93話 神界での話
sideレイン
「あいつ、言いやがったな……」
「主どうかされたので?」
「アシュエルの奴、ヨルダウトに世界のことを話したみたいだ」
「別によろしいではないですか?秘密、というわけではないですから」
「確かにな」
苦笑する。
確かに、絶対に漏らしてはいけない、というわけではない。
というか、このシステム自体、レインが考えたものだ。
「それに、ヨルダウトにも知る権利はありますよ」
「ふん……自分の実力をきちんと把握しているな。アシュエルが相手をしたのは正解だったな」
「ええ、アシュエルも3割程度の力は出していましたし、楽しそうでした」
「お前は相手になってやったりしないのか?」
「私が、ですか?」
きょとんとした顔で聞き返す。
「今は、アストレアと訓練しているようですので」
「だから、刀にこだわっているのか」
アシュエルの武器は、元々、剣や魔法が主体だった。それが、防御が間に合わない時だけ魔法を使い、攻撃は刀を主に使いだした。
0から100への移動法はアストレアから学んだものだ。完成度的にはほぼ完璧といっていいだろう。
「呼びましたか?主」
スッと気配もなく現れるアストレア。
「ああ、アシュエルに稽古をつけているらしいな?」
「お許し頂けるのならこれからも、つけたいと思うのですが?」
「いいぞいいぞ、どんどん強くしろ。セバスも鍛えたいとか言っていた奴は、どうした?」
「ええ、基礎と応用を少し教えていますので、後は実戦でやってもらおうかと思い、魔界に捨て……もとい、放り込んできました」
「まじか、あの程度で魔界になんて、数分で死ぬぞ。ま、いいけど」
レインは、心配する言葉を言ったが、次の瞬間には、興味が薄れたのかどうでもよくなった。
それに対し、セバスは苦笑する。
「それで、せっかくだ。アストレア神界に行くか?」
「よろしいので?」
「ああ、前に言ったからな」
急な誘いにアストレアはびっくりした様子で答えた。しかし、頬は緩んでいる。
「セバスはどうする?」
「私は、遠慮させていただきます」
珍しく、行かないと言った。
何か用事があるのだろう。
そうか、とだけ答え、アストレアを連れて、神界へ転移する。
神界のある一室で、ある上級神が自らの上司である神の元へ、赴いていた。
コンコンとノックをし、反応を待つ。
「アリアです。入ってもよろしいでしょうか?」
少しの間が空き、返事が返ってきた。
「いいですよ」
凛とした声音で、思わず聞き惚れてしまう、そのような声だ。
「失礼します」
アリアの上司、アテナがいた。
戦う時は、鎧姿だがさすがに室内では、普段着を着ている。だが、とても薄手だ。男ならば、目のやり場に困るであろう恰好をしている。その体はシミ一つなく、透き通っている。同性であるアリアでさえ、見惚れてしまう程だ。
「今日はどうしましたか?」
ぼーっとしていたアリアは、アテナの声掛けで我に返る。
慌てて、今日ここに来た用件を言った。
「それが、普段のように私の世界に転生者を送ろうとしたのですが、ある人物と会いまして」
「ある人物?」
首をこてんっと倒し、可愛らしく聞いてくる。
「はい、名を聞くことは出来ませんでしたが、ありえない程の魔力でした。最高神様以上の」
「それは……っ。本当ですか?」
「はい」
「そうですか……」
うーんと考え込む。
しばらく考えていたが、それだけでは分からないようだ。
「容姿はどのような感じでしたか?」
「日本人らしく、黒髪黒目で、顔は凄く整っていました。かっこいいというよりは、美しいといった感じでした」
「美しい……ですか。神の遊戯で人間の振りをしているというわけでもありませんよね。名前が分からなければ確認のしようがないのですけど……」
困ったように、顔を歪めている。それでも、全く美しさは変わっていない。むしろ、儚げな印象を与えているだろう。
アリア自身もレインに会った瞬間にアテナのもとを訪れる予定だったが、色々とあって行くことが出来ないでいた。転生神としての仕事や管理する世界のごたごたのせいで、遅れに遅れていた。
「あ、分かりました!」
手をパンっと合わせ、いいことを思いついた、とばかりに微笑む。
「転生先を特定すればいいのではないですか?」
「アリスティアのどこに転生したのか調べればいいと、言うことですね!」
アリスティアとは、アリアが管理する世界、レインが転生した異世界の名前だ。
確かに、誰かが分からなければ、調べようがないが、転生先が分かっているのならば、そちらから調べればいいという、アテナの考えは理にかなっている。
「では、早速……っ!」
調べようとして、アテナの部屋に、2人が気配もなく現れた。
現れた人物を見て、アテナは即座に椅子から下り、跪く。
「よ、ようこそいらっしゃいました……!」
「え、え……え?」
声が震え、よく見ると体も少し震えている。
アリアは、最高位の神であるアテナが震えながら跪いていることに理解が及ばずおろおろとしている。
「跪きなさい、貴様如きが主のご尊顔を見ることなど許されないのですよ」
アストレアの威圧を込めた言葉により、強制的に跪かされる。
レインは、跪いている2人を無視し、アテナが座っていた椅子に座る。
「面を上げよ」
レインの許しに合わせ、2人が顔を上げる。
アリアの方は、アストレアからの威圧が消え、動けるようになった。
「それで、なぜあなた様がここへ?」
すると、何かを気付いたように、ハッと口を抑える。
「アリアが言っていたのは、あなた様のことですか……?」
「ん?ああ、上司っていうのは、お前のことだったのか。まぁいい、上級神如きでは知ることを許されていないが、俺が、聞けと言ったからな。教えてやろう」
「お茶です」
アストレアが、どこからともなくティーカップを取り出し、お茶を注ぎ、レインに出す。
一口飲み、喉を潤す。
