74話 火達磨のギルマス
火達磨になった、ギルドマスター。
「それが本気なの?」
「そうだ!」
ミナリスは困惑している。
なぜなら、ただ火を纏っただけに見えるからだ。
「はああ!!!」
火柱が上がり、加速しながらミナリスに突撃する。先程とは比べ物にならないくらい速い。
『なるほどな』
(何かわかったの?)
『あれは、炎を纏っているわけじゃない。爆発させているのだ』
(爆発?)
ドュルジと会話している間にも攻防が続く。
剣にまで炎が広がり紅くなっている。それを、紙一重で避け続ける。
『足と背中の炎を爆発させ、推進力を上げているのだ。それで、スピードも2倍程度に上がっている。それでも……』
「うん、まだ遅いね」
「な!?ガハッ!」
多少早くなったところで、ミナリスとの差は埋まらない。
剣が振り下ろされる前に、握り手を掴んで引く。それだけで、態勢を崩し前のめりになる。
そこへ、少し強めにボディブローをかます。
今までのめちゃくちゃ手加減していた一撃と違って、内臓が全て潰れたかと思うほどの衝撃を受け蹲る。
「うそ……だろ?ギルマスが負けた?」
「あんなガキにか!?」
「しかも、ガキの方は傷一つ折ってねぇじゃねぇか!」
決着がついたと見て、黙っていた観客が騒ぎ出す。賭けをしていた者はほとんどがギルマスにかけていた。決まりきった試合だと思っていたからだ。だれもがミナリスが勝つなど思っていなかった。ミナリスに賭けていた人もまさか勝てるとは思っておらず、完全に勝てればいいなぁ程度の気持ちで賭けていただけだ。
「これでいい?」
「あ、ああ。実力は十分分かった」
「やったぁ!何ランクなの?」
さっきとは打って変わって、年相応の笑顔で喜んでいる。
あまりの変わりように呆気にとられる。
「それは……Sランクでどうだ?」
「Sランク!分かった!」
外野がざわめく。登録したてでSランクは異例中の異例だろう。だが、あんなものを見せられて納得しないわけにはいかない。ギルマスと戦うだけじゃなく、圧倒的に勝ったのだから。
「明日、ギルドカードを取りに来てくれ」
「今日じゃダメなの?」
「いきなりSランクにするのに手続きなど必要なのだよ。それに、Sランク以上のカードは特殊なためすぐには作れない」
「そっかぁ。分かったよ!またね!」
それだけ言うと、さっさと、出口に向かって出ていく。
『ご機嫌だな、ミナリス』
「うん!いきなりSランクになれたからね!」
『そんなにいいものなのか?』
「たぶん!」
『…………』
ミナリスは、冒険者にランクがある、ということは知っていたが、そのランクの基準やそれに伴う益については知らなかった。ただ、Sランク以上はすごい、ということは知っていたため、いきなりなれたことに喜んでいた。
『冒険者はSSSまであるのだろう?』
「そうみたいだね!」
『それでなくていいのか?』
「だって、帝都のギルドマスターがSって言ってるもん。多分それ以上はすぐに出来ない理由でもあるんじゃないかな?」
『なるほどな』
ミナリスは、幼くまだ人生経験は少ないが馬鹿ではない。あのギルドマスターが冒険者の最高ランクの実力があるのは最初から分かっていた。その、ギルドマスターに勝ったのに、Sランクということは、それなりの訳があるはずだと、理解していた。
『なるほど、浸食の魔眼により、その経験をある程度視ているのか』
「どういうこと?」
『いや、なんでもない。さして、異常もないだろう』
「そっかー。それより、これからどうしよ?」
ミナリスの当初の予定では、今日登録し、いくつか依頼を受けようと思っていたのだが、カードももらえてないし、正式に冒険者になれたわけではない。
それに、まだ昼だ。
うーん、うーんとうなっていると、ドュルジが提案を出してきた。
『ならば、賞金をもらったらどうだ?』
「賞金って?」
『盗賊の首だ』
「あああ!忘れてたけど、まだ、もらってないんだった!」
『それに、何かわかるかもしれんぞ』
「へ?なにが?」
『賞金首というのは基本どこに持っていく?』
「騎士団の詰め所、とか……あ、分かった!」
『そういうことだ』
昨日襲撃があったが、それを依頼したものが何かしら、あの警備隊隊長と関係があるとみているため、もう一度会えば何かしらアクションを起こすだろうと予測している。
「じゃあ、行ってみよっか!」
sideケルビン
ケルビンは、怒りを発散するために、自室にある置物を蹴りたくる。
「クソ!まさか、暗殺者までもが失敗するとは!」
