54話
『魔王軍、ついに本格行軍!』
すでに、一国が侵略され、魔国に次に近いブランド王国が魔王軍の次の標的国だ。
そのことを知った、ブランド国王は、急いで勇者を自国に戻した。
今まで、魔族が攻めることはほとんどなかった。
あったとしても、かなり少数の小競り合い程度だった。
それも、兵士が出て、退けることも出来ていた。
そのため、民は魔族、魔王軍の脅威を完全に忘れていた。
今回も簡単に退けることが出来ると信じて疑ってなかっただけに、混乱も一際大きかった。ブランドの民は次は自分たちの番だと怯え、国が混乱している。
それを、勇者を矢面に立てることでなんとか抑えている状態だ。
だが、そんなことで完全に一度混乱した国民全員をずっと抑えていることなんで出来るはずもない。それに、勇者は対人の経験がない。ただの高校生が、魔物を殺すことに忌避感を覚えながらも、徐々に抵抗感がなくなってきたところだ。
そこに、魔族とはいえ姿形は人に近い。
魔族をなんの感情もなく殺せるのは、勇者の中では、佐藤太樹だけだろう。
ただ、佐藤太樹だけでも、魔王軍のただの兵士数万ならば問題なく制圧出来るだろう。
勇者に加え、竜殺しもいるのだ。
それでも、軍を分けられたり、魔物を放たれたりしたら国や街全部を守ることは難しい。
魔王軍は、魔物を無差別に放つだけでも王国はかなりの被害に見舞われる。
帝国も魔王軍の侵攻があったが、使徒が半数近くに減ったとしても、帝国が帝国軍が使徒が負けることなどあり得ない。
難なく退けた。
そして、問題のウィルムンド王国には、魔物が攻めてきただけで魔王軍が攻めて来ることはなかった。
そのことで、周りの国から魔王軍と繋がっているなんて噂されたりもしたが、いつの間にか完全に噂は消えていた。
sideレイン
「かなりいい感じだ」
俺は、この数週間戦場の光景を視ながらどうもっと楽しもうかと考えていた。
「主が望むままに動き始めましたな」
「ああ、とってもいい感じだ。数百年前、魔族が世界征服を謳って、攻めたが、当時から帝国十三使徒第一使徒だったセルビスにより、阻止された。その時は、結構な被害が出たけどさ、喉元過ぎれば熱さを忘れる、ってな感じで偽りの平和を楽しんだだろ。魔族は強くなり、使徒が頭一つ抜けていた戦力差が埋まった。なら後は、戦うだけだろ?」
「そうでございますね。この老骨も少しばかりこみ上げて来るものが……」
「おいおい、お前が老骨ならお前を創った俺はどうなるんだ?」
俺は、意地の悪い顔をしセバスを揶揄う。
それに、なんとも言えないような顔をした。
「クク、そんな顔するな。……なんだ?セバスも戦いたいのか?」
「……確かに、そう感じますが、今回は遠慮します。あの者らに任せて見たいかと」
「あ?あの2人か。ほう……お前がそこまで言うほどなのか?」
「それは、実際に見てからのお楽しみ、と言うことで」
セバスがここまで、言っているんだ。俺としては、楽しみだ。
人界に降りている間には、様々な制限を設けている。
知りたいと思うだけで、未来が分かったりするのも、そのひとつだ。未来が分かったら面白くないからな。
「さて今度は、こっちを見てみるか」
「私も楽しみですな」
俺は、大画面のテレビの電源を入れる。
セバスがコーラとポップコーンを持ってくる。完全に映画を観る感じだが、その画面に映っているのは、映画なんて生易しい物ではなく、今も大量の血が流れている。何が起こっているかと言うと、魔王軍の魔物使いが放ったSランク以上の魔物と戦っている大量の鎧を着た男たちだ。千はいるだろう兵士が、押され気味だ。
「さてさて、どうなるかな?」
ニッコリと、女性が見たら、いや、男性が見たとしても見惚れてしまうだろう笑みを浮かべた。
★★★★★
sideジーヴェル
近隣の街に出現したと言う、魔物を退治するために、ここには千もの兵士が集められている。
ただの魔物だった場合には、これだけの兵士が集められることなどない。だが、一度少数を向かわせ全滅してしまったからだ。
「今から、標的のマンティコアとコカトリスの討伐に向かう!我らがここに集められた理由は知っているだろう!今回の相手は、先の2体に加え魔物使いである魔族もいる!……第一部隊と第二部隊はマンティコアの討伐!第三部隊と第四部隊はコカトリス!第五部隊は魔物使いの捕獲!」
「隊長!」
兵士の1人が手を挙げる。
「なんだ?」
「魔族は捕獲……なのでしょうか?」
それは、俺も思っていた。
魔族は総じて強い。いくら魔物使いの能力だとしても本人が弱いとは限らない。魔物よりも主人の方が強い場合もあるからだ。
