47話 十三使徒の裏任務
sideオーガーリー(第三使徒)
ウィルムンド王国近辺の森に3つの人影があった。
1人は、20代半ばの青年。緑色の髪をショートに切り揃えた好青年といった印象の男だ。
1人は、80歳は越えているだろう年齢の老人だ。顔やローブの下に見えている肌には、濃いシワが刻まれており、腕など枯れ木のように細い。色も青白く今にも倒れそうだが、目だけは爛々と輝いており、見る者に恐怖を与えるだろう。
1人は、猫背で歩き2人の一歩後ろを歩いている。細められた目は開いているのかも怪しい。口元にも胡散臭い笑みが浮かんでおり、見る者に軽薄な印象を与えるだろう。
3人は、それぞれが帝国の切札とも言われる十三使徒のメンバーだ。
皇帝によりある任務を受けている最中である。
任務の内容は、ウィルムンド王国第一王子の抹殺。及び、危険人物の排除。
オーガーリーは思う。
いくらなんでも、この面子で任務に当たるのは過剰戦力だと。だが、皇帝は無駄なことは一切しないこと知っているため、この3人で行くことに何か理由があると言うことだろう。
「キシシシシシシッ。旦那っ!さっさと終わらせましょうぜ!」
不気味な笑いを上げながら言う。
「その笑いをやめなさい。煩わしいですよ」
その丁寧な口調と裏腹に、顔には軽蔑の表情が浮かんだ。
「ふぉふぉふぉふぉ。儂がやってもいいんじゃろう?」
「ああ、王子は強いらしいが公なら大丈夫だろうね」
「キシシッ俺っちは、王女ヤっちまってもいいか!?」
「ダメに決まっているだろう。任務が終わったらすぐに戻る。長居する意味もないからね」
呑気に話しているように見えて、一切気を抜いていない。
今いる場所は、森だ。つまり魔物がいるが、3人の殺気のこもった視線を受け、死んでいく。殺気だけで魔物を殺すことが出来る程の強者ということだ。
「危険人物って誰なんでぇ!?」
「王国の騎士団団長らしいですよ」
「ほぉ。団長如きに儂らが?」
「公。何事にも慎重に、ですよ」
「お前はそんなんじゃから3位なんじゃよ」
「むっ」
老人の言葉に、オーガーリーは苦虫を噛み潰したような顔をする。
老人ーーデーヴィッド(第五使徒)ーーの言ったことは、事実だ。
第一使徒セルビスは別格だが、第二使徒よりもオーガーリーの方が才能という点では上だ。にも関わらず、第三使徒のままなのは、その性格が災いして機会を逃し続けたためだ。そのことを自覚しているからこそ、そのことを言われるたびに、悔しい思いが胸を燻る。
「公も序列五位ではありませんかっ」
少しムッとしながら、細やかな反撃をする。
それに対し、笑いながら答える。
「ふぉふぉふぉふぉっ。儂はいいんじゃよ。序列などに興味はないからの」
「キシシッ!旦那っ!旦那っ!帰ったら俺っちと席をかけてやりましょうよ!?」
「嫌ですよ。どうせ僕が勝ちますし」
キシシッと笑いながら肩を竦める。
男は、リーザイ。元は、侯爵の地位にあったが、その性格のせいで降格を繰り返し、第六使徒という立場とそれにふさわしい力がなければ、すぐさま殺されるか奴隷落ちしていただろう。
オーガーリーは思う。こいつはやはり苦手だ、と。実力は自分の方が圧倒的にも関わらず、ズケズケと内に踏み込み込んでくる。
もう少し進めば、ウィルムンド王国の城壁が見えて来るだろう距離に差し掛かり、急に歩みを止めなければならなくなった。
「何やら楽しそうな話をしているね」
『ッッッ!?』
現れたのは、10代半ばと思わしき少年と、20歳ほど女性だ。
無駄な雑談をしていても、警戒し、気配を隠蔽していたにも関わらず自分たちの場所がばれ、さらには、一切の気配すらなく自分たちに近づいて来たことに、さしもの使徒でも動揺した。しかし、
さすがは使徒だ。一瞬にして抑え込み、周りに伏兵がいないかを目の前の人物に注意を払いながら確認する。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。ここには、俺たち2人だけだからね」
「統括。そんなこと敵にばらさなくてもいいじゃないですか!」
「あはは!ごめんごめん。だって、バレないように頑張って警戒しているのも見ると笑えて来ちゃってさー」
オーガーリーたちの正体を知らないで来ているなら分かるが、知っていてこの態度である。そのことに、気の短いリーザイは怒鳴りつける。
「オイッ!お前らは何者だ!」
デーヴィッドは、背中に回した手で、空間から杖を取り出し、器用に地面をコン、と叩く。
すると、周囲の木々が枝を伸ばし目の前の敵を絡め取ろうとする。
