91話 呪詛開放
吸血鬼が同族を増やす方法は、二つ。
一つは、吸血行為により増やす方法。
この場合は、すぐに増やせる。人間でも、魔物でも、関係なく出来る。ただ、全ての生物にというわけにはいかない。適合すればの話だ。
一つは、生殖により子を作ることだ。
ただこの場合は、吸血鬼同士ならば、純血として生まれるが、人間と、となればハーフとなる。
ヨルダウトが今回取った方法は、吸血により増やす方法だ。
だが、問題が起こった。
「ん?なぜだ?」
昔すぎて、仲間を増やす感覚を忘れた、言うわけではないだろう。
吸血鬼としての本能だからだ。記憶を忘れたとしても、体は本能は欲する。
それでも、出来ないとなれば、別の何かによるものだ。
「不死者だからか?だが、今の体は前のものだ。出来ないはずはないが……」
不死者も吸血鬼も仲間を増やすことが出来る魔族だ。
吸血により増やせないならば、召喚により増やせばいい。
「どちらの姿でも、能力は使えるのか……なら、『不死者召喚』」
ヨルダウトの眼の前に、黒い魔方陣が二つ現れた。
漆黒の闇を放出しながら出てきたのは、漆黒の鎧を身に纏いながら同じく漆黒の剣を携えた騎士だ。
ヨルダウトを見るや否や、跪き、
「「我が主、命令を」」
鎧のせいでくぐもった声で、言った。
「暗黒騎士、か。滅茶苦茶に魔力を取られたと思ったら、上位悪魔並みの力を持つ奴を召喚したか……では、命ずる。城下にいる不死者を連れ、近隣の国から順に攻めよ」
「「はっ」」
了承の意を示すと、立ち上がり、命令を実行するため行動しだす。
「魔力も増え、質も上がっている。主殿は何者だ?」
ヨルダウトは、気配を感じ、魔法を放つ。
「『黒き閃光』っ!」
咄嗟に放った閃光は空間を裂き現れた人物に直撃した。
「いきなり、酷いなぁ」
光が収まり姿を現した少年を見て、ヨルダウトは純粋に思った。
(強い、な)
立ち振る舞い、身に纏う質の高い魔力、そして、
「その気配、人間のものではないな?」
「おお、よく分かりましたね。これでも、一応隠していたつもりなんですが……さすがはレイン様に直接力を与えられた、というだけありますね」
「ッ!?それで、何用か?」
「僕が勝手に来ただけだからね。用、というわけではないけど、自分の力を知っていた方がいいでしょう?僕が相手になるよ」
「余の力、か。確かに、全力を出せないのであれば、分からないな。だが、そこに隠れているのは誰だ?」
ヨルダウトは、現れた少年ーーアシュエルの後ろに視線をやる。
「気付かれてたのか、もう出てきていいよ、マーリン」
「やれやれ、だから言ったじゃないですか。統括」
空間が、ぺりぺりと剥がれ落ち、エルフの女が姿を現す。
「ほう、エルフか。主殿は種族にこだわらないということか」
楽しそうに言う。
人、エルフ、果ては自分のような不死者さえ自分の陣営に加えている。正確には手駒だろうが。
「でも、全力で戦うならマーリンのスキルが適任だからね」
「それはそうですが……はぁーーーーーー」
凄く長い溜息を吐き、それでも、自分の能力が適任だと分かっているため反論が出来ない。
「それで、余はしばらく動かなくていい。やるならいつでも良いぞ?」
「早い方がいいよね、頼んだよ」
「はいはい、分かりましたよ。『完全隔離』『時間遅延』。これで、好きなだけ遊べますよ」
「ありがと!……よしやろう!えっと、ヨルダウトだったかな?」
「ああ、そうだ。そう言えばお前の名前も聞いていなかったな」
「僕は、アシュエル。暴龍騎士団統括第一騎士団団長だよ。そして、半神になったものだよ」
ヨルダウトが息を呑む音が聞こえる。
「神、神といったか!クハハよもやこんな早くに会えるとはな!いいだろう、今の余の力がどの程度なのか試すとしようか!」
「それと、景色は変わっていませんが、現実とは隔離されているので、好きに暴れてもらって結構です」
「ふむ、空気が変わったのは分かったが、どういう原理だ?」
ヨルダウトは、魔法は基本全て使える。炎も水も風も土も光も闇も特殊な魔法も一通り魔法は使える。だが、特殊なスキルは解析すら難しい。それが、空間や時間に作用するのなら特に。
そして、マーリンのスキルは、ヨルダウトすら所見では原理を理解することが出来ないものだった。
「機密事項なので言えませんが、そういうものとお思いください。それと、、いつでも始めてもらって結構ですよ」
「そうか、手の内は簡単明かすのは馬鹿か余程の強者のみだからな。それでは、始めるか」
「僕から行くよ」
腰にある刀を抜く。
声だけ残し、姿が消える。
姿が消えた瞬間、ヨルダウトは右腕を犠牲に後ろに下がる。そして、一振り二振り、連撃を繰り出してくる。
それを、避ける。自分の命に届く攻撃だと本能が分かっているからだ。
「ただの斬撃が、それ程の威力か……!」
回りを見ると、斬痕一つ飛んでいない。あれ程の速度と威力なのに。
それに、
「その剣、体術加速がないな?」
「あれ?ばれちゃった?」
そう、人が走ったりする時、最高速度になるために、0から徐々に100に加速する。だが、アシュエルの動作は0から100に一瞬で移行する。剣を振る時も加速がないためただでさえ速い剣が視認出来ない。剣を捉えきれないのはそれだけではない。一切音がしない。
「どういうことだ?気配も音も何も感じない」
「技術だよ。人は、身体能力で劣っているため、技を鍛える。でも、ステータスが拮抗していたら?力のごり押しが通じないよね。なら、技術が経験が必要ということは分かるよね?セバス様にあったなら分かるはずだよ」
「確かに、何をされたか全くわからなかったが、武というのは理解した。……なるほど、余は不死身だ。死ぬことがない。避けるという行動を取る必要さえあまりなかったからな。今から学ばせてもらおうか」
「そうそう、それも、僕が来た理由の一つだからね。もっと戦おうか……っ!」
すでに、斬り飛ばされた右腕は元に戻っている。
死の概念を両の手に纏わせ応戦する。
手と刀が当たろうした時、ひょいっと刀を引く。
「それに当たるとまずそうだね。これも、神刀なんだけどね、それには普通の状態では、だめそうだから、能力を使うよ」
そう言い、初めて刀を構える。
薄っすらと金色を淡い光を纏う。
「これなら、合わせることが出来るね」
またもや、いつの間にか懐まで入っていたアシュエルの上段からの攻撃を右手で払う。アシュエルは払われた勢いを殺さず、返す刀で腰を狙う。
(これは、囮かっ!ぐっ……!?余の死に真っ向からぶつかりあえるとはッ!)
