262話 パーティーの裏情報
今日で投降を休止したいと思います。
理由は、ネタが尽きたと言うこともありますが、単純にリアルがくそ忙しくなったので……。
それで、次はこの話の続きか……または、新作かもしれないですね。
どのくらい休むか分からないですが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、どうぞ。
塔に入り、約三十分が経過した。
「アルデル!右を頼みます!」
「了解です!」
言葉は少ないが、ダーキンスがこの二人と一緒に戦うのは、これが初めてではない。
もう何度も一緒に戦った中である。そのため、お互いがどんな攻撃が得意で、どの程度動けるのか理解している。
左から来る蜘蛛を、ダーキンスが剣の腹で殴りつけ吹き飛ばす。吹き飛ぶ蜘蛛に、ハリーが三本の投げナイフを投擲し、止めを刺す。
前に出たダーキンスに鋼鉄の糸を飛ばそうとしている蜘蛛に向け、アルデルの放った炎の杭が貫く。内側を焼くアルデルの炎魔法に、蜘蛛は金切声のような断末魔を上げ、絶命した。
「ダーキンス様!前方から一匹、ブラックスパイダーが来ます!」
ブラックスパイダーとは、先程からダーキンスたちが戦っている蜘蛛の魔物の名称だ。
大きさは一メートル程で、体よりも脚の方に注目がいく魔物だ。細く長いが、決して柔いものではない。ランクの低い剣など、容易く弾かれる程の硬度を持っている。そしてそれは、体にも言える。だが、ダーキンスに、そしてダーキンスの剣の前には無力だ。
まっすぐ正面を見ていたダーキンスの死角を突くように、天井に張り付くようにして現れたブラックスパイダーは、ダーキンスの顔に飛びつくようにジャンプした。
「ハッ!」
片手で持った剣で、下から斬り上げる。
しかし、その攻撃が危険だと本能でも働いたのか、ブラックスパイダーは八本の脚を前で交差するように防御する。
脚は全て斬り飛ばしたが、そのお陰で命拾いしたブラックスパイダーを更なる斬撃が迫る。
斬り上げた剣を素早く切り返し、一歩踏み出しながら振り下ろす。
剣圧で吹き飛ばされる前に体を真っ二つに裂かれたブラックスパイダーの死骸が地面に落ちる。
「中々多くなってきましたね」
剣に付着した体液を払いながら鞘へ納める。
今の階層は二十四階層だ。ダーキンスは、四十階層まで攻略しているため、この程度の階層の魔物に苦戦することはない。それでも、油断できないのが魔物だ。
いつ現れるかも分からず、様々な特性やスキルを持った魔物もいる。安全領域でもなければ、ゆっくり休むことは出来ないだろう。
姿を隠す魔物もいれば、気配を隠す魔物もいる。隠密能力が高ければ、ハリーの探知を抜けてくる可能性もあるのだ。それが分かっているため、ダーキンスは余裕でいながらも油断はしていない。
「ダーキンス様。どの辺りまで進みますか?少しの運動と言うのなら、この辺りがちょうどいいかと思いますが……」
「そうですね。確かに……この辺がちょうどいいようですね」
現在の場所は、二十四階層に前半部分だ。引き返すならば、ちょうどいい場所と言えるだろう。これ以上進むならば、中間辺りに差し掛かり、戻るのが大変になる。
ハリーの進言にダーキンスは少し悩む仕草をしながら考える。
これ以上進んだとしても、帰ることに時間がかかることはすぐに分かる。元々の目的を忘れていないダーキンスは、攻略を止め戻ることにした。
屋敷に戻ったダーキンスは、抱えている諜報員『灰色』に調べさせていたことについて聞く。
調べている内容はもちろん、三日後に行われるメルギーン伯爵の娘の誕生パーティーのことだ。
「何かわかりましたか?」
「はっ、どうやらパーティーが開かれる日、襲撃が予定されているようです」
「……なるほど。そう言うことですか」
ダーキンスの前には、黒ずくめで顔も目元しか見えない男性ーー辛うじて声で男性と分かるが、年齢までは分からないーーが片膝を付きながら報告する。
ダーキンスは、椅子の背もたれに体重をかけながら、息を吐き、理解する。
「ニルスさんは、私を護衛としたいようですね」
「はっ、その通りかと。ダーキンス様の力を目当てにしており、急な招待も襲撃のことを知られ、参加を拒否されることを怖れた結果かと」