避けようともせずに、捕まったことに拍子抜けした。
「ふぉふぉ、口だけのようじゃな。で、何者なんじゃ?」
ガッチリと両手両足を枝に拘束されながらも、笑いながら答える。
「僕たち?僕は、アシュエル。君たちが言っていた騎士団の団長だよ!」
「だから、なんでそんな素直に教えてるんですか!」
「ええ〜いいじゃん!減るもんでもないし」
「そーゆー問題じゃありません!」
女の方は、躱したようだが、捕まっている少年を助けようともしない。
「キシシッ!お仲間を助けないのかっ!?」
リーザイが嘲るように言う。
「へ?あ、これのこと?十三使徒なんて大層な名前だからどんなもんかと思ったけど、大した実力でもないね」
その言葉に、3人の額に青筋が浮かぶ。
「使徒を軽んじたこと、後悔しながら死ね!」
「キシキシッ!そこから抜け出せねぇのによく言うぜ!殺すぞガキが!!」
だが次の瞬間、パキンッと音がし、枝が砕け散る。
「よいしょっと……この程度の高速じゃ足止めにもならないよ」
「なに!?」
一番驚いているのは、デーヴィッドだ。即席で発動したが、大量の魔力を使って放った。完璧に決まれば、使徒といえども容易には抜け出せないだろう。それを、あっさりと、抜け出した。どころか、壊した。
「『紫蝶炎』!!」
オーガーリーの放った、紫色に光る無数の炎で出来た蝶だ。
蝶が羽ばたくごとに落とす鱗粉が地面に落ち、土が溶ける。物凄い温度だ。
「それが本気なの?」
パン!と手を叩くと、突風が起き、全ての蝶が消し飛んだ。
オーガーリーは、驚愕しているが、その時には、リーザイがアシュエルの背後に回っており、首に向かって剣を振り抜く。その剣には、毒々しい色の魔力が溢れ出しており、見た瞬間に毒が纏わせてあるのが分かる。
「だからそれが本気なのって聞いてるんだけど?」
「クソッなんで分かった!?」
「いや分かるよ。姿が消えてたのは、透明化。それに加え、瞬間的な加速で背後に回り、毒魔法を纏わせた、剣で一撃。掠りでもすれば数秒で、猛毒が全身に回り、手足が痺れ、魔力制御が出来なくなるような魔法でしょ?」
「な、なんで……!?」
「視れば分かるよ」
アシュエルがリーザイと話している間にも、デーヴィッドは、仕掛けていた。
死霊魔法による攻撃、精神魔法による精神支配、精神破壊、内部への攻撃が聞かないと知るや、風の刃、炎と雷の竜巻、闇魔法で強化した様々な魔法。あらゆる攻撃魔法を仕掛けていったが、何一つアシュエルまで攻撃が届くことなく、消し飛んだ。
「儂の魔法が効かんじゃと!?ちぃ!化け物か!」
「酷いなぁ。こんな幼気な少年に向けて、危険な魔法のオンパレードなんて!」
カラカラと全く気にした様子もなく笑う。
強者と言われる者たちですら、今の魔法一つすら防ぐことなど出来る者は少ないだろう。
事実、森は、アシュエルの周囲100m程、焼け野原になっている。
「効かないのが不思議なの?これは、僕のスキル何だけどーー」
「ーースキルじゃと!?魔法の完全無効化などあるはずもない!!!セルビスさえ完全な無効化など出来ん!!!」
「だから最後まで聞いてってば、僕の魔力より低い相手の魔法無効化なの。つまり、君の魔力より僕の方が多いってことだね」
無効化のタネを教えると、使徒3人が固まる。
「あれ?どしたの?」
「仕方ないですよ。統括が持つと有り得ない程強いですから」
「え?そなの?だってレイン様には効かないし」
「いえ、あの方達は特別ですよ。強いとか弱いとかの次元じゃないですから」
オーガーリーは目の前の少年が言っている意味がわからない。
いや、分かっている。ただ認めたくないだけだ。自分たち使徒を圧倒的に上回る存在などあってはいけない。
襲ってきた恐怖を、自分は強いと言う自負で覆い隠す。
咆哮を上げ、気合を入れながら、突撃する。
だが、体に力が入らなくなる。
(な、なにが……?)
オーガーリーの最後に見た光景は、デーヴィッドとリーザイが地面に倒れているところだった。
「意外に、面白かったなぁ」
「あの老人は、統括と相性が良かったですからね」
「僕は、相性になんて左右されないけど?」
少しムキになりながら答える。
「それもそうですね」と言いながら、先程まで殺し合いをしていたとは感じない雰囲気のまま王国に戻るため帰ろうとする。
「あ、この人たちどうしよっか?」
「燃やしましょうか」
「じゃあ、この森も、お願いね」
「了解しました。統括」
数秒後、そこには、戦闘などなかったかのように元通りだった。まるで、時間が戻ったかのように。
☆☆☆☆☆お願いします!!!