「その通りだ!しかし、予想より強力な魔族だった場合などは殺しても構わん!最近魔王軍の行動が活発になってきたため、情報が欲しいから出来れば捕らえたいと言うだけだ!」
「了解しました!」
納得した表情で、お礼を言う。
それから、注意事項を何個か聞き、目的の場所に向かうことになった。
あれから、2時間程歩いた時、急に上から声がかかり、この場に緊張が走った。
「あれ〜〜〜?また来たの〜〜〜?めんどくさいな〜〜〜」
間延びした声に、一斉に上を向き声を発生した人物を見る。
まだ少年と言っていい容姿をしているが、魔族だと言うことを忘れてはいけない。
見た目に惑わされて、敵を侮ると痛い目に遭うことは経験上知っているが、自分の子供くらいの見た目なため、自分でも気が付かない程気が抜けたのはしょうがないだろう。
「散開!」
隊長の号令により、呆気に取られていた兵士が予定通りに散らばる。
魔族の少年しかいないが、周囲に気を配ることも忘れない。
どこかに隠れ潜んでいるかもしれないからだ。
「はあ〜〜〜仕方ないな〜。出て来て〜〜〜」
魔族の少年がそう言った瞬間、俺たちの前に、魔法陣が現れた。
そこから、2体の魔物が出て来た。
「こいつらか!作戦通りに行くぞ!」
『おう!!!』
隊長の掛け声に、現れたマンティコアとコカトリスを作戦通りにその部隊で対処にあたる。
俺は、第三部隊だ。コカトリスの相手だが、俺とは相性はいいと思う。
コカトリス。2メートル程ある鳥みたいな魔物で、毒の攻撃をしてくる。
だけど、俺は解毒の魔法がかかった魔道具を持っている。
「まずは、遠距離で攻撃する!魔法よーい!……ってぇえええ!」
部隊長の号令で、魔法の攻撃が始まる。
「コケェ!」
「なに!?」
部隊長の驚愕の声は、俺たちの気持ちを表していた。
普通のコカトリスならば、解毒できなければかなり厄介な敵だが、勝てない敵ではない。
魔物にしろ何にしろ、遠距離の攻撃で弱らせ、近距離で仕留めるのが、戦いの基本だ。
しかし、魔法が牽制にもならないなど分かるはずもない。
一鳴きで、数十の魔法が消滅し、コカトリスに届いた魔法もその羽毛に傷一つ付けれずに消えていく。
「クッ!剣で直接攻撃だ!」
「俺に続けッッッ!」
誰が発したのか、激励に動かされ、突撃する。
俺も、続き攻撃する。しかし、コカトリスに到着する前に、紫色の霧が足元に漂っているのに気付いた。
(やばい!)
霧の発生源を見る。コカトリスの口から紫色の液体が嘴を伝い地面落ち、ジュウッと音を立て気化する。それが、霧となって立ち込めている。
毒耐性を持っている者が、コカトリス討伐に選ばれたが、血を吐き倒れる兵士がいるため、耐性を突き抜けたのだろう。
(クソッ!コイツッ通常の個体より毒も強力になっているのか!)
肉体強度もさることながら、毒も強力と来た。
一部隊200人、二部隊のため、計400人の編成だが、もう100人は毒により戦闘不能になっており30人程が死んだ。
隊長が雄叫びを上げ、突撃した。
隊長の間合いに入り、剣を振り上げ、下ろす瞬間、コカトリスの爪が跳ね上がった。
上げていた隊長の腕が飛び、頭からがっぽりと食べられてしまった。
「隊長おおおおおおおお!!!」
「クソガァ!!この化物め!!!!」
「待て!!」
隊長を殺されたことに怒り、兵士の数人が感情に任せて攻撃する。
しかし、そんなことで埋まる差ではない。次々と一撃で殺されていく。
(どんだけ強いんだよ!……向こうは……なっ!?」
俺は、マンティコアの方はどうなっているのかと、目を向け、さらなる絶望が俺を襲った。
そこには、400人いた兵士がもう数十人程しか残っておらず、戦意喪失しているのが目に見えて分かった。
「てったーー」
(撤退してどうなる!?そもそも逃げれるのか!隊長は……!?」
隊長のことが気になり、コカトリスから距離を取っている今の内に探す。
そして、見つけた。首だけになった隊長を。
(魔族の相手をしていたはずだろう!?この短時間で200人者兵士を殺ったのか!?)
俺が驚愕しているのには、理由がある。
ただの烏合の衆なら仕方ないかも知れないが、俺たちは、きちんと鍛えられた兵士だ。特に、隊長と部隊長、他数人は精鋭と言ってもいいほどの手練れだ。
それに、魔族の少年を見てみると、全くの傷を負っておらず、返り血すらついていない。
それ程の差があったといことだ。
(1000もいた、兵士も今や100人以下……)
コカトリスにもマンティコアにも致命傷どころか満足な一撃すら入れることが出来ていない。
ここからどうするか…………。
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