89話 騎士長の意地
戦術、戦略、個々の技術。
それが必要なのは、
「実力が拮抗している場合のみだ」
余を相手にする場合には、実力差など明白だ。どれだけ戦略を練っても、剣術、槍術などいくら鍛えても意味がない。
「そして、今の状況もそう言える。余の言っている意味が分かるか、人間共?」
「何を言っている!化け物めっ!!!」
「総員!かかれぇ!!!!」
国の人間を殺していたら、騎士を名乗る者が現れ、殺していった。
それから度々現れたが、救援を待つでもなく突撃して死んでいった。
だが、王城に着いた時に余を待っていたのは、数十の騎士たちだった。
人間でいうところの一流といったところだろう。
陣形を組み、それぞれの武器を手に、連携しながら攻撃してくる。
「クソ!なんで、攻撃が当たらない!?」
騎士の一人が唾を飛ばしながら激昂しながら言う。
それもそのはず、余が無意識に垂れ流している魔力に阻まれている。攻撃自体が余の肉体に届いていない。肉の体ではないがな。
「そもそも、この魔力如き破れないのであれば、余の命には届かん」
「化け物が!!これでもくらえ!!!震撃!」
手に持った剣が振動している。
「はあああああああ!!!!」
魔力を練り上げ、ますます激しく振動する。
火花を上げ、余の魔力とぶつかっている。が、一ミリたりとも進んでいない。
一人の騎士だけでなく、余の周囲を取り囲み、連携を生かして攻撃してくるが、全て同じ結果だ。
「『心臓破壊』」
何かを握り潰すような動きをする。
「がふっ」
騎士の一人が、血を吐き倒れる。
「ふむ。これが効くのか」
「マルコ!?貴様何をした!?」
仲が良かったのか涙を流しながら、激怒する。
「なぜ泣く?たかが死んだだけで」
人間は近しい者が死んだだけで悲しむ。それは、昔から変わっていない。
「お前みたいな化け物には分かるか!人の感情を持たない化け物が!」
「確かに、余は死者だからな。お喋りはもういいだろう。精神破壊」
余に飛び掛かっている最中の騎士も、攻撃のために魔力を高めている騎士も、技を出そうとしている騎士も急に、外傷もなく倒れる。
その名の通り、精神を破壊する魔法だ。廃人になったとも同然である。
「これが、この国最高戦力か?他愛ない」
落胆のため息を吐き、歩みを進める。
人間は少し小突くだけで、死んでしまう。
だからと言って、わざわざ手加減するわけではないが。
「無駄にでかいな。あまり、城は壊さずにするか」
後に余の城となるからな、と呟き、生命探知を使う。生きている生物を探知する魔法だ。人間を把握するのにこれ程打ってつけの魔法はないだろう。
「上に雑魚5人、まぁまぁが1人か……固まっているな。王族か」
一ヵ所にまとまっている。王城の戦力は先のでほぼ全部だったのだろう。
「『黒孔』」
掌を上に向け、魔法を使う。
黒い球体が現れ、上に浮いていく。上がるにつれ徐々に大きくなり直径1mになったところで天井に当たる。
天井が球体に当たった所から削り取られたように消失する。
「行くか。飛行」
ふわぁと飛び上がり、上の階に行く。
城の構造を無視し、一直線に目的の場所に向かう。ただ、城を壊さないように、柱には傷をつけない。
そう言っている間に、着いた。
ここは、
「寝室……か?」
扉を開けようと手を掛けたところで、爆発した。
「これは、罠か……しかし、この程度でやれるとでも思っているか?」
構わず、扉を開けると、上から殺気を感じた。左手を上げ、攻撃を防御する。
「ふむ、これは中々の攻撃だ」
「傷一つつかずにっ!」
雄叫びを上げ、気合を入れながら力を高める。
ぐぐぐっと余が押し込まれる。
もちろん、力で負けたのではない。圧に床が耐えられなかったのだ。
「はぁっ!!!!」
「ぬおぉ……」
そのまま押し切られ、床を突き破る。
かなりの力で押し込まれ、地面を削りながら進み、激突して止まる。
「ここは、地下か?はぁ、またもや地下に来てしまった。飛ぶのも面倒だ、跳ぶか」
sideブルーノ
俺は、バルキファナ王国の騎士長、ブルーノだ。僅か28歳という若さで団長になった、若き天才ってやつだ。
自分でいうのもなんだが、才能もあり、努力もした俺は強い。
辺境の国ということもあり、他の国と戦争になったことも数回しかなく、魔物が出ても、最高Aランク程度だ。俺は、ソロでAランクを倒すことが出来る。ゆえに団長になれたとも言える。
そして、俺の故郷、愛すべき守るべき国が過去最大の未曽有の危機に瀕している。
たった一体の魔物に攻撃され国は亡びた。城下は破壊しつくされ、兵士は全滅、騎士は俺一人しか残っていない。
もはや、バルキファナ王国を壊滅した。
それでも、俺は、忠誠を誓った陛下とそのご家族を守るために命を懸ける。
「皆、済まない……」
唇を噛みしめ、死ねと命じた騎士たちに謝罪する。
もう、あの化け物を殺すことが出来ないのは最初の攻撃で分かっていた。ならば、陛下たちを逃がすために、命を賭して時間稼ぎをしてもらった。
だが、全くの無駄だと分かった。
戦闘音がすぐに聞こえなくなったからだ。騎士たちでは勝てる相手ではない。なら、全滅したと考えるのが妥当だろう。
すると、後ろから不安そうな声を掛けられた。