ぶつかり合えるだけでなく、徐々に削り取っていく。
「ぐっ……『骸骨の城壁』ッッッ!」
「うわぁ!」
地面から骸骨が無数に現れ、アシュエルを引き離す。
だが、次の瞬間にはバラバラに吹き飛ぶ。
「余がこれ程追いつめられるとは……!技術とは凄いな」
「戦っている相手が違うからね。格上を相手にするには、隙を見つけ、それでも、隙が無いから作らないといけないかったから。その点ヨルダウトは分かりやすいよ。その王としての、傲慢な態度。油断していないと思っているだろうけど、油断している」
「…………」
的確な指摘に無言になるヨルダウト。
「なら今度は、力比べと行こうか!」
今度はしっかりと刀が金色の光を発し、一閃。
「『凍える剣』」
冷気を発する剣を造り出し、両手で構え振り下ろす。
「『死を体現する者』」
死の概念を全身に纏い、剣を捨て、刀を殴りつける。
「あっ……」
思ってもみなかった威力の拳撃に仰け反る。そこへ、追撃を掛けるように右足で蹴り上げる。
右手を刀から放し、魔力を纏い押す。それを軸に側転の要領で横に避け、左手に持った刀を斬り上げる。
「ぐはっ」
避けることが出来ず、まともに喰らったヨルダウトは、体を右太ももから左肩にかけてバッサリと斬られる。大量の血が噴き出すが、時間を巻き戻すように戻っていく。
「お、その感じ、時間を戻す系の再生かな?」
「ああ、傷を受ければ受ける前に戻る」
「うわぁ、反則的だぁ!」
「そういうお前は、無制限の再生ではないか?」
「あちゃ~それもばれるのかぁー」
実は、蹴り上げた時に、『死の鎌』で、数度斬りつけた。一瞬で、0秒以下の秒数で再生した。内側から死の概念を直接送り込んだのに、全く効果を及ぼさなかった。
「死の鎌は、掠っただけで即死する。思いっきり体を両断する程斬りつけられ何事もなかったかのように再生などありえん。もしや、結果を改変出来るのか?」
僅かばかりの恐怖を感じ、聞く。
そのことに、アシュエルは微笑みで返す。
それが、答えを物語っていた。
「お前、半神ではないな?」
「うっそ……!そこもばれるの!?」
今度は、本当に驚いた様子だ。
「さすがに、死そのものを相手に制限したままだと、いくら僕でも死んでしまうからね。死という結果を返されてもらったよ」
「完全な不死身ではないか」
「あははっそうでもないよ。同じ力で押し切られたり、絶死なんて概念を持っている相手には、どうなるのか分からないからね。死んでしまうかもしれないし。一つ確実なのは、セバス様の拳のダメージは変えることが出来なかった」
「……そういうことかっ」
漠然とした予感はあった。
最初会ったときに、セバスはヨルダウトをバラバラにした。もちろんその程度で死にはしないが、その時、レインが言った通り自分を殺すことが出来る者たちだと、確信していた。理由は分からなかったが。
「改めまして、暴龍騎士団統括兼レイン様の側近……をなる男、アシュエル」
「そんなこと言っていいのですか?」
「い、いや、セバス様たちには言わないで……!」
空中からマーリンの声だけが聞こえる。
告げ口すると言われ慌てるアシュエルに、さっきまでのキリッとした雰囲気はない。
「次は余の全力を出す番だな。『呪詛開放』」
「お、なんか雰囲気が変わった」
呪詛開放をした瞬間から、足に触れている場所が消えた。
そのまま落ちる前に飛行で浮遊する。
「すっごく強い呪いかな?」
「ああ、死の概念を凝縮し収縮し細胞一つ一つにまで行き渡らせた状態だ。今の余は死の神そのものともいえる」
力を得る前ならば、発動出来ても制御できなかっただろう。
「さっきの死の体現者?とは違うの?」
「あれは、死と纏うだけだ。これは、死そのものになる」
「血も肉も骨も全てに死の概念が付与されているって感じかな?」
「概ねそれであっている」
「だったら、こっちもギアを上げないとね。『神化』」
アシュエルが発する威圧感が莫大に増えた。
「地上での使える神の力ぎりぎりまで開放したよ。やろうか」
「望むところだ」
髪の色が色素を失い、金色から真っ白になった。腰の辺りまで髪が伸びだ。アシュエルの神化した状態だ。
これからが、本気の戦いになる。
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