40話
やっと!やっと出せました!
僕以外の全員が地面に倒れ伏している。
中には、首が斬られ死んでいたり、体が消し飛んだりと無残に殺されている者もいる。
僕は、フルで強化してこの惨状を作り出した目の前の人物に斬りかかる!
時は少し遡り、数時間前。
この日は、目的の人物に会える日だ。
勇者のみんなには昨日に話してあるため、Sクラスの教室に集まっている。
なんでも、ここから王城まで転移するらしい。
いつものように話していると、教室の扉が開いてアーク王子が入ってきた。
「これから、転移で送る。準備はいい?」
僕たちが頷いたのを確認したら、指をパチンと鳴らした。
光すらなく景色が変わった。
どこかの室内だと思うけど、たぶん王城だろう。
いきなり変わったことにみんなが戸惑っているけど、アーク王子がパンパンと手を鳴らす。
「ここは、僕の家だよ。これから、兄上の元に向かうから、着いてきて」
それだけ言うとスタスタと部屋から出て行く。
慌てて僕たちも着いて行く。
ブランド王城よりも通路にある置物などが豪華だ。
さすが、大国だと言われるだけはあると思う。
女子は、所々に置いてある壺や像などの芸術品を見ている。
どれも、キラキラとしているし、金で出来ているんだろう。一つ一つがとんでもない値段のものだと思う。
田舎者みたくキョロキョロしながら着いて行くと、突然歩みが止まった。
「ここが兄上の部屋だよ」
そう言いながら、王子がノックする。
中から「入れ」という声が聞こえ、その声に王子が顔を綻ばせドアを開ける。
ドアを開けて、まず目に入ったのが、大きなソファーとテレビだった。
(え……なんで異世界にテレビが?それにあれって、エアコン?)
目を上に向け天井を見ると、会社内で使われているようなエヤコンがあった。
他にも、カーペットも、日本にあるような感じの見た目だし、いきなり現代に戻ってきたかのように思ってしまった。
ここまで見れば、レイン王子は転生者、または日本を知っている人だと確信した。
入り口で、靴を脱ぎ中に入る。
中に入って分かったけど、この部屋のモチーフは完全に現代だ。
それも、魔法を使っているのか、電気も通っていないはずなのに灯りもある。
周りには、ドアが何個もあり、その中の一つを開け入って行く。
その中は、執務室なのか小さめのソファーがテーブルを挟んで向かい合って並んであり、その奥の机に部屋の主が座っていた。
その人物を見たときの感想は、ただただ美しい。男のはずなのに美の結晶だと言える程に。
そして次に思ったのは、
「…………英雄王?」
僕の声じゃない。
クラスのオタクの誰かだと思う。
そうなのだ、金髪に赤眼完全に某英雄王そのままの姿だった。
ただ、間近で見ると美しいしカッコいいと思うけど、これ程だと嫉妬の感情すら浮かんでこない。
周りに目を向け、クラスのみんなを見ると、同じように放心している。
男も女も関係なしに魅了するオーラすら放っていそうだ。
実際にステータスに魅力値とかあったら、余裕でカンストしていそうな程。
ここで初めて目の前の人物が喋った。
「アークお疲れ様。それで、お前たちが勇者か」
アーク王子が声をかけられたことに喜んでいるのが分かる。
次いで、僕たちに目を向けた。
何の感情も乗っていない目だ。どこか期待外れのような目で見られていると感じるのは気のせいだろうか。
「俺の事は知っているだろ。自己紹介はなしにして、じゃあ行こうか」
そう言われ、反応する前にまた景色が変わった。
転移した先は、あたり一面何もない平原だ。
「ここは、俺が創った空間だ。基本的に俺らが戦闘する時に使っている空間だからどれだけ暴れても外には響かない。思う存分本気でこい」
何気に聞き捨てならない言葉が聞こえた。戦闘のところが遊びと聞こえたのは気のせいじゃないと思う。
もし、本当に遊びでこの空間を作る必要があるなら、現実では被害が出るほどだという事だろう。
本気でこいと言われても、みんなはいきなり転移されて困惑の表情をしている。
何もアクションを起こさないことに焦れたのか、レイン王子が右手を上げた。
その瞬間僕は、最大限右に跳んだ。
僕たちのいたところに弾丸のような何かが飛んで来て、クラスの数人を吹き飛ばした。
見た目からも分かる通り財宝を飛ばす技だ。
一気に殺すつもりはなかったのか、無事だった人もいた。
今起こったことに反応できず、隣を見て今までいた友達がいないことに気づき、後ろを見た。
その時に、友達が倒れているところを見た。そして安堵したけど、体に風穴が開いているのを見て身体が固まる。
死んでいるのが人目でわかったからだ。
「キャアアアアア!!!し、死んでる!!」
1人の悲鳴で恐怖が伝染していき、クラスが恐怖に包まれた。
そして、レイン王子に目を向けると背後に光の窓がいくつも出現していた。
「ほんとにつまらん。お前たちは何をしていたんだ?召喚されて半年以上強くなるために努力してきたんだじゃないのか?それに、なんだその悲鳴は」
心底呆れたようにわざとらしくため息を吐いている。
そう言っている間にも、窓は増え続け今は、1000はあるだろう。
(まずい!全く見えなかった!どうする!どうしたらいい!?)
