68話 ミナリスの親の秘密
戦場に殺気が立ち込める。
だが、兵士側が劣勢なのは明らかだ。
隊長であるブボミスの喝により、士気は上がったが、力量の差まで変わるわけではない。
半分近くまで減った人数で、それでも逃げ出すものがいないのは、それだけ百人隊長であるブボミスを信頼しているからだろう。
しかし、信頼しても、どれだけ士気を高めても、殺気を込めても、ミナリスには届かない。
大人気なくも、ミナリス1人を囲んでいく。
一度破られたが、包囲しなければ各個撃破されるだけだと分かっているからだ。
ミナリスは、ブボミスの反対にいる兵士目掛け、一気にかける。
一瞬で現れたミナリスになんの反応も出来ずに、胴を半分に斬られ、そのことに気づいた隣の兵士が剣で月を放ってくる。
それを半身で避けながら、伸びた腕を掴み、捻る。関節を外したその腕を掴み、回転する。近くに来ていた兵士を巻き込みながら、人間を武器に使い攻撃していく。
「グギャアアアアアアア!!!!!やめてくれ!う、腕が!?」
回されている兵士は、腕の関節を外されただけで死んではいない。痛みを感じながらも仲間を殺すのに自分の体が使われているのも相まって、激痛を感じながら絶望を感じる。
「あ、あ、あ、ま、待って、待ってくれ!?腕が千切れ……いやだあああああ!?」
ミナリスの力で、あれだけ振り回されれば、腕の一つくらい簡単に千切れる。
掴んでいる兵士の肩辺りから、ブチブチとなってはいけない音が聞こえて来た。
そしてついに、千切れてしまい、体が吹き飛んでいった。
ミナリスは、握っていた腕を、ぽいっと捨てると、あまりの所業に呆然としている兵士を次々と斬殺していった。
そして残り5人になったところで、恐怖がぶり返し武器をすてて逃げ出し始めた。
そこで、追うのがめんどくさくなったミナリスは、魔眼の力を使った。
兵士の体が突如バラバラに砕けた。
使った魔眼は、『破壊の魔眼』だ。
消滅も破壊も似ているようで違うが、ただの兵士程度に抵抗出来るものではないことに変わりはない。
隊長のブボミスは、冷や汗を全身にかきながら立ち尽くす。
「な、何が起こった……?」
「もう、お前だけだよ」
「お前は、なんなんだ!」
「よく言われるよ、何て答えて欲しいの?ただの子供?化物?」
「…………」
これまでミナリスの相手をして来た者は、ほとんどの者が「何者だ!」と口にする。
確かに、少女であるミナリスがこれだけの力を持っているため、反射的に問うてしまうのも分かるが、誰もが1パターンなため、飽きていた。
「私は、復讐者だよ。隊長さん、聞きたいことがあるから眠ってて」
「ブボッッッ!?」
腹に受けたことのない衝撃を感じ、意識が飛ぶ。何をされたのか全く分からなかった。
名前と同じ声をあげながら倒れる。
「よし!手加減できた!」
『よくやった、が。こいつの体力後一桁だぞ』
「だって私、見えないんだもん」
『ミナリスの魔眼は全部で、6つある。消滅の魔眼、破壊の魔眼、侵食の魔眼が今使える魔眼だ。後3つ、ある。それが何かは分からんが、その中に鑑定に類するものもあるだろう』
「え、そんなにあるの!?」
ミナリスは、強くなったが、鑑定のスキルを持っていなかった。そのため、相手のステータスを知ることが出来ない。しかし、魔力の量、雰囲気などで大体の力量を図ることは出来た。それでも、スキルによってはレベル差を覆す可能性のあるものもあるわけで、欲しいとは思っていた。
それが、魔眼で手に入るかもしれないと聞き、ミナリスのテンションは上がっていた。
「魔眼かー。他にもそういうのあるの?」
『眼に関することか?それならいくつかある。まず、お前が持っている魔眼だ。他には、神の眼、神眼、そして、邪眼などがあるな』
「それってどうやって手に入れるの?」
『無理……ではないが、手に入れると断言も出来ん』
「えー。欲しいよ!」
ミナリスは、眼の力にはまっていた。魔眼はどれも強力だ。その中でも特に強力な魔眼を持っているミナリスが、魅力に感じてしまうのも仕方ない。
「むぅ、仕方ないかぁー」
『とりあえずは、持っている魔眼を極めることから始めたらどうだ?』
「そうだね、うん!そうする!」
★★★★★
sideブボミス
「う……うぅ、ここは?」
