35話
王城に戻るとすぐに王様の前に連れて行かれた。
「よくぞ戻った!して、どうであった?」
王様の問いに、光輝くんが答えた。
「魔物はいました」
「おお!そうか!討伐できたか?」
「いえ、それが…………」
「ん?何かあったのか?」
光輝くんが言い淀んでいると、焦れたのか急かしてくる。
光輝くんが僕の方を見てくる。
僕に言えと、ここで投げるか。
「ここからは僕が」
「うむ、サトウ殿か。何があった?」
「確かにいたのですが、討伐は叶いませんでした」
「ん?出来なかったというのか?」
「はい。話し合いができたというのが一つと、純粋に僕たちでは勝てません」
「なんの魔物だったのだ?勇者でも勝てないとなると……」
「白虎、と言うのを聞いたことはございませんか?」
「びゃっこ?それ程の魔物だったのか?」
「強さを口で説明しても伝わりにくいので、レベルを。白虎のレベルは、12000です」
「は?今なんと?」
「12000です」
「…………私の聞き間違いか?12000なるものが聞こえたが……大臣お前にはなんと?」
「……私にも同じように聞こえました」
大臣と呼ばれた男、眼鏡をかけているが、レベルを聞いた瞬間ずり落ちた。
「それは、誠か?」
「間違いありません。それと、レインと言う人物に心当たりは?」
「レイン?そのものが何か?」
「その白虎の飼い主のようです」
ペットと言わなかったのは、受け入れやすいようにだ。
12000の化物を使役しているだけでも十分に受け入れるのは難しいだろうから。
「レイン……レイン……レイン」
大臣が譫言のようにレインと呟いている。
必死に思い出そうしているのだろうけど、いかにも悪そうな人物が俯きながら呟く姿は不気味だ。
「あ!!!思い出しましたぞ!?」
「おお!で誰だ?」
これは、僕も気になる。
「確か、ウィルムンド 王国にレインと言う王子がいます!」
「ああ、あの化け物か」
「……はい」
相手が分かったのか、そのレインのことを思い出したのか何か納得しているような口ぶりだ。
「知っておられるので?」
「ああ、と言うか、あの者には関わらんほうがいい、あれは一種の天災だ」
「強いので?」
「強い弱いではないのだ。実際に見たことがあるが、あの者に敵対したものは誰であろうと死ぬ」
何かを思い出したのかブルッと震えた。
「それで、その白虎なる魔物は危害を及ぼすのか?」
「いえ、ただの暇つぶしであの迷宮に来ていたみたいで、攻略したそうなのでもう時期帰ると思います」
「おお、そうか!それはよかった。して、勇者の皆には言ってもらいたい場所がある」
「皆ということは、他の別行動中の者もですか?」
「そうだ、行き先は魔法学園だ。先に言ったウィルムンド 王国とは友好国でな、そこにある学園に行ってもらいたい」
「分かりました」
友好国とはよく言ったものだ。敵国ではないが、友好かと言われるとそうではない。多少の交易はあっても、ウィルムンド 王国は大国だということは知っている。大国がこの国と友好だとはとても思えない。
大方、勇者の力を見せつけるためだろう。そして、あわよくば支援をしてもらえるように何かするんだろうね。
返事をしてからは、報告のことは話終わったので、例をして部屋から出る。
とりあえず今回のことは終わったようだけど、思ったより早く白虎の主人のレインと言う人物に会えるかもしれない。
「疲れたなぁ!」
「確かに、4日くらいかかったもんなー」
「で、今度は学校か〜」
「そうそう、また行くの?異世界でも」
もともと学生だったから、異世界でも学校にいうのはちょっと、って感じだけど学ぶのは、魔法学園というだけあって魔法主体だろう。少し楽しみではある。
それに、他の国のことを詳しく知るいい機会だ。自分たちから旅をしたいと言っても許可されなかったろうし、普通は旅をして力をつけよ!ってなるくない?まあいいけど。
「それよりも目的の人物に早く会えるかもね!」
信介が気づいたように言う。
やっぱり気になるみたいだ。こっちに来てから強さがどれだけ大事かがよく分かった。日本にいた頃は、法律に守られていたり、治安も良く、ただ生活しているだけで生きていけた。
でも、ここでは強くなければ人権なんて無視される。小説にあるような、夢のような世界ってわけじゃない。逆に強ければ何をしてもいい。基本的には。
僕はチームのみんなに他の生徒への説明を任せ、別れる。
学園に行くのは、半年後らしいのでそれまでに、出来る限り強くなっていないといけない。ここからは、一人で行動することにする。
そのために別れを言わないといけないけど、きっと止められると思うから手紙でいいだろう。
ああ、忙しい忙しい!
そう思いつつも、口元には笑みが浮かんでいた。
ただこの時の僕には、あんなことが起こるなんて思ってもいなかった。