まず思ったのが、鑑定をすることだった。
あの、白虎ですらめちゃくちゃなステータスをしていたんだ。その主ならとんでもないステータスだろうけど、半年間レベル上げに徹してきた僕が強化しても見えないレベル。今なら白虎にも勝てる自信はあるって言うのに。
そこまで考えて、鑑定をした結果あり得ないことが起こった。
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警告:表示できません
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(は?……何それ?)
ステータスが表示できないというあり得ないことに思考が停止し、一撃を右腕に貰い吹き飛んだ。
すぐに『超再生』のスキルで腕が元に戻った。
(白虎にも見えないスキルはあった!それは、僕の鑑定よりも高位のスキルだと思っていたけど、この人は存在自体が高位だとでもいうのか!?)
どうすればいいか考えながらも致命傷を避け避けて行く。
いくらすぐに治るからと言って突撃しても串刺しにされるのがオチだろう。
この間に、クラスのみんなは死んでいった。
光輝くんの聖鎧に聖剣の効果を上乗せし防御に徹しても雨のように向かってくる武器の嵐に耐え切れるはずもなく呆気なく死んでいった。
結界で防ごうと、防御に特化したスキルで防ごうと、身体能力を上げて避けようとするも全て無駄になり、等しく死んでいった。
僕以外は、クラスみんなが地面に倒れ伏した。
「やっぱりお前が残ったな」
「はあ……!はあ……!はあ……!何がしたいんですか!?」
なんとか避けて行くも不死身じゃないため首を切り離されたり、心臓を破壊されたりすると死ぬため死ぬ気で避けに徹しながら一息ついたところで目的を聞く。
「気づいているだろうけど、元々は日本に住んでいた」
やっぱりと思った。
でも、次の言葉で目の前の存在が全くの別の生き物だということに気がついた。
「他の世界にも遊びで転生したりしていたけど、地球はほんとにつまらんかった。核があるのに使わない。戦争もせず、日本なんて平和そのものだろ?」
確かに。この世界は夜道女1人で歩くことすら出来ないほど治安が悪い。
それに比べて日本は、夜中コンビニに行ける程だ。
「そこで思ったんだよ。別の世界に行って遊ぼうってな。地球に戦争を引き起こしてもいいけどそれじゃつまらない。下手に、文化が進みすぎたせいで制御がかかってしまうからな。後な、お前は日本には魔力はないとか思っているけどきちんとあるんだよ」
「っっっ!?」
馬鹿な!?今ならわかる。魔力視を得たおかげで魔力が視えるようになった。だから分かる。地球には魔力がないと。
それが、あると言われれば驚くのは当然だ。
「ステータスもきちんとある。だけどその全てに隠蔽がされているため気づかんだけだ。誰がしたか、地球を管理している神が、だ。魔力の存在も隠されていた。でも、隠されているだけだ。当然気付くものもいる。陰陽師など言われるものたちがそうだな」
こちらの質問に聞いてないことまで喋っている。
テンプレ的には、必要ないことまでペラペラ喋って、最後は死ぬような悪役がいるけど、この場合はあり得ない。力の差があるなんていう次元じゃない。
「一旦ここまででいいだろう。それで、お前は何をしていた?他の奴らは使い物にならんし素質もないから期待しておらん。でもお前は違う。お前は、ハクに会っただろ?そして俺からの言葉としてもっと強くなれと言われたはずだ。なのになぜそれほどまでに弱い?」
「レベルも300を超えている!」
これまで死ぬ気で努力してレベルを上げたことに対して馬鹿にされ敬語も忘れ怒鳴る。
「それが?その程度なのか?俺が言ったのは最低でも1000、それ以上のことを言ったつもりだ」
あまりの無茶振りに頭が真っ白になる。
レベルは当たり前だけど、高ければ高い程上がりにくくなる。1000なんて半年で行けるわけがない。
レイン王子が右手を掌を上にしてあげる。
するとそこに、白い毛並みの犬が現れた。
それをよく見ると、半年前に会った白夜だった。
「ハクだが、鑑定してみろ」
そう言われ鑑定する。
結果を見て驚愕した。レベルは3万を超えステータスも以前とは比べ物にならないほど上がっていた。
それに驚愕すべきスキルがあった。
それは、『身体極強化』だ。それを鑑定してみると、100倍からステータスを上げる僕の持っている『身体超強化』の上位互換だった。
「ばかな!?あり得ない!」
「何がだ?俺がハクを最初に見つけた時はレベル8000程度だった。役に立たんから多少鍛えて1万超えたがそれでもやっぱり役に立たん。だからペットなんだよ。それから、お前に会って触発されたのか真面目に鍛えてほしいって言ってきてな迷宮創ってそこに放り込んだ。何度も死にながらこのレベルまで上げたんだ。魂を削りながらな。それに比べてお前はどうだ?跳んだ期待外れだ」
そう言うと、今まで出していた窓を閉じた。
「かかってこい」と一言言うと丸腰で構えもせずに腕を組んだ。
「何の真似だ?」
「丸腰だ、本気でこい。防御も避けることもしない。どれだけ時間をかけてもいいから最強の一撃を撃ってこい」
ピタリと微動だにしてないことからも本当に何もするつもりがないのだろう。
そこまで言われれば僕でも頭に来る。
この、擬似世界すら壊す勢いで、魔剣に魔力を込め始めた。