俺は、暗い場所で目を覚ました。
動こうとして、足に力を入れたが、ガシャンッという音がして動けなかった。
「何が?ググゥ、そういえばあの少女はどこだ?」
だんだんとなぜこんなことになっているのかを思い出してきた。
俺は、危険な少女を殺そうとして、逆に返り討ちにあった。反応も出来ずに意識を刈り取られた。
「多少痛みはあるか……しかし、この鎖……」
動けない原因は、手と足に絡み付いている鎖のせいだ。
普段の俺ならば、この程度の鎖程度引き千切れるが、なぜか力が出せない。それに、体を流れている魔力も感じない。
その時、ピタピタ、という足音が聞こえてきた。
反射的に身構える。
「お、起きたの!」
「何をした!」
「まだ何もしてないよ。ん?そうだよ、うんやってみる!」
ミナリスという少女は、誰と話しているのか、急に空中を向き話し始めた。
「くそ!これを解け!」
「いやだよ。それより、聞きたいことがあるんだ」
こいつは、裏切りのラーウィン家の者だ。ということは、あいつの娘、ということだろう。
(チッ!あいつら失敗しやがったな!?こんなガキ相手に……いや、俺もやられているんだ。しかし、こいつの力はなんなんだ?ただのガキが、急にこんな力を得ることが出来るわけがない。いくら、あいつの子だとしてもな)
「聞きたいことは、一つ。私の親についてだよ」
「言うわけないだろ!」
「知ってるよ」
何?ならなんで攫いやがったんだ?
やはりおかしい。俺がこれ程までに恐怖を感じたことのある相手と言えば、将軍以上の相手だけだ。それをこんなガキに感じるなんて、あり得るわけがない。
なのに、
俺は、自分の手を見る。
皮膚が粟立ち、ブルブルと震えている。
「最初から分かってたもん。だから…………」
「やめろ……!…………」
ミナリスが俺の目を覗き込む。
その時に、ミナリスの眼が真っ赤に光っていることに気づいた。そして、幾十にも魔法陣が描かれている。
益々芽が輝くにつれ、俺の意識がまた遠のいた。
sideミナリス
「はあ……ふぅう。疲れたぁー」
『その魔眼は、魔力の他にも体力を使う。どうだ?侵食の魔眼は?』
そう、初めて、3つ目の魔眼である、侵食の魔眼を使った。
この魔眼は、相手を文字通り侵食することが出来る。
今回したことを簡単に説明すれば、魂を侵食し洗脳した。
「これ疲れる!けど、やっと情報を得られたね」
『それはそうだろう。我の持っている魔眼だからな…………ワァルモーゼ公爵だったか。そいつについて、何か知っているか?』
「確か、帝国の二大公爵の1人ってことくらいしか分かんない!」
ブボミスから聞いた話によれば、ミナリスの父親は、元十三使徒の1人らしい。その頃に仕えていたのが、ワァルモーゼ公爵のようだ。
裏切り者と呼ばれている理由は、ワァルモーゼ公爵の私兵を数百殺し、それを止めようとした者を惨殺した、と言うことらしいが、なぜそんなことをしたのかは、ブボミスは知らなかった。
『しかし、これは厄介だな』
「なんで?」
『考えてもみろ。公爵ということは、かなりの権力を持っていることになる。ならば容易には近づけないだろう』
「そうなの?」
『ミナリス。お前は、王に簡単に会えるか?』
「あ!確かにそうだね!……ならどうしたらいいの?」
『とにかく、情報を集めろ。そのために、帝都に行くぞ』
「了解!」
そこまで言うと、ふらりとふらつき、近くの壁に寄り掛かった。
「あれ?」
『気力を使いすぎたのだ。侵食の魔眼は、純粋な攻撃の力じゃない。初めてのことで、余計な体力を使いすぎて、消耗している。今日はもう休め』
「うん、そうする」
すぐに、うとうとしだし、横に倒れてしまった。
それを、どこからともなく出てきた、黒い霧、瘴気がミナリスが倒れる前に優しく包み込み倒れるのを防いだ。
『おやすみ、ミナリス。魔の適合者よ。魔眼のせいではない。お前の体が、徐々に悪魔の体になり始めているのだ。やはり、何者かの干渉があっているな。我も現界に干渉しやすくなっている。もうすぐだ、近い内会えるだろう』
ドュルジの独り言は、眠りについたミナリスには聞こえなかった。
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