92話 アシュエルVSヨルダウト
アシュエルとヨルダウトが向かい合う。
一方アシュエルは、神々しいオーラを纏い、一方ヨルダウトは、負のオーラを纏っている。さながら、勇者と魔王の最終決戦のようだ。
あながち間違ってもいない。
「あれ?戻ってない?」
「ふむ?」
そう。ヨルダウトは、吸血鬼の肉体から、骨の体に変わっていた。
濃くなった死に耐えうるために。
「まぁ良い。こっちの方が、いいということだろう」
「んじゃまぁ、やろうか」
死合うのに見た目など関係ない。
合図もなしに上空に上がっていく。
2人が戦うのに地上だけでは狭すぎる。
地上から数十m離れたところで止まり、アシュエルが駆ける。
「はっ!ていっ!」
掛け声は気の抜けるような声だが、その一振り一振りは鋭い。対して、ヨルダウトは、徐々に後退しながら紙一重で躱していく。それでも、アシュエルの剣戟を全て躱すことは出来ない。避けれない攻撃は、手で払い、防御陣で弾き、結界で受け流していく。
反撃とばかりに、隙を作るため、腕の骨に突き刺し受け止める。
超至近距離で、魔法を放つ。
「『極・千雷』」
白い千の雷がアシュエルの頭上から降り注ぐ。
「曲がれ」
一言そう命じた。
すると、アシュエルに降り注いでいた雷がアシュエルの頭に当たる寸前で、クイッと逸れた。
雷に気を取られている間に、右手で貫手を放つ。
防御結界を張るが、ヨルダウトの手に当たった瞬間ぼろぼろと崩れ落ち役目を果たさない。そのまま、アシュエルの腹に突き刺す。
「ごほ……」
「……っこれはっ……!」
望んだ通りの効果が得られないことに疑問に思ったヨルダウトは、すぐにその正体に気付いた。
「死が取り除かれただと!?」
「正確には剥がしただけどね。だからこれは、ただの貫手だよ」
「ならばっ」
そのまま、刺さった手を横に動かし、腹を切り裂く。
「ごはっ。っと酷いなぁ」
と言っている割にはなんらダメージを受けている様子はない。
2人がやっていることは、ただの剣術と魔法の応酬だが、その規模が桁違いだ。
刀の一振りで山を裂き、魔法の一つで山を吹き飛ばす。そんな規模の攻撃が、数十数百と行い、アシュエル、ヨルダウト共にそんな攻撃を何十と受けても致命傷にはなりえない。
「神とはそういうことか……」
「そういうこと、だよ」
裂かれた腹から出るはずの血が一滴すら流れず、代わりに魔力の燐光が溢れ出す。
「肉の体ではないのか……」
「そうだよ、神の体ってとこだね。というか、ヨルダウトの体も似たような物でしょ?」
言われた通り、ヨルダウトも普通の体ではない。
元々、吸血鬼やら不死者やらで普通ではない。
アシュエルが刀を急に納めた。
チンッと音がした。
「これは……っ」
すると、ヨルダウトの右腕が落ちた。
落ちている腕が闇に分解され、元に戻る。
「『次元切断』……あらゆるものを斬る、剣の極致の一つ」
スッと後ろに下がり、距離を互いに取り合う。
受けた傷は元通り。魔力も全く減っていない。
不死者同士の戦いは長期戦だ。
「余の死の概念すら効かぬとは、神とはそこまで滅茶苦茶なのか?」
「いやいや、僕はそのなかでも強い方だよ。さすがに、概念なんてものが効かない相手なんてほぼいないよ」
あはは、と笑うが、そんなことはどうでもいい。目の前のアシュエルに効かないのであれば今は意味がない。
「それに、この剣戟を避けたり受け流したり出来るのはさすがだよ。直接はまだ一度も受けていないんだから」
「その剣とその気が、余が受ければ危険だと、そう感じる」
「あはははっ正解だよ。これは、僕が特別にレイン様に創って貰ったんだ」
抜き身の刀身を見て、うっとりしている。
「いくつか能力があるけど、普段使っていいと許されているのは二つ。吸収と放出。普通の相手なら一撫でするだけで、その者の全魔力を吸い取れるんだけど……いったいどのくらいあるんだよぉ」
アシュエルの言う通り、総魔力はヨルダウトの方が多い。
剣の能力を使うまでもなく、アシュエルより魔力総量が少なければ、どんな魔法だろうと効かない。ヨルダウトの方が多いがために、避けたり受けたり防御しなければならない。
「ふむ。よく余も分からん。名を貰ってからステータスが視えないのだ」
