに全力で頷く。自然と表情も満面の笑みになった。
「ありがとう!アレクくん!」
(やった!これで問題解決!)
私は興奮気味にお礼を言いながら、心の中でガッツポーズをする。
これで第一関門突破だ。
後は場所と人手の確保。肥料とかもいるのだろうか?
私は喜びながらも冷静に考える。
しばらくして、次に取るべき行動や諸々を考え終わる頃になって、私はアレクにじっと見られていたことに気づいた。
え!?何!?
ビックリして体が一瞬固まる。それに気づいたのか、アレクが寝るように私を促してきた。
「もう夜も遅いよ。嬉しいのはわかるけど、取り敢えず寝ようか。」
私はそれに大人しく頷く。ここで逆らっても、何もいいことがない。
「うん。おやすみなさい。」
そう言うと、別に眠くはなかったが一応目を閉じる。
するとあら不思議。幼女の体だからなのか、眠気がすぐにやって来た。私はそれに抗う事はせず、大人しく深い眠りについた。
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「エ……。…リ……、………て。エリ…、おきて。」
私は自分を呼ぶ懐かしい声に目を開ける。
一番はじめに視界に入ったのは、一面水色の天井。何か文様も描いてある。
私がそれに見惚れていると、さっきの懐かしい声の主が目の前に現れた。
「エリー。今日はお兄様が来てくれたわよ。だから起きて。」
私はどこか懐かしいその人に、ゆっくりと手を伸ばす。そこで自分の手が赤ちゃんになっている事に気づく。だがそれに驚いたのも一瞬で、私の意識は直ぐに懐かしいその人に戻った。
でもその人の顔は全然見えない。そんな不可思議な現象に、しかし私は全く戸惑っていなかった。
逆に、懐かしさで涙が溢れてきたほどだ。
この人の事を知りたい。でも知りたくない。でも本当は知りたい。そんな思いが心の底から湧き上がってくる。
「う、うわぁ。わぁ。」
「あらあら。どうしたの?お腹が空いたの?」
私をあやす為にゆっくりと抱き上げてくれるその人の腕の中で、私はより一層涙を流す。
懐かしくて。寂しくて。悲しくて。知らない人のはずなのに、知っている人。
私はそんな思いの中で、ただただ泣き続けることしかできなかった。
やがて幸せの終わりを告げるように、激しい眠気が襲ってくる。
私はそれに抗おうとし、でも失敗して次第に意識が薄れていく。
最後に聞いたのは、懐かしいその人の子守唄。
「夜は静かに更けていき〜、子供の声は寝言に変わる♪」
その歌声を聞きながら、私は思った。
歌詞が安直すぎではないか?と。
そこで私の意識は途切れたのだった。