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仮面夫婦  作者: ツヨキチ
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こんなはずじゃなかった。

こんなはずじゃなかった。




明美は最近、自分の人生を振り返ってそう思い返す。


明美が結婚したのは一昨年の冬だった。

明美は当時、大手ビール会社で営業事務の契約社員として勤めていた。


結婚相手である宗一郎とは婚活アプリで出会った。

年は一回り上だ。

出会った時は既婚者であった。

結婚のきっかけは、離婚調停にキリがついたことだった。

結局、プロポーズも何もなく、なんとなくそういう感じで結婚してしまった。

結婚式を挙げない人生なんて考えられなかった。

入籍日なんて占い好きな義母が決めた。

明美は自分の人生は全部自分で決められると思っていた。

とくに特別重要な出来事に関しては、ちゃんと自分で決めたかった。






それがどうして。





明美は途方もなく疲れていたせいだと思っていた。

明美はもともと研究者になりたかった。

その夢に挫折し、今度は映画の脚本家になろうと仕事をしながら学校に通った。

しかし本当は、脚本家という夢は、契約社員という自分の身分を肯定するための口実でしかなかった。

夢に挫折し、その絶望の中で、会社員にすらなりきれない自分を受け入れられなくて、何かになろうとしている自分になるしかなかった。

仕事も何度もやめた。

そして今回もまた仕事を辞めたかった。




仕事を辞める場合は、大体が人間関係で悩んだからだった。

明美は、気が合わない人とは付き合わなければいい、もしくはどうしても付き合わなければならない場合はうまく付き合える距離感が大事だと思っている。

それが大抵の職場では通用しない。

結局、第一印象に好感を持ってもらえなかった場合、うまくいかない。


今回の職場も失敗した。

同期と折り合いが悪くなり、その同期が明美の悪口を言ったのだ。

社交性が高い同期の言うことを信じない人はいなかった。

というより、本当かどうかはどうでもよくて、みんな悪口を言う対象が欲しかっただけなのだ。

明美は何度経験しても、そういう人間関係の不自由なところが苦手だった。

許せないという程、気が強くはないのだ。




要するに明美は自分の現状から逃げ出したのだ。




それが結婚。




いまの明美にとって、結婚よりも、今の自分をいったんリセットすることの方が最優先だったのだ。




つまり自分で決められなかったわけじゃないのだ。

これは今の明美が望んだ選択だ。

当時人生で最も重要な出来事だと思っていた結婚が、それ以上に重要なことのために優先されなかった。

そういうことだったのだ。




明美は、ゴミをまとめ、外にゴミを出そうと、外履き用のサンダルをはいた。

玄関の扉に手を掛け、ふと立ち止まった。





結婚は自分が一番輝いている時にするものだと思っていた。




そう、明美は輝きたかったのだ。



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