「っ!?」
心底驚いた様子だ。
「もしやとは思ったけど……そうか、そうだったのか。僕に対して、魔力とその概念のみで戦っていたと思っていたけど、君もそうだったのか」
「何?」
「おかしいと思わないかい?人の能力をステータスという形で表していることに」
「それが何かおかしいのか?」
至極当然の答えだ。
この世界に生れ落ち、全ての生物にはステータスがある。
どれだけ弱くても強くても、そこは絶対だ。
「うん。レイン様から聞いて知ったことだけど……ステータスっていうのは、強さを表すことの他に、管理するためのものなんだ」
「管理……だと?」
「そう。システムという形で。それで、僕たちはその枠から外れた存在。ヨルダウトがレイン様やセバス様に感じた違和感はそれだよ。理の内にいる者は外にいる者に絶対に勝てない」
説明を受け、納得した様子のヨルダウトは、ふと疑問を感じた。
「だが、外れた今でも勝てる気が全くしないが……?」
「まぁ、それは、ピンキリだよ」
苦笑しながら言う。
何事にもあることだ。良いもの悪いもの、弱いもの強いものなど。
「僕の口からは、レイン様の正体を言うことは出来ないけど、僕たちの力もそれなりに強いことだけは自信もっていいよ!」
「ふむ、そうか。違和感の正体も分かったことだし、後少しやるか」
「おっけぇー」
軽く返事をし、刀を構える。
それからの戦いは、苛烈を極めた。
2人の攻撃がぶつかり合う衝撃で空間が震え、裂けた。
「はいっ!そこまで!!!」
一時間程好き勝手戦い今まで以上に、相手を殺す、消滅させる気で本気でやり合い、本当に死ぬ間際のところで、マーリンの声が聞こえた。
「あ、マーリンじゃん」
「あ、マーリンじゃん。じゃないですよ!死ぬ気ですか!?」
「いや、死なないし、殺さないけ……ど……」
鬼の形相をしているマーリンにアシュエルの語尾が小さくなる。
ふるふるとマーリンの肩が震え、バッと顔を上げたかと思うと、指を振る。
「え、待ってそれまずいやつでは……ぎゃあああああああ!?!?」
アシュエルの周囲の空間が球状に捩じ切れ収縮しだした。
そのまま、アシュエルを巻き込み消えた。
「お、おい。大丈夫なのか?」
さしもの、ヨルダウトも空間ごと葬り去られたアシュエルを気遣い声をかける。
「大丈夫ですよ。この程度の攻撃なら……ほら」
マーリンがそう言うや否や、空間の捻じれが戻り、アシュエルが現れる。
「びっくりしたぁ。魔法は効かないけど、スキルだと今は効くんだよ!」
「それでも、なんともないとかほんっと化け物ですね」
「い、いやぁー」
えへへ、と照れるように笑っている。
その頭が急に、ギュインっと音がし、弾ける。
首なしの体になったアシュエルだが、すぐに元に戻る。
「褒めてません。それより、もういいですか?」
「うん、僕は大丈夫だよ」
「余も確認は終わった」
「では、」
パチンと指を鳴らすと、空間がガラガラと崩れ落ちる。
「これで、元の場所に戻りましたよ」
「ふむ。空間系の能力なのか?それにしては、時間にも作用していたが……」
「能力の詮索はなしでお願いします」
「了解した。では、余はここで失礼する」
「僕たちもここで帰るよ。それと、時間は1分しか経っていないから、そのことは気にしないでいいよ」
じゃあね、と言い残し、その場から消える。
「結局本気というわけではなかったな」
ヨルダウトは、気付いていた。
アシュエルは、本気で相手をすると言っていたが、その場の全力を出していただけで、手の内はほとんど明かしていないことを。それ以前に本気を出すまでもないことも気付いていた。
「十数年しか生きていない子供にあれ程の力があるとはな……」
アシュエルは少年だ。
ただ才が半端ではない。1の努力で100の効果を100の努力で10000の効果を。努力すればするほどそれ以上の効果を得ている。剣技も魔法もどれも超一流以上だ。
「だがますます謎が深まるな。我が主殿は、何者だろうか…………」
斜め上を見上げながら物思いに耽る。
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