「ブルーノ……私たちはどうなるのでしょう?」
聞いてきたのは、王妃だ。ここには、陛下と王妃、第一王子、第二王子、第一王女、第二王女、まだ赤ちゃんであられる第三王女の5人だ。
王女二人も互いに抱き合い体を震わせている。無理もない、一夜どころか数時間で自国が滅んだのだ。恐怖を感じるなという方が無理だろう。王子も強がっているが、顔が引き攣っている。陛下でさえ強張った顔をしている。
「大丈夫です!私が何とか化け物を引き離すので、その間に隠し通路から逃げてください!全力で、です!」
「ブルーノ、お主は……」
「ええ、国に陛下に忠誠を示す絶好の機会ですので!」
ニコッと不安を感じさせないように笑い、安心させるように言う。
陛下の、「感謝する」という言葉を聞けただけで、嬉しく思う。
実際死ぬことは怖い。これから、対峙する化け物は今まで会ったどんな魔物より強力だろう。それも圧倒的に。俺が、死ぬことは決まりきったことだと思う。
「……それでも、避けられたら意味がない。確実に完璧に決めなければ」
そのためにも、隙を作らなければいけない。
開けてくるだろう扉に罠をしかける。爆発させる魔道具を設置する。振動を受けることによって、発動する仕掛けだ。
「両王女殿下、そんなに不安がらないでください!私が必ず逃がします!」
「で、でも、ブルーノが……死んじゃう」
「ええ、死ぬかもしれません。でも、恩ある陛下を守るためになら、この命さえ惜しくありません」
真剣な表情で伝える。
実際、本当に心から思っての発言だ。
その時、扉が爆発した。
「来たか化け物……」
聞こえないように小声で呟き、気配を消し、跳躍する。
やはり、毛ほども効いた様子はないが、想定内だ。爆炎に紛れて、視界からも姿を隠る。跳躍した勢いのまま天井を蹴り、加速する。
完全なる不意打ちだというのに、化け物は左手を上げ防御する。
剣と手が当たった瞬間激しく火花が散る。
「ふむ、これは中々の攻撃だ」
「傷一つつかずにっ!」
嫌味としか取れないことを言うが、怒りに我を忘れるようなことは決してない。
腕に力を入れ、魔力を限界まで絞り出す。
「おおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
喉が張り裂けんばかりに叫び、限界以上に力を出す。
これでも、この敵に傷さえつけることが出来ないのは分かっていた。それでも、諦めない。目的は別にあるからだ。
(落ちろっ!化け物がっ!!!!)
「はぁっ!!!!」
「ぬおぉ……」
最後のダメ押しとばかりに、気合を入れ剣を押し込む。
そしてついに、床が耐えることが出来ずに抜ける。
驚いたような声を出し、地面に落ちていく化け物を眺め、後ろに飛ぶ。そして、倒れこみそうになるのを堪えるが、片膝をついてしまう。
「はぁはぁはぁはぁ、ぐっ……結局ダメージは与えられなかったか……」
「ブルーノ!」
第二王女が涙を堪えながら抱き着いてくる。
「はぁ、はぁ、マルティナ様、いけません、よ……」
「無事でよかったです!」
ついに泣き出した。剣を持つ握力も残っていないが、気持ちに応えるべく抱き締める。
「陛下、なぜ逃げていないのですか?」
「なに、お主ならやってくれると思っていたぞ。それに、我らが逃げたならば、先に狙ってきそうだったのでな」
緊張の糸が解けたのか笑いながら言ってきた。
信頼されているのは嬉しいが、今回ばかりは危なかった。それに、いつまでも抱き着いている第二王女を引き離す。
「嫌です!」
「そういわれましても……」
困った顔をしながら、どうすればいいか迷う。
相変わらず、陛下は笑っているし、殿下の好意は前々から気付いていた。それでも、身分の違いはあり、必要以上に近づくことが出来なかった。それでも、この際だ。言ってみてもいいかもしれない。
大きく深呼吸し、
「陛下」
「なんだ?」
「もし、もし、あの化け物から逃げることが出来たのであれば、マルティナ様と付き合うことを許していただきたい!」
第二王女が、目を見開き嬉しそうな顔をする。
「ふふ、ふははは!我が騎士、ブルーノよ!その時はお主たちの仲を認めよう!」
「ありがとうございます!お父様!」
「ありがとうございます、陛下!」
今度こそ、きちんと抱き締める。
だが、俺の幸運はそこまでだった。奇跡は二度は起こらない。
もう、剣を握る力も残っていないし、魔力ももう枯渇している。
「早く逃げましょう、陛下」
「そうだったな。行くぞお前たち」
いつまでもここにいるわけにはいかないため、すぐさま行動に移す。
震える体に力を入れ、何とか立つ。
だが、絶望は始まったばかりだった。
もう二度と聞きたくない声が聞こえてきた。
「どこへ行く?下等生物」
魔法のレベルは、1、2は下級魔法、3、4が中級魔法、5、6が上級魔法、7、8が超上級魔法という感じになっています。そして、9,10(Max)が神の領域といった感じです。(ただし、状況や使い手などにもよるので、一概にレベルが全てというわけではありません)
それに、ハクが使っているのは、魔道。魔法の上位互換という風になります。
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