ここは、隊長として与えられている、ケルビン個人の部屋であるが、今は無残にも荒れ果てていた。高級品も散らかり、強盗でもはいったのかと間違われそうだ。
「あいつらをやったのは偶然じゃなかったということかッ!」
近くにあったコップを壁に投げつける。ガシャンッと音が鳴り砕け散る。
ケルビンは、盗賊団を壊滅させたのは何かの間違いだろうと考えていた。何かの間違いであろうと、もし、本当にそれだけの力があった場合は危険なため、普段は使わない暗部にまで依頼をして、ミナリスを殺しにかった。
「チッ。ビージェンもやられたのは想定外だ!あいつは、Sランク並みの実力があるんだぞ!しかも、100人も構成員がいるのに、全員やられたのか!?ありえんだろうが!」
ケルビンは、盗賊団がやることに目を瞑ることにより、盗賊団が手に入れた宝などを回してもらっていた。それに、何かと都合の悪いやつを、消すことを頼んだりもしていた。もし、そのことがばれたとしても盗賊のせいにして逃れられると思っていたからだ。
イライラと室内を歩き回り、これからどうするか考えていたら、扉をノックする音が聞こえた。
ケルビンは、乱暴に答える。
「なんだ!!」
ためらいがちに扉が開き、兵士が入ってくる。警備隊の一人だ。
「あ、あの。昨日の少女が来ております!」
「は?な、なんだと?」
「どうされますか?」
ケルビンは急な訪問に焦りながらも考える。暗殺も失敗し、利用できる戦力である盗賊たちも潰され、使える駒がなくなったいる。
そこで、ケルビンは雷に打たれたように閃いた。
「よし!ここまで通せ!」
「分かりました」
しばらくして、扉がノックされる。
「入りたまえ」
「失礼します!」
どこからどう見てもただの少女に見えるミナリスが入ってきた。
(やはり、こうして見ても何の力も感じない)
ケルビンは、実力を見抜く観察眼はある方だ。それのおかげで、危険な相手とは相対しないよう立ち回り生き残ったことも少なくない。
「それで、どんなようなのかな?」
「報奨金をもらいに来たの!」
「報奨金?ああ、賞金首のものだね。分かった、すぐに鑑定し持ってこよう。少し待っていてくれ」
「はぁい!」
どこからともなく取り出した飲み物を勝手に飲みだしたミナリスに呆然とする。
(こいつ、どこから出した?それより、人の部屋で、勝手に飲むか普通!)
それを頑張って無視し、人を呼び賞金を用意させる。
(そんなことより、こいつを口封じするか、始末せねば)
ケルビンが口を開きかけた時、ミナリスが喋りだした。
「あのね、昨日の夜私の部屋に襲撃があったんだ!」
ドキッとしながら、冷静になるよう努め、声を出す。
「そ、そうか。それはいけない」
「そう、いけないよね」
ゾクッと背筋が凍るような感じがした。
一瞬ミナリスの目が光ったように見えた。
「それでね、その襲撃者を拷問したんだ」
「そ、そうか……」
雲行きが怪しくなり、ケルビンのこめかみに冷や汗が流れた。
「その暗殺者が言うにはね、隊長さんが依頼主だって」
「ははは、そんなわけないじゃないか。大人をからかうもんじゃないよ」
(やばいやばいやばい!プロの暗殺者だぞ!?拷問したって吐くようなものじゃないぞ!こうなったら、始末するしか)
「別にそんなことはどうでもいいの。ただね、私にも目的があるんだ。それを邪魔するなら、殺すよ?」
「うぐぅ……はっ……」
ミナリスの発した魔力に当てられ、呼吸が出来ない。
「分かった?」
「わ、わかりました……ですので、ま、りょくを……」
その瞬間、何事もなかったようにスッと圧力が引いた。
後になってガタガタと体が震えてくる。
(まずい!こんな化け物とは……)
「それで、まだなの?」
「は、はい。すぐに持ってこさせます!」
完全に心が挫け、自分の娘程度の年齢の少女に敬語を使う。
それ程までに、あの殺気が恐ろしかった。
それからは一刻も早く帰ってもらうために、急いで賞金を用意する。
今日は、忠告と賞金だけが目的だったのか、賞金を渡すとすぐさま帰っていった。
「くっ俺としたことが、見た目に油断したということかっ!」
ケルビンは、子供にしてやられたことに怒りを覚えるが、やり返そうとはもう思っていない。もう完全に恐怖がこびりついている。
それから、しばらくの間、悪夢に魘され続けることになったが、ミナリスの知るところではない。
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