『勇気と無謀は違う』
とまあ、この世界に来たばかりの頃の話をしたが、それから四日経って今ではもう受け入れている。
おそらく私は転生、もしくは憑依をしたんだろう。だって私自身が幼女の体な上、日本人には見ない白髪だった。瞳の色はまだ分からん。
まあもちろん白髪は少し驚いたし、ショックも受けたが私は順応性が高いのだ(えっへん)。
ここが何処で自分が誰だかわからないが、考えても仕方ない事は考えない方がいい。
いつか絶対に思い出してやるとは思ってるけどね!(えっへん、二度目)
そうやって私が心の中で誰にでもなく宣言していると、階下から声が聞こえてきた。
「エミリー!僕は行ってくるから。部屋から出ちゃだめだよ。」
「わかってるー!いってらっしゃーい!」
アレクは朝のいつも決まった時間に何処かへ出掛けていく。それを見送って一日ゴロゴロして過ごすのが私の生活だ。
あと、あれからアレクは本当に名前をつけてくれた。今の私は『エミリア』だ。愛称はエミリー。
結構気に入っている。
「にしてもほんとに暇ー。」
最初は学校なくてラッキーとか思ってたけど、今じゃすることなさ過ぎて暇だ。
アレクに禁止されているから外にも出れない。だから未だ、私はこの世界の事をあまり知らない。
と言っても、偶に見える外の様子から、私は何となくここは地球で言うスラムというものではないかと思っている。
そして私は孤児、と。
まあ、ここでの生活に不自由はないから、孤児だとしても別にいい。ご飯はアレクがどっかから持ってくるし、衣服とかも同じだ。
それに記憶にない親なんて愛着が持てないしね。もしかしたら捨てられたのかもしれないし。
それにここには血は繋がってないけど、家族もちゃんといる。アレクという兄が。
あ、でも一つだけ不満があった。毎日お風呂に入れなかったことだ。まあ、それも今では解決してしまったけど。
あれはほんとに凄かった。
だって私は体を洗いたいと一言漏らしただけなのに、アレクがお湯と布、石けんまで毎日準備してくれるようになったのだ。申し訳ないけど、正直助かった。
というか、今更だが。本当に今更だが、アレクはなぜ私と一緒に暮らしてるのだろうか。
ここ数日一緒に過ごして分かったが、アレクは超有能だ。何でもできる。
こんな役立たずを抱えてではなく、一人で暮らした方が絶対楽なのに何故だ。
うーん。やっぱりなにもしてないってのはやばいよなー。いつも同じ時間に外出するって事は仕事に行ってるんだよねー?
私はどうしようかと考える。
仕事について行きたいとお願いするかな。でも駄目だと言われる未来しか見えない。
ならどうするか?
そんなの決まってる。ちょっと怖いけど、こっそり後をつけるのだ。
もし、今ここに私以外の誰かがいたら、この考えを止めたかもしれない。
いつ思い返してもこの時の判断は間違っていたと思える。
まあ結局は誰もいないのだから、これもまた運命だったのだろう。
――翌日
「エミリー!行ってくるよ。外に出たらダメだからね!」
「うん!わかったー!」
出るけどね。
アレクが出掛けていくと、私は十分距離が空いたことを確認して恐る恐る外に出る。
そして私にとっての初めての外は、ここが異世界だと改めて突きつけられるような景色だった。
見える範囲の家は全部木造で、壊れかけの物ばかり。道端には痩せ細った人達が座り込んでいた。
「やっぱりスラム。」
日本にはスラムなんてない。
「それに空が…」
初めて外に出て知った衝撃の事実。
この世界の空は青ではなく、薄紫色をしていた。
「これが、異世界…」
衝撃の事実の数々は私を打ちのめすのに十分だった。
知っているのと見るのは違う。
それを改めて思い知った。
「……あっ!アレク君は!?」
暫くボーッと立っていた私は、そこでようやく自分の目的を思い出して慌てて周りを見回す。
だけどアレクの姿は何処にも見当たらなかった。
「……帰ろう。」
私は肩を落として、大人しく家の中へ引き返す。
家の中に入ると、私は大きくため息をついた。
短時間でこんなに疲れるなんて。
「…私って恵まれてたんだな」
私は小さくそう呟く。
外に出て知った数々の事実。それで一番衝撃だったのは、一部の人に虫がたかっていたことだ。
私もアレクが居なければ、近い将来ああなる。それを嫌なほど理解してしまった。
「…このままじゃだめだ。私もアレクくんの役に立たないと。」
アレクに見捨てられたら私が終わる。私は改めてアレクの後をつけていくことを決意する。
「でも無計画じゃだめ。ここがスラムというのはまず間違いない。地球と同じなら一人歩きは危険。まずは情報がいる。」
私は今夜アレクに聞いてみることにした。計画は内緒で、外の様子だけを探る。
勝負は夜。アレクに気づかれないように、質問には気をつけて。
外出は情報が集まった後!
こうして私の無計画にして無謀な挑戦は、少し計画的になった。
ただし相変わらず無謀なのは変わらない。そして何故アレクの役に立つために後を着けていくという考えになったのか…。これでは迷惑をかけるだけである。
その矛盾に私が気づくのは、随分後になってからであった。
その日の夜、私は夕食の時アレクに質問してみた。
結果、ここが風の都と呼ばれる領土のスラムで、この国にはここしかスラムがないこと。あと、アレクの仕事先がスラム自警団の雑用だとも知った。
それ以外は教えてくれなかったが、自警団があるのならここは私の知っているスラムとは少し違うのかもしれない。
私の外出への恐れが少し小さくなった。
それと、明日アレクは仕事が休みだそうで、計画決行は自動的に明後日だ。
明日は初日以来の、アレクがずっと家にいる日なので少し楽しみにしている。
就寝直前。
初日以来、アレクと私は一つの布を二人で使っているのだが、一つ聞きそびれたことがあったので寝る前にアレクに聞いてみることにした。
「アレクくん。私のお母さんのこと何か知らない?」
これは外に出て以来、ずっと聞きたかったことだ。
愛されていたのか、恨まれていたのか。私が何故スラムにいるのか。そういう事を無性に知りたくなったのだ。
それをアレクが知っているとは限らないと分かっていても。それでも、少しでも可能性があるなら聞いてみたかった。
「……ごめんね。僕も分からないんだ。エミリーと会ったのは最近だから。」
残念ながらアレクも知らないらしい。まあ半ば予想通りだ。少し残念ではあるが。
「……そうなんだ。」
「ごめんね。知りたいよね。親のこと。」
「え、いや!大丈夫だよ!私にはアレクくんがいるから!」
私が残念そうな声を出したからか、アレクが申し訳なさそうに謝ってきた。それを慌てて否定すると、アレクは少し嬉しそうに笑ってくれた。
「うん、ずっと一緒って約束したからね。」
「う、うん!そうだよ!えっと、アレクくん、おやすみなさい!」
私は少し恥ずかしくなって逃げるように眠りにつく。幼女の体はこういう時にすぐ眠れるから便利だ。
「ふふ、おやすみ。エミリー」
アレクの優しい声を聞きながら、私はそのまま眠りについた。