「ふぅ。まずは、『世界』のこと、をどれだけ知っている?」
「…………」
レインが聞いているのに返事がない。
アリアに問いかけているに、自分にかけられたと思っていないからだ。
十数秒無言の時間が経った。
「主は貴様に問いかけておられる。答えなさい」
ついに、アストレアの我慢の限界がきた。
「私ですか!?」と驚いた様子で、自分の知っていることを話す。
「え、えっと、生物が住んでいる場所?です……っ」
「……はぁ、よくそれで管理できるまでになったな。まあ、正解ではないが、完全な的外れというわけでもないし、いいか。それで、『世界』はお前が管理している他にも無数にある。そして、世界には数字が付いているのはしっているな?」
「はい、第1世界から始まり、数字が小さければ世界レベルが高いと言われています」
「そう、第1から5までは、五帝が治めている。そして、五帝の一人がここにいるアストレアだ」
「え!?」
まさかこんなところに、最高位の世界を管理している神がいるとは思わなかったのか、今までの態度を思い出し、青褪める。
だが、次の瞬間に、そのアストレアを召使いのように扱っているレインに対して怖れの感情が沸きあがる。
ようやく、立場を弁える存在だと気付いたことが嬉しいのか、アストレアは、うんうんと頷いている。
「だが、そんなことはいい。お前たち神族と俺らでは違うからな」
「神……族?」
「そうだ、ステータスにそう表記されているだろう?」
レインにそう言われ、気付いたように顔を上げる。
「神眼を通して俺たちを視てみろ。言っている意味が分かるはずだ」
「……これはっ、なんで……っ!?」
「上級神とか最高神だとか言っているが、所詮創られた、システムの中の存在だ」
「…………システム」
「そうだ、日本にも人を管理するために戸籍というシステムがあるだろう?たくさんの人間を管理するために」
「確かに……」
「全ての世界にステータスがあるのは、その戸籍をと同じ理由だ。ステータスで一人一人管理している」
驚愕の事実を知って絶句している。
アテナは知っていたのか、だんまりしている。
「そして、世界を管理している神ですらステータスがあることがおかしいと思わないか?」
「はっ!」
咄嗟にあり得ない考えが浮かんだアリアは、頭を振って頭から追い払う。しかし、今までの情報からそれが、思いついたことが本当のことだと、言う確信があった。
「神……ではなく、神族という種族だ。そして、システムの外にいるアストレア他、俺が創った神々は完璧な存在と言える」
「で、では、私たちは……いったい」
「お前たちは、俺の配下によって創られた種族だ。それが、神と神族の違いだ」
「そん、な…………」
膝から崩れ落ち、全身の力が抜ける。
支配者だと思っていたのに、支配者に創られただけの存在だと言われたも同然だからだ。
「俺の配下は、もちろんシステムの外にいる。見分け方はステータスがあるかないか、簡単だろう?」
「……」
「ふむ、上級神になっていたことが裏目に出たか」
中途半端に知っていたがために、受けた衝撃は大きい。
「だからと言って、お前たちは今まで通りにしていればいい。世界を管理し廻せ」
「…………はい」
「そして、お前が一番聞きたいであろう俺の正体は、もう分かっているだろう?」
「あなた様が、私たち全ての創造主、というわけですね」
ここ数分の間でげっそりとしたアリアは、ようやく肝心の知りたかったことを聞けた。
「それと、世界は第1世界が最初ではない。俺の世界、零の世界から全てが始まった。基本的に神は零の世界にいるが、神界の王、魔界の王、冥界の王は俺が直接創った管理者だ。ずっと、主は変わっていないだろう?」
「そう、ですね。主が変わったという話は一度も聞いたことがありませんね」
アテナが少し考え込み、言う。
「俺らはこれで帰るぞ」
「もう、帰られるので?」
「いや、下界に戻るわけじゃないぞ。よるところがあるからな」
「では、行きましょうか、主。……そこの……アリアとか言ったな。主は、貴様が話すことなど本来なら出来ない程高貴な方だ、感謝し今日という日を決して忘れるな」
アストレアは、普段は物腰柔らかな雰囲気だが、それは、主であるレインとその配下のみに向けてであり、それ以外にはいかなる相手にも、興味がない。特に、レインに無礼を働いた者には容赦がない。
「ではな」
扉を開け、出る。
神界は、通路も壁も白い。逆に魔界は黒い。
「それで、どこに行かれるので?」
「ああ、フレイヤのところだな」
「あの者のところに!?なるほど、それで、私を連れて来たと。そういうことですね」
「まぁあながち間違ってないな」
笑いながら答える。男を連れて来たのには理由があった。
「アシュリーとかクリスティを連れて来たら、神界の俺に近づいてくる女神が消されかねないからな」
「確かに、そうですね」
ふふふ、と笑いながら相槌を打つ。
アストレアも容易に想像がついたからだ。
「確か、向こうだったな」
神は、自分の空間を持っている。人間でいうところの国のような感じだ。
よくある、神界には神殿があって、その中にいる……とか、雲の上にある……とか、そんなことはない。確かに神殿はある。そして、雲の上に自分の空間を持っている神もいる。が、そんなめんどくさい場所に住み続けようとするのは余程馬鹿なやつくらいだろう。普通に住みやすいように、創る。
迷いなく歩みを進める。
「アスは、どうする?」
「私は武神にでも会ってきましょう」
「そうか」
ニコッと笑い、レインとは別方向に進む。
それから、レインがウィルムンドの自室に戻ったのは、1週間後だった。
1週間も何をしていたかというと、もちろんナニだ。
分からない人は、ご想像にお任せします。
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