48話
sideアシュエル
使徒3人を始末し終えたアシュエルは、レインの元に報告しに戻った。
「レイン様終わりました」
部屋に入ると、床に膝をつき声をかける。
アシュエルは、レインの自室に入ることが出来る数少ない人の1人だ。
椅子に寄りかかり背もたれを倒しながら横になっていたレインが背を起こす。
「おつかれ〜。で、どうだった?」
「はい、レイン様のおっしゃっていた通り、使徒たちは上位人族でした」
「だろうね。だから使徒とか、超越者なんて言われているみたいだけど……半神の域まで至ったお前からすれば雑魚だったか」
半神。それは、半神半人とも呼ばれ半分神になった者のことだ。
神人と言われる者もいるが、それは神に近しい力を持った人、という意味であり、神ではない。
アシュエルは、暴龍騎士団団長の中で唯一半神に至った。
故に、レインのお気に入りであり、視ていて面白い者と言うことで、いろいろな権限が与えられている。
「一つ知りたいんですが、使徒とはあの程度なんですか?」
「ああ、それのことか。この世界では、進化という概念自体がほとんどないらしい。魔物が時々発見されるだけで、人が進化するとは世間では認識されてないってことで、上位人族になった使徒がそれだけ持ち上げられているってことみたいだ」
「と、言うことは、この世界の管理者が選んだ使徒ではないと?」
「そそ。ただ、選ばれた者と言う意味で名乗っているみたいで関係性は全くないな」
「それともう一つ疑問なんですけど……第一使徒は別格に強いと聞きましたがどうなんでしょうか?」
「聖人になった時に気付いたと思うけど、上位人族との時とは全く違うだろう?」
そこまで言われ、アシュエルは気づいた。
第一使徒セルビスは、聖人だと。
確かにそれなら、他の使徒とは力の次元が違うのも納得だ。進化した者としていない者では、勝負にすらならないからだ。
「聖人ってことは、暴龍団長並みなんですか?」
「いや、同じ聖人でも、お前たちの方が上だ」
そのことに、アシュエルは安堵する。
死線を共に潜り抜けた仲間が、死ぬのは目覚めが悪い。
「どうした?殺り合いたいのか?」
レインがニヤニヤしながら聞いてくる。
「はい、多少は勝負になると思うので」
「それなら、四天王あたりともやってみたらどうだ?」
「では、機会がありましたら殺り合いたいと思います」
★★★★★
side皇帝
今年齢60を超える皇帝は、威厳などかなぐり捨て、普段の厳格とした態度ではいられない程取り乱していた。
此度の戦争は、絶対に勝てると思っていた。
実際に兵力差があり過ぎ、普段は国から出さない使徒も動員していたからだ。
使徒を出して、負けたことなど帝国の歴史の中で、ただの一度もない。
200年前の魔王軍が攻めてきた時も、周辺国家が徒党を組んで攻めてきた時も使途さえ出せば制圧することは容易だった。
そして今回も、戦場に使徒を2人、裏で3人を動かした。
使徒とは、1人出れば戦況をひっくり返せる程の存在だ。
それだけに、信頼していた暗部からの報告を信じることが出来なかった。
「どう言うことだ!?使徒が負けるなどあってはならん!!」
髪を掻き乱し、怒鳴り散らす。
皇帝の声は、廊下まで響き、巻き添えを怖れて侍女たちは、部屋に近寄ろうとしない。
「クソがッ!!それほどの強者がいると言うのか!?……いや、いや!そんなことはあっていいはずがない!」
誰もいないはずの部屋に突然皇帝に声がかけられた。
「皇帝荒ぶっているな」
「!?セルビスか…………お前の言った通りに、送った結果がこれだ!お前は知っていたのか!?」
セルビスと呼ばれた、皇帝の部屋に現れた人物。
見た目青年まではいかないが、少年ではない男だった。
この男こそ、十三使徒第一使徒セルビスである。
表向きは、皇帝に仕える剣であり盾。だが実際は、皇帝と同等の地位である。この事実を知る者は、セルビス他、第二使徒と三使徒のみである。
「流石に今回は想定外だな〜。俺と同じ聖人に至っているなんて驚きだ」
「なに!?」
皇帝は、もちろん進化のことも知っていた。それがどれだけ規格外のことで、どれだけの力を持つ者かも。そして、使徒が束になっても敵わないセルビスの強さも。
そのセルビスと同等の存在が相手にいるなど分かるはずもない。
「それは本当なのか!?」
「それしかないでしょ。3、5、6が揃って死ぬことなんて、ありえない」
「だからだ!聖人が相手にいるならお前以外だと相手にならん!」
「あっちのほうはいいのか?」
「あっち?とは何だ?」
「戦争の方だ」
「ってそっちもに決まっているだろう!?38万だぞ!?それが、生き残り100程度!38万が全滅しのだぞ!」
「そっちも、上位人族以上がいるんだろう」
下位の使徒と上位の使徒ではやはり力の差が違う。
だが、使徒は使徒。弱いはずもない。それが、殺され尽くしている。それも、相手には全くの被害がないとのことだ。
「いつの間に王国はそんなに力をつけた!?……クソ!どうすれば……!」
頭を抱え、目の焦点も合っていない。
「安心しろ。俺がいる限り皇帝の身は安全だ」
セルビスの言葉に、皇帝は正気を取り戻す。
「……そうだ…………お前さえいればどうにかなる……!」
「それでどうする?俺が直接王国を潰してこようか?」
「ああ、そうーーだめだ!お前には、国から出てはならん!使徒が死んだことにより、一部暴走する奴が出てくるはずだ……!セルビスは、それを即座に制圧しろ!それと、敵の情報を集めるように言っておけ!」
「了解した」
シュンッ、とその場からいなくなるセルビス。
皇帝は、頭が切れ、判断力にも優れている。そして、感情を抑える術を持っている。どれだけ感情的になろうとも理性を失うまでにはならない。
そして、戦の基本、情報収集を優先した。
だが、怒りは収まらない。それと同時に恐怖も。
皇帝自身、若い頃は戦場に立ち前線で戦っていた戦士でもある。その肉体は、衰えておらず、60とは思えないガッチリとした肉体を持っている。
その、皇帝が恐怖を感じている。
「もし、もしだ……セルビスが負けるなど……いや、それだけは絶対にないか」
ふと浮かんだ恐ろしい考えを頭を振って消す。
だが、なかなか頭の片隅から離れず、モヤモヤとした気持ちが続いていた。
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