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『人助けは自分の為に』

 困惑している私を置き去りにして、グレイはボロボロの家の中へと入っていく。

 グレイを支えている私も自動的に着いていくことになったが、まだ心の準備ができていない。

 私は今にも崩れてきそうな家に少し怯えながら、恐る恐る家の中へ足を踏み入れた。  


 あ、案外中は普通だ


 どうやら最悪の事態は回避できたらしい。中は私の家とそう変わりはなかった。

 まあ果たして、板張りに汚れやシミが大量にある事は普通と言えるのかは疑問だが。

 慣れって恐ろしい。


 私が自分の順応力の高さに今更ながら震え上がっていると、グレイが私を見つめているのに気づいた。

 いや、いくらなんでも見つめ過ぎ。流石に照れるわ!


「何?」


 私は必死に平静を装いながら聞く。まあどれくらい隠せてるかは分からないが。


「ねえ、本当にいいの?もう食べちゃった僕が言うのも何だけど、()()()を会ったばかりの子供なんかにあげちゃって。」


 え?パナセって何だ? 


 私は疑問に思ったが、余りに真剣なグレイにそれを聞くのは憚られて、日本人のときの癖で取り敢えず頷いておいた。

 だけどどうやらそれで正解だったらしい。グレイは心底嬉しそうに笑うと、ありがとうと私を抱きしめてきた。

 よく分からないが、真剣なグレイが消えて私も一安心だ。


「じゃあ仲間の所へ案内するね。」

「あ、うん。」


 グレイは案外せっかちかもしれない。まあ子供が飢えてるならそれも仕方ないのか?

 行動が早いグレイに少し置いてきぼりになりながらも、私は案内されるがまま後を着いていく。

 グレイの家は案外広く、私の家と同じく二階があった。そこのギィーギィー音のする階段を何とか上がりきると、子供達の姿が直ぐに視界に入る。

 

 これは…


 私は絶句した。

 子供達は布を被って一塊で寝ていたが、それでも全員が痩せている事ははっきりと分かる体つきをしていたのだ。

 

 私がそんな風にしばらくその場で固まっていると、グレイが申し訳なさそうにしながらも声をかけてきた。


「えっと、近づきたくないなら僕がパナセを食べさせてあげてもいいかな?」

「えっ!?」

(やばい!なんか勘違いしてる!)


 私は焦る。

 どうやらその場から動かない私の事を、子供達を触るのが嫌だからと解釈したらしい。 


「違うの!グレイくん以上に、痩せててびっくりしただけなの!すぐにお菓子あげるから!」


 私は慌てて子供達に近づいていく。

 傍によると、より一層子どもたちの様子が見えるようになった。しかもそれはどう見ても、餓死寸前でこのままでは死んでしまうと分かる状態。

 お菓子がどれだけ足しになるかは分からないけれど、無いよりはましだろう。

 私はそう思い、そっと一番近くの銀髪の子供に触れると、声をかけながらお菓子を差し出す。


「これ、あげる。だからね、もうちょっと頑張って。」


 私はそれが気休めだと分かっていた。グレイは回復したが、それ自体も何故だかは全然分からない。

 でもグレイの言葉から、このお菓子が特別なものではないかと思ったし、その希望に縋りたいのだ。

 

 私は偽善者ではないつもりだが、それでも小さい子供を見捨てるなんてそんな事はしたくなかった。


 よし。

 私は一度周りを見回して頷くと、グレイの元まで戻る。

 ちゃんと全員にお菓子を食べさせる事はできた。

 

「ごめんね。もう残ってないの。だからこれ以上は食べ者あげられない。」


 私は飢えを凌げるほどの食料は持っていない。

 子どもたちの様子を見て、その事がなんだか少しだけ申し訳なくなった。

 だからグレイに謝る。自分の心の平穏を守る為に。


「……いや、もう十分過ぎるほど貰ったよ。エミリーは僕達にこれ以上ないほど尽くしてくれた。このスラムでこんな事は普通ありえないんだよ。」


 それでもグレイが嬉しそうにそう言ってくれたから、私は少しだけ心が軽くなったような気がした。










「それじゃあ、また明日ね。」

「うん。またね。」


 子供達にお菓子をあげて一時間ほど経った頃、私は家に帰ることになった。まだお昼になったばかりの時間帯だが、当初の目的は既に果たせなくなっている。

 なので取り敢えず家に帰って、ご飯を食べることになったのだ。

 

 本音を言えば、このまま子供達を残していくのは少し心配だが、私がいたからと何かできるわけでもないのも分かっている。なのでこの後のことはグレイに任せて、私はまた明日来る約束をした。


「気をつけて帰るんだよ。転けないようにね。」

「うぅ、わかってるよ!じゃあばいばい!」


 こいつっ、蹴った事根に持ってやがったのか!微妙に笑顔が黒いぞ!大人気ない!


 私は少し後ろめたさを感じながらも、逃げるようにその場をあとにする。まだ速くは走れないから、ゆっくり走って。

 その次いでに手を振る事も勿論忘れない。


 出会いとお別れの挨拶は大事なのだ!


 という事で、また明日!



 追記報告。

 家には何故かアレクがいました。そして黙って出て行っことをめっちゃ怒られて、心配されて、三日間外出禁止になりました。

 アレクの新たな一面を見た。というか、アレクはめっちゃ罪悪感を突いてくる怒り方をする。

 

 と言う事で、約束守れそうにないわ。ごめんねグレイ。

 私は心の中で謝る。


 あと、お菓子あげたことも次いでとばかりに即バレした。でも何故か新しいの五個貰った。前よりも増えた件。何故だ?

 これって、珍しいものなんじゃないの?グレイの言い方的にそうとしか思えなかったんだけど。


 まあくれるって言うから貰いましたけどね!

 でもねぇ、ほんとにこれ私にあげちゃっても良かったの?アレク?

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