「そうですか……利用されるのは、癪に障りますが……セシル嬢が狙われていると言うことですから、多少のことは目を瞑りましょうか」
メルギーン伯爵は、ダーキンスがこんなにも早く調べることが出来るとは思っていなかったのだろう。
ダーキンスお抱えの諜報員にかかれば、一日さえもいらない。それも近日に起こることを調べるなど簡単なのだ。
ダーキンスに声掛けもなくその力を利用する形を取っているメルギーン伯爵に筋を通す必要はない。持ちつ持たれつの関係だが、それは事前に報告、または救援の声をかけられていなければ、ただ利用されるだけとなってしまう。そんなものは、友人を名乗っているとしてもおかしいだろう。
「今回の報酬は、後にニルスさんに貰うとしましょうか」
しかし、タダで助けるとは思っていない。きちんと報酬は貰うつもりでいる。
それと同時に声には出さないが、メルギーン伯爵には何らかの報復はしようと心のメモに追加した。
「貴方たちには、セシル嬢を襲撃しようと企んでいる者たちのことを調べて来て下さい」
「はっ、期限はいつまででしょうか」
「そうですね。特に急ぐ必要はありません。敵が有象無象の相手であれば、私一人でも十分でしょうから。もし、有名な犯罪集団ならば、準備が必要ですし……一日は欲しいですね。ですので、明後日までにはお願いします」
「はっ、了解しました」
軽く頭を下げ、『灰色』の姿が消える。
諜報員『灰色』とは、一人の名称ではない。イグニティア王国だけでなく、他国にまで散っている者全てを称して『灰色』だ。その誰しもが、ダーキンス自らがスカウト、または育てた者であり、『灰色』の存在を知っている者は、ダーキンスだけしか知らない。ダーキンスの側近でさえ、知らされていないのだ。
「明後日と言いましたが、早くて今日中、明日には分かりますね」
長く使っているダーキンスは、『灰色』の情報収集能力を理解している。その高さを。
期限を設けても、ゆっくり調べようとしているとは、微塵も思っていない。仕事は素早く丁寧に正確に。常日頃からダーキンスが言っていることであり、それは『灰色』にも適用される。
「さて、先日我が国の学院に『闇夜の銀糸団』が襲撃したとの報告も上がって来ていますし……警戒するに越したことはありませんね」
さすがのダーキンスでも、『闇夜の銀糸団』を相手にするのは分が悪い。自身の力量を正確に把握しているダーキンスは、下っ端は抜きにしても、幹部には一対一なら互角以上だが、二人以上が相手となると厳しいと分かっている。
「……今考えても仕方ありません。報告を待つとしましょう」
何の情報もない今にあれこれ考えてもただ疲れるだけだと思ったダーキンスは、報告が上がるまで、目の前の机に積まれている書類を片付けようと、一番上の書類から手を付け始めた。
sideレイン
セブンディールに戻ったレインたちは、宿へと戻らず、セブンディールを観光することにした。
北から南方面は大方見たが、西方面には一切足を運んでいなかった。
セブンディール……その名の通り、七つの区画からなる都市である。四つの区画は行ったが、残り三つもある。
「ここは……商業が盛んな区画ってことか?」
「わぁ……お洋服があんなにありますよぉ」
目を向けると大きな店が建ち並んでおり、ガラス張りの店内を見ると、様々な系統の服がズラリと並んでいた。その服を見て、雪那が感嘆の声を上げる。やはり、女性と言うこともあり、洋服は好きなのだろう。……常に着物しか着ていない、なんて感想をレインは持ったが、心の内に留めた。
「そうだな。そしてまたハクはどっか行ったし」
「あらぁ、本当ですねぇ」
今回は、肩の重みがなくなったことを感じ、ハクがどこかへ出掛けたことに気付いていた。
「なら、二人で回るか」
「はぁい。ふふ、楽しみですねぇ」
その雪那の言葉に、ぞわっとしたものがレインを襲ったが、気のせいだと断じ、気にしないように努力した。
そして、一時間後。
レインは疲れた表情で、ぐったりとベンチに横たわっていた。
「もう、お前とは来ない」
「えぇっ!?」
散々着せ替え人形にされたレインは、雪那とは服屋には来ないと誓った。
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