90話 転化
「どこへ行く?下等生物」
二度と声を聴きたくなかった。
その声を聴いた瞬間、全身の血が凍った。
ブルーノの命を賭した攻撃で地の底へ押し返したはずだが、2分程しか稼げなかった。
ブルーノの体が震えているのは、先の攻撃による倦怠感か、はたまた絶望による恐怖か。そのどちらもだろう。
ヨルダウトが戻って感じたのは、戸惑いだった。
(むむ?なぜ、あれしきの攻撃で助かったと思ったのか?)
と。
絶対強者として故か、ヨルダウトは避ける、躱すといったことしない。もちろん、自分を殺す可能性の攻撃には気付く。そして、防御をする。しかし、今回は、測った。自分と戦うことのできる存在はいない、と。
その、隙を付くことにより、可能となった最初で最後のヨルダウトに当てることのできる攻撃だった。
「な、なぜ……こんなに、早く……っ!?」
震える声を必死に抑えながら、声を出す。
「ふむ、本当にあんな攻撃で、凌ぎきったとでも思ったのか?まぁいい。教えてやろう。すぐに戻れたわけはーー」
ブルーノの真後ろに転移する。
「ーーこういうことだ」
「っ……!?!?」
ブルーノがバッと振り向いたときには、ヨルダウトは元の場所に転移で戻っていた。
「その反応、今の時代には転移はないのか?いや、使えるものが少ない、といったところか」
「くっ!……陛下今すぐに逃げてください!ここは私、がっ!?」
逃げろと言っていたブルーノの体が、床にめり込む。
ヨルダウトがやったことは、重力で押しつぶしただけだ。
「ブルーノーーーーーーっ!!!!」
第二王女の悲痛な声が寝室に響き渡る。
つい先ほど将来を誓った、身分の違いのせいで叶わないと思った恋が叶うと思った矢先、目の前の敵、ヨルダウトによって叶わぬものとなった。
「少し前までなら王族は殺すつもりはなかった。だが、もうその必要はない」
「どういうことだ……!」
王が怒りを抑え問う。
呑み込みの悪さにヨルダウトは嘆息する。
「はぁ、分からないか?王族であろうと殺すといったのだ」
「なぜ、我が国を狙う……!?」
「何、知る必要はないが、よかろう。余が生きている時、ここは獣人の国だった。それで転移したら人間の国となっていた。つまり、余が知っている地図と違っているということになる。今を知るならば、知っている、それも王族ならば、どこに何の国があるのか分かると思ってな」
「何を……言っている?……獣人の国、だと?我が国はずっと人族が治めてきた!」
「おかしいな……3000年前はそうではなかったが……」
顎を摩り考え込む。
「3000年……?馬鹿な!?お前は何者だ!?」
予想だにしなかった膨大な時間に、王と言えども驚愕する。
問いに答えず、ヨルダウトは考え込み、やめる。
「まぁいい。それより、手に入れた力を使ってみるか」
久々に吸血したくなったが、今の姿を思い出し、手に入れた力を使ってみることにする。
その名も、
「『転化』」
凝縮した闇が竜巻のように巻きあがり、ヨルダウトを覆い尽くす。闇が弾け飛び、そこから現れたのは、肉の体を手に入れたヨルダウトだった。外見は、10代後半。眼は血のように紅く、鋭い犬歯が伸びている。さながら、吸血鬼だ。
「ぉぉおお!この姿は……!」
銀色の髪は地面まで届き、衣装も変わった。王族のようだ。
「な!?」
「貴様らは、吸血鬼を知っているか?」
「なんだそれは!」
「やはり、余以外の吸血鬼は滅んだか表に出ていないということか……収穫はこの程度、後は……」
ヨルダウトの眼が怪しく光る。
その眼光を見てしまった王族全員が目の焦点が合わなくなった。
吸血鬼特有の魅了だ。
「こちらに来い」
命令を下す。ゆっくりと立ち上がり、のろのろと歩き出す。
そして、目の前に来たところで止め、王女の首に噛み付いた。
「ごくっ、ごくっ……」
「ぁ……」
王女の口から吐息が漏れた。
思考は停止していても感覚まで消えているわけではない。
ヨルダウトの首が、コク、コクとなり、漏れ出た血が口を滴り落ちる。
「ふぅ、久しぶりの血だ。それも、処女の生き血。やはり、格別だ。男はいらぬ死ね」
「がっ」
伸びた爪で王の首を掻き切る。
「まだ足りぬ」
次の食事を求めて、もう一人の王女の血を吸う。
一度では渇きは満たされず勢いよく吸い尽くす。対象が死ぬまで。
全身の血を吸いつくされ、腕は枯れ木のように細くなった。
「しまった、食事のために残すつもりが、渇きに耐えられぬとは、余としたことが」
頭を振り後悔しているような態度を取る。
「過ぎたことはいい。それよりも、この肉体、骨の体より強力だな。不死性は前以上か……」
転化により不死者から吸血鬼に戻った。この、転化のスキルにより、吸血鬼と不死者としての姿を行き来出来るようになった。
「さて、下僕をもう少し増やし、次の国に行くか」
残りの男、王子を殺し、残った最後の一人になった王女には、回復魔法を掛け回復させる。
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