27話
寝ていると、いきなり集まって欲しいと、いきなり起こされた。
昨日のあれのせいで寝不足なのに。
「ふぁ〜ぁ、寝む。あ、おはよう健」
「お、おはよう!太樹!」
「寝不足か?」
「うんちょっとね。ふぁあ、んで、んの集まりなの?」
「昨日向こうのチームが罠に引っ掛かっただろ?それのことで話があるってよ」
「それね、あの程度の敵に苦戦しているようじゃ仕方ないだろうね」
「あの程度ってなんだったんだ?」
「ブラックミノタウロスって言うミノタウロスの亜種らしい。黒かったよ」
「ほう、ほう。それで、レベルはどんなもん?」
「56」
「はあ!?56ぅ!?お前今何レベだよ!」
「14だね」
「それでよく勝てたな!?」
健は驚いているけど、忘れてないか?
「僕たちは、勇者の称号持ってるでしょ?そのおかげでレベルも上がりやすいしステータスの補正もたかでしょ?」
「補正ってなんだ?」
はあ、とため息が出る。
「あのさぁゲームは好きだったよね?」
「おう!好きだぜ!それが?」
「それで、RPGはしたことある?」
「おうあるけど、それが関係あるのか?」
「あるんだよ、それが。えぇと、レベルが上がるとステータスが上がるだろう?そのあがる数値に補正、つまりあがる数値が高くなるってこと」
まだよく分かっていないっぽいので、詳しく説明する。めんどい。
「例えば、STRが100あるとするでしょ?レベルアップして、120になる。でも勇者の称号のおかげで200になるっと感じ」
「おお!それは凄いな!つまりあれだろ、えーと同レベルでも圧倒的に強くなるってことだろ!」
「そう言うこと……」
はあ、疲れた。なんか昨日からため息いっぱいついている気がする。
「それでさぁ……」
「待って、団長さんが来たみたいだよ」
団長さんと、あれは昨日の宰相さんかな。
「みんなには、特にイチノセには申し訳ないことをした。私がついていながら罠のことを伝え忘れていた」
「私からもお詫びを。初めまして、私は、このブランド王国の宰相です。皆様の世界では、迷宮などもないとのことでしたので危険なことは、最初に伝えるべきでした」
そう言って、頭を下げてきた。
上手いな。先に頭を下げて謝罪して、いかにもこちらが悪いって感じを出して、僕たちから責めるような雰囲気をなくしてきた。
それから、少し話を聞いてやっぱり光輝くんが前に出た。
「いえ、俺たちが悪かったです。宝箱があるならもちろん罠も仕掛けられていることも考えるべきでした」
「くっ」
東郷くんが顔をしかめている。
多分、東郷くんが罠にかかったんだろうね。あーあ、宝箱をみて何も考えずに突っ走ったんだろうな。
「…………みんな、すまない」
「いや、俺も迷宮と聞いてテンションが上がって注意してなかったんだ。これは、みんなが悪いと思う」
優等生みたいなこと言うなぁ。…………ほんと甘いね。
「僕もそう思うよ。それを言ったら、光輝くんと龍牙くんだけが戦って他のみんなは恐怖に怯えて逃げたでしょ?」
「で、でもそれは!」
「そうだよ!あんな高レベル勝てっこないよ!」
「何言ってるの。一般人と違って勇者でしょ。つまり、ステータスが通常より高いってことだよ」
「だ、だけど……俺たちじの能力値じゃ足りないよ」
まだスキルを使うってことに慣れてないのかな?
また説明するのか……。
「ステータスだけだけじゃないでしょ。スキルがあるでしょ。スキルっていうのは、きちんと理解すれば応用性があるんだよ。君のスキルは?」
「意識誘導だけど……本当に少ししか誘導できないんだ」
「例えば、戦闘中集中しているときに、少し意識をずらされたらどう?」
そこまでいうと気づいたようだ。
「そう、ほんのちょっとでも意識に食い違いがあるだけで、そこに隙が生まれる。何も、ステータスの能力値だけが全てじゃない。他にも、魔法で援護したり、支那川さんは『結界魔法』のスキルを持っていたよね?結界で敵の攻撃から守ったり、結界を薄く張って敵を囲めばそれだけで移動阻害ができる」
「そんな器用なことできないし、硬くもないよ……」
「なら、正面にただ出すだけじゃなくて、斜めに出せば攻撃をずらすことができるでしょ」
支那川さんも悟ったようだ。
「そういうこと。使い方次第で、今は弱くとも、それでも応用が効くんだよ」
「そうだね。サトウくんの言う通りだ。レベル差っていうのは大きい。でも、一部の強力なスキルはそれすらも覆す可能性がある」
「私は、戦闘のことはよく分からないが、一つ言うなら自分を知ることが大事だと思う」
いい人ぶって疑心を抱かせないようにしているのか。
まあ、今のところ大丈夫そうだから、とりあえずは、レベル上げに勤しむとしようかな。
「それで今度なんだけど、私たちが後ろで離れてじゃなく、自分の力がきちんと把握できるまでは、横についていつでもカバーできるようにしようと思う。それで、
サトウくんの方だけど……」
「入りませんよ。僕の方はきちんと面倒みようと思いますので」
「なら俺だって!」
「いや、光輝くんはついてもらった方がいいんじゃないかな。アクシデントっていうのはいつ起きるか分からないから、経験のある団長さんについて来てもらえるのはいいことだよ」
「ならお前の方は大丈夫なのか?」
「うん。十分にマージンをとって、察知系のスキルと罠感知のスキルを持っている人がいたから使いながら進んでいるおかげで大丈夫だよ」
まだ納得いっていないようだが、してもらうしかない。
