29話
『氷結の牢獄』は、全25回層ある。
そして、僕たち一行は今20層にいる。
「なんかあっけない?」
「そうみたい、敵が弱いですね」
簡単に来れているために、Sランク迷宮が簡単なところだと思っているかも知れないけど、そんなことはない。
僕たちのステータスが高いため、レベルの割にって感じるだけだ。
「ほらほら、気を抜かない。まだ攻略してないでしょ」
「でもよぉ太樹。ここまで、苦戦すらしてないんだぜ?SSの迷宮に近いって言われてんだろ?なら思い切ってSSSのとこ行ってみようぜ!」
能天気なこと言っているけど、その案はいいと思う。
相手とのレベル差があればそれだけ、大量に経験値が得られるからだ。
鑑定を使って、次までに必要な経験値も表示出来るようになったし、どの敵がどのくらい稼げたのか分かるようになった。効率も上がって今じゃ147になっている。
「みんなはどれくらいになった?」
「俺は、ちょうど123になったぜ!」
「俺は、120だね」
「私は、126です」
「私は、128です。……なんかすみません」
朱莉が謝ってくる。1人だけレベルが高いせいだろう。
魔法を使っているため、敵が密集している場所に高威力の魔法を放てば、それだけ一気に倒せるからだ。
「気にしなくていいよ。数レベルなんてすぐに上がるからね。本当勇者の称号ってすごいね」
「称号?」
「ん?」
あれ?称号の効果を知らない?これまでやってきて?
「称号によって効果があること知らない?」
「称号って二つ名みたいな物じゃないんですか?」
そういうことか。確かに、日本の感覚だとそうなるのか。
「称号には、持っていることによって効果があるやつがあるんだよ。例えば、『勇者の称号』。これは、経験値取得と、必要経験値に補正がかかる。つまりレベルが上がりやすいってことだね」
「だから私たちは、レベルが上がるのが早いんですね!」
「そういうこと。他にも、ステータスの全能力に補正がかかるから、レベル1の時にステータスを言ったらびっくりしてたでしょ?勇者は、初期値が高くて成長も早い。だから勇者召喚なんてものがあるんだよ」
「確かにそうですよね!」
「それに、ユニークスキルを絶対一つは持っているんでしょ?」
「うん。ユニークスキルってこの世界では、一つ持っていたら良い方らしいね」
ユニークスキル。それは、固有技能と言っても良いだろう。ただ1人のスキルってことではなくて、スキル以上に強いスキルがユニークスキルとなっているみたいだ。
「ボス部屋だね」
「気合入れていけよ!」
氷でできた扉を開くと、氷の巨人がいた。
「で、でけ〜」
「散開!!!」
僕の指示で、巨人の大きさに惚けていたみんながいっせいに散る。元いた場所に、唸りをあげた氷の巨人の拳が床を打つ。
身長10mはあるだろう。そこから放たれる拳撃。足を使わないのは倒れるからだろうか。
突如、巨人が膝をつく。
後ろに回り込んだ健が足を斬りつけたからだ。
「下がって!」
朱莉のか掛け声で後ろに飛ぶ。
青い炎の槍が5本巨人の胸に刺さる。
堪らず絶叫をあげる巨人に白炎の剣を投げつけて、終。
「けほっけほっ」
「ごほっ!ちょっと太樹!」
「い、いやごめんってば」
氷でできた体に、最高温度の炎を当てれば水蒸気ができるよね。
爆発しないでよかった。本当に。
「い、いやでもね?爆発してないしよかったくない?」
すると、その可能性があったか!とばかりに目をクワッと開けて、こちらを見ている。
「お、お前……水蒸気爆発起きたらどうすんだよ!?」
「大丈夫かなと思って、魔法もあるし」
あはは、と笑いながら誤魔化す。
「よし次の階行こう」
「あ、こら逃げるな!」
言い争いながら降りた先には、みんなして黙るしかなかった。
なぜなら、
「いくらなんでも、やばくない?」
「そうですね、これのおかげで寒さはあまり感じませんが、かなりの強風ですね」
「いや、強風ってか吹雪だろ」
21階層から、猛吹雪が吹き荒れていた。
寒くはないとはいえ、これじゃあ視界が悪いし風も強い。思い通りの戦闘は出来ないだろう。
「どうする?引き返す?」
「じょーだん!ここまできて諦めきれっかよ!」
「そうです!それに、ここが、今日だけ吹いているって訳じゃなくて、ここからボスまでは、この吹雪が続きそうですから」
「なら今日中にやりたいです!」
あら、意外。みんな戦闘狂じゃない。
ちょっと進むだけでも、さっきのボスだった氷の巨人がワラワラといた。
一回りは小さく、ステータスも弱いが巨人の群れっていうのはかなり迫力がある。
「うわぁ。でたよ巨人。つか何体いるんだよ!」
「さぁ?この階から下はのレベルじゃない?」
簡単に倒せる方法を見つけてからは、作業のように倒していたけど、突如信介が悲鳴を上げながら吹っ飛んでいくのを目にした。
「信介!!」
「ぐぅぅ。何かに体当たり食らったみたいだった」
回復魔法をかけながら、話を聞くが敵は悠長には、待ってくれない。
僕が離れたことにより、前線が軽く崩れ巨人すら倒せていない。
ここまでの被害がきたら、もう制限して戦う必要もないためスキルを発動して殺し回っていく。
一瞬にして、健たちを取り囲んでいた巨人の首が落ちた。
続いて、鳥の鳴くような声が聞こえ、上に飛ぶ。
元いた場所に、氷柱が落ちてきた。それを足場に、魔法を放った魔物に肉薄する。
「終わりだ」
剣を振るって無造作に倒す。
信介を吹っ飛ばしたのは、氷の鷹だった。上空からの急加速で体当たりしたのだろう。巨人が動き回れるくらい広くなっているため、天井も高い。
「よし終わったね。みんな、ステータスで勝っているからって油断したりしちゃダメだよ」
『は〜い』
しゅん、としながら返事をする。
実際に、ステータスで勝ってても次から次に来る魔物の相手をしないといけないため、視野を広く持たないといけない。集団戦にあまり慣れていないからしょうがないとはいえ、実際に起きたらちょ、たんま!って言えない。
「まぁ、これから慣れていけば良いか。それに、僕がいるときは死なせるつもりないし」
「さっすが〜太樹!愛してるぜ!」
気持ち悪いことを言いながら健が抱きつこうとしてくる。
ゲンコツを入れると、頭がボゴンッとなってはいけない音がした。
「あ、やばい。スキル解いてなかった」
急いで、魔法をかけて治す。
意識がなくなっていたが、治ると同時に目を覚ます。
「んんぅ。ばあちゃんが手を振ってた」
「ほんとごめん!スキル解いてなかった!」
「そ、それ、大丈夫なのか?」
大丈夫じゃないだろう。頭凹んだし。ばあちゃんに会ったとか言ってるし、今度何か奢ってやろう。
そして、それからは、逐一指示を出すんじゃなくて、それぞれの判断に任せ戦っていった。自分だけじゃなく、周りを見て、仲間の死角から狙われていないかなど、カバーしながら戦えるように訓練しながら進んだ。
25層ボス部屋。
「行くけど良いか?ちゃんと魔力ある?」
「大丈夫!」
一際重厚な扉を開けると、冷気が身を包んだ。
アミュレットを付けていても寒さを感じるほどだ。その冷気を発している魔物に目を向ける。
「『氷の竜』か」
体を丸め寝ている、この世界に来て初めて会う竜が目の前にいた。