88話 侵攻開始
side不死の王
「うむ、やはり人間の国は壁が大きいな。まずは壊すか」
人間の国を囲っている城壁を壊そうとする。
指先を城壁に向け、魔法を放つ。
「灼熱波動」
拳大の炎が現れ、城壁に向かって飛んでいく。
壁に当たった瞬間城壁を飲み込み破裂する。
「これで、邪魔な壁は消えたな。さて、行こうか」
「ちょっと待ち」
「っ!これは、主殿。何用で?(全く気配も魔力も感じなかった……)」
後ろから声が振り返る。そこには、いつの間にかレインが立っていた。
「名を与えるのを忘れていた」
「名?余の名は……名は…………なんだ?」
「吸血鬼時代の名は忘れているはずだぞ。アンデットになってからは、不死王としか呼ばれてなかっただろ?」
そう言われ、余は考え込む。
確かに、何千年も昔のことだから忘れている、というわけではないらしい。
「では、今日この時をもってお前は、ヨルダウトだ」
「ヨル、ダウト……」
その名で呼ばれた時、余の魂が震えた。
そして、余の力が上がった。
「これは……!」
「真名は力を与える。名付け従魔が強くなるというのは知っているだろう?そしてそれは、名付ける側の力にも左右される。俺が付けたんだ存在のレベルが上がることくらいわけない」
「なるほど……しかし、これは、魔力とは別の物……」
「ああ、それは、邪気だ。邪神が使う力だな。魔力だけではこの先神を相手には厳しいからな」
「余も流石に神を相手にはしたことがなかった……しかし、なぜ?」
真祖として生き、後数百年で神祖の域にまでなることが出来たはずだが、奇しくもなる前に、アンデットになってしまった。だが、それにより神祖の域に達していた。それが、名付けにより神祖を超えた。
「これから先、神を相手にするからだ。それに、俺は直接手を出さん。というか、出すとすぐ終わるからな、配下の者共をぶつけて楽しもう!ってことだ」
「それで、余を配下にということか……理解した」
「うむ。ではこれでな。名を与えることが目的だったからな、それも終わったし帰るか」
「主殿、世界地図を教えてもらっても?」
「そうか、今は変わっているから知らんのか、それ」
レインが手を振ると、余の頭に映像が浮かんできた。
世界の地図が、国の場所が一瞬にして分かった。
それに今から滅ぼそうと思っている国は、バルキファナ王国というらしい。辺境の国で国力自体は全く大したことのない平凡な国とのことだ。
「では、また後で」
「おう、またな」
音も気配も魔力を使った形跡もなく消える。
「やはり、その移動法も神の力の何か、というわけか……長く生きたが、まだ世界には余の知らないことが多いな」
どれだけ長く生きても、全知とはいかない。見たこと知ったことだけしか分からない。
「まあ、主殿についていけばこの疑問も解けることだろう。さて、まずは、こいつらの相手か」
レインと話し終わった時には、騒ぎを聞きつけ兵士がわらわらと集まってきた。その数2000程。中には、そこそこの魔力を持っている者もいるが、余からすれば、どれも変わらない。
「ば、化け物だーーーー!!!!!」
「聞いてないぞ!?こんな奴なんて!?」
「魔王軍の侵攻だ!!!!!」
飛行を使って上空に浮いていたが、百mの距離まで飛行して詰める。
徐々にはっきりと兵士たちが、余の姿を目視できる距離になった時にこの骸骨の姿を怖れだした。
余の外見は人間の根源からの恐怖を煽るからだ。
だが、恐怖に震えていても逃げ出す者がいない。
辺境ということもあり、戦闘自体が少ないのだろう。おまけに練度も低い。
「クハハハハ!余がやって気ぞ!まずは手始めに、血線!」
地面に血で出来た線が引かれる。
血の線はぐるっと軍隊を囲むように引かれ、中の人間が次々と倒れる。吸血されたように血を抜かれたからだ。アンデットになっても吸血鬼時代の魔法も使える。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ひっ死んでる!?」
抜かれた血は地面の線に流れだす。その線は、来た道を引き返すように余の方に戻ってくる。
そこから、空中に浮き上がり血の塊が出来る。
「中々集まったな。しかし、残ったのがこれっぽっちだとは、質が落ちたな」
血線とは、本来選別のために使う魔法だ。一定レベル以下を即死させる。
実力者だけを残すことが出来るから、余が愛用している魔法の一つだ。
それで残ったのは、300人程。2000人いたが300人まで減ってしまった。一つの魔法で7割程一気に減った。
今までは、恐怖を感じて震えながらも戦意を保っていた。だが今は、完全に恐怖に飲まれている。絶望の悲鳴を上げながら逃げ惑うが、それより先に、結界で囲い込み逃げることが出来ないようにする。
「ククク、やはりいい!久々だ、この悲鳴も絶望の表情も、さて、せっかく今のレベルに合わせて血線のレベルを下げて使ってみたが、意味がなかったな。弱すぎて」
一人一人殺していくのもいいが、僕を作ってみようと思う。
余が使おうとしているのは、死霊魔法だ。
「さぁ、起き上がれ余の僕」
ガク、ガクッっとカクカクとした動きで死んだ死体が動き出す。
動く死体だ。
「殺し尽くせ」
命令に従い生きている人間に襲い掛かる。
今まで仲間だった者からいきなり攻撃され、なすすべもなくやられる。何とか反応するも仲間を斬ることに抵抗があるのか、反応が鈍い。
「ああ、ああ、人間とはいつもそうだ。死んだとはいえ、中もをすぐには斬れない。それが、仲が良ければ特にな」
余が言った通り、友人を斬ることに抵抗を感じる者から死んでいく。そして、死んだ者も同じように動く死体の仲間入りだ。
「ああああ!来るな!来るなぁ!」
「なんだこれ!?出れない!?出してくれ!?」
結界を、ドンッ!ドンッ!ドンッ!と殴りつけたり、斬りつけたり、魔法で壊そうとしたりするが全くの無駄だ。傷一つつけること出来ずに動く死体に食われる。
「いくらでも替えのきく死体だ。殺せば殺す程増えていくぞ。止めたくば、一匹残さず殺すしかないぞ」
まぁ無理だが、と心の中で言う。
ゾンビと違い動きも生前と同じで、いや、それ以上の速さだ。タガが外れているからだ。他にも筋力も段違いに上がっている。つまり、知性がないだけで、ステータスが上がったということだ。
少し待つだけで、残り数人にまでになった。それも、もう一人も残っていない。
「終わったか」
指をパチンッと鳴らし結界を解除する。
止まれと命令し、動く死体共を止める。
「よし、僕たちよ。人間共を滅ぼし尽くせ」
再度命令する。
命令を受けた動く死体共は走りながら、国の中に入っていく。
城壁は消えたから、どこからでも入れる。街の住人は未だに状況が呑み込めていないのか、逃げ出している者は少ない。それに、
「どうせ逃げ出すだろうからな。一人残さず皆殺しだ」
城壁を壊す前に国を囲むように結界を張っていた。これで、逃げることなど出来ない。
早速悲鳴が聞こえてきた。
「始まったか。では、余も行こう」
飛行したまま、出入り門があった場所から入っていく。
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