強くなっていない状態で、しかも周りの国状況が分かってないのに、反抗的な態度を取ったり、もう戦いたくないなんて言ったら、強硬手段に出る可能性もある。
なるべくなら、そんなことにはなって欲しくない。
「決まりだね。でも安心して欲しい。ずっと付きっきりってわけじゃない。慣れてもくるだろうし、私も団長としての仕事があるから」
それから、今日は迷宮に行くの禁止、自主練するようにとのことを言われ解散した。
「じゃあ、早速訓練場に」
そこまで言って、健のお腹が、ぐぅぅううう、となった。
「あはは、お腹すいたよね。起きてすぐ集められたから何も食べていないもんね」
「そうなんだよぉ〜ご飯食べてない!よっしゃ、すぐ行こう!」
はいはい、
と言いながら食堂に行く。
ご飯を食べ終わり、訓練場に来た。
「よし、今度こそ始めるか!」
「元気だね健は」
「おうよ!ステータス画面って本当にいいよなっ。自分が強くなっているって確実にわかるから努力のしがいがあるってもんだ!」
確かに、ステータスによって自分の得意分野や練習すればするだけレベルが上がるって強くなるのを目で見れるのはやる気が出る。
例えば、野球が好きな人がいたとする。その人は、好きだからたくさんの練習をするけどその人は全くの野球に対する才能がない。
どれだけ練習しても、一流にはなれない。
しかし、ステータスであなたには何々の才能がありますって書かれていれば無駄とは言わないが、人生を投げ打ってまではしないはずだ。
実際に、自分の才能がスキルとして表れているわけだから、将来の仕事でも迷わなくても済む。
そこまで考えて、「戻れたら、何か事業でも立ち上げてみてもいいかもね」とくすりと笑いながら考える。
「太樹何笑ってんだ?」
「なんでもないよ」
「じゃあさ、太樹って強いだろ?普段どんな練習しているんだ?」
「練習?」
どんなと言われても、剣術の訓練はあまりやってない気がする。基本、魔力や魔法、スキルについて考えている。
「健って魔力を操る練習とかしてる?」
健が呻いた。
「うっ。魔力とか……魔法は簡単なやつなら使えるからある程度は大丈夫だけど、剣を使った方がやりやすいから」
思わず脳筋か!って言いそうになって、慌てて口を噤む。
「うーん、なら魔力の便利なところとか良い点を教えてからやってみようか。じゃあ、本気で良いから、この腕に思いっきり剣で斬りつけてきて」
「え、いいのか?迷宮でレベルアップして結構筋力の値上がってるけど……ああ、そっか!スキルがあるか!」
「ううん。スキルは使わないいよ。とりあえず、来て。本気で」
そう言うと、僕は、右腕を目前に上げて垂直に立てる。ガードするような感じでもなく普通に腕を上げている感じだ。
まだ少し、躊躇っているけど、急かすと「どうなっても知らないからな!」と言いながら斬りつけてきた。
「……な、なんで?」
「これは、魔力で薄く纏ってるんだ」
「でも魔力って多い方が強いんだろ?薄くしたらすぐに割れるんじゃないのか?」
困惑しながら聞いてきた。
それもそのはずだ。ガラスなどが分かりやすいだろう。薄いものと厚いもの、どっちが壊れにくいか。
「魔力にもね純度っていうのがあるみたいなんだ」
「純度?」
「そう。濃ゆい方がより強い。それで、純度を高める方法なんだけど、魔力を練り込むんだ」
「練るって、粘土みたいにか?」
例えが変だが、笑ってしまってブスッとした表情をされて、慌てて誤魔化す。
「まあそんな感じ。……ちょっとそこに座って。座禅組んで」
渋々ながらも、さっき見せたことが良かったのかすぐに従う。
「目を閉じて。そしたら、魔力を体の中で回して。ぐるぐると」
すごく集中している。
体内で魔力を回すのは、意外と難しいらしい。これは人から聞いたことだから実際には分からないけど。
「出来てる?」
コクっと頷いたのを確認して、迷宮で手に入れた『魔力視』というスキルを発動させる。
これは単に、魔力を視ることができるだけのスキルだ。だけど強力、今も、健の体内で回っている魔力がしっかりと視れる。
さっき始めたばかりだから綺麗にとはいかないが、それでもきちんと回っている。
「ならそのまま、回すのを早くしていって」
一生懸命やっているため、額から汗が滴り落ちていく。
男の汗ってなんか汚い、と失礼な考えを頭の隅に追いやって続きを見る。
しかし、さっきとほとんど変わっていない。
眉を顰めてやっているみたいだが。
「だはぁー!無理疲れた!めっちゃ集中するじゃん!」
「そりゃそうでしょ。一朝一夕で身につくものじゃないからね」
「そんなこと言っている太樹はどうなんだよ!やれんのか?」
少しニヤニヤしながら聞いてきた。
確かに教える側が出来てないと納得しないよなと思い、手本を見せることにする。
「ただ循環させるのって、側から見ると分からないからこうするね」
同じく座禅を組み、目を閉じる。
すると、僕の体が薄らと光った。そして、膜のようなものが体からちょうど1cmのところで綺麗に留まっている。一切の揺らぎもなく綺麗。
「おお〜」
思わずと言った感嘆の声が聞こえたところで止める。
「こんな感じ、自分の体を正確に把握して魔力を纏うことによって簡易的な鎧の役割になるんだ」
「すげぇ。俺も出来っかな?」
「出来るよ。まずは、循環をするところから始めよう。ずっとやり続けるんだよ」
「了解!」
「あ、寝てる時にも出来るようにだよ。つまり無意識のうちにってこと」
「うえぇ」と、嫌だなぁみたいな顔をしながらも座禅を組み、早速取り掛かっている。