23話 迷宮
「これから迷宮に入る。準備はいいか?」
団長さんに連れられてきた場所は、岩に人が3人は入れるような大きさの穴が開いていて、その穴には、魔法的な何かがあるのか中の様子が見えない。
不安に感じるような穴だ。そこに、入るように言われるがなかなか入っていかない。でも、何も問題がないことは、鑑定したから分かっている僕が先陣切って入って行く。
そして、すぐに戻って安全であることを伝える。
「ほら。別に入れば出れなくなるなんてことはないから安心して」
「た、太樹くんが言うなら大丈夫だよね」
「そ、そうだな」
いつの間にそんな信頼を得たのだろう?まあ今はいいか、と考えもう一度入って行く。
中は見えないほどの暗さではないが、明るすぎでもない。
「うわあ。ここが迷宮かぁ」
「なんか、アニメで見たような感じだなぁ」
「お前たち!入り口だから安全だが気を引き締めろ!」
「大丈夫だよシルブリットさん!俺たちには騎士団のみんなに、光輝や太樹がいるんだ!」
「そうだぜ!それに俺たちも訓練して剣の振り方とか魔法とかも使えるようになったんだ!」
「むぅ。だが1階層だからといっても警戒を怠るなよ」
「分かってますよ!」
アニメで見たことあるような光景のため興奮し、全く警戒心がない。
死んだら終わりだというのに。当たり前だ、ここはゲームじゃない。異世界でも、ちゃんとした現実だ。蘇生魔法はあるかも知れないけど今のところ聞いたことはない。
ミスラさんに聞いたから間違いないはずだ。
まあ見るからにダンジョン!って感じがするから仕方ないかも知れない。その分僕が気を張っていればいいだけだ。疲れるけど。
「なら、ここで別れよう。お前たちサトウくんたちを頼んだぞ?」
「お任せください!」
「しかし、危なくなるまで手出し厳禁ですよね?」
「そうだ。勇者たちの訓練だからな」
そして、2グループに別れ行動する。
ちょうど右と左に道が分かれているため僕たちが左に行く。
少し進むと、気配?見たいのを感じた。
「静かに!止まって、何かいる」
「魔物か?」
さすがに、この人数で隠れたり出来るはずもないから武器を構えるように言う。
止まって待っていると、現れたのは、3匹の狼だった。
すぐに鑑定する。
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【種族】ワイルドウルフ 【性別】雄 【年齢】23歳
【称号】
【Level】6
【HP】360/360
【MP】120/120
【STR】280
【VIT】140
【DEX】160
【AGI】300
【INT】110
【スキル】
[疾走Lv.2][咆哮Lv.3]
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(称号ないと空欄なのか。おっといけない)
見たステータスをすぐに伝える。
他にも鑑定を使える人がいるため手分けして伝えるようにする。
一応鑑定スキルを持っている人は平等に分けた。
「なんだ楽勝じゃん!」
「落ちつけ。ちゃんと生き物を殺せるの?」
「余裕だって!」
余裕の笑みを浮かべ斬りかかる。
勇者の身体能力を持ってすれば、この程度の敵は楽勝である。
1匹を袈裟斬りに一撃で倒し、続いて2匹目も倒す。
最後の一匹を後ろから飛んできた火球で焼く。
それで終わった。
「な?簡単だっただろ?」
「はあ。確かにこの程度の敵は相手にならないけど油断だけはしないでね。浅い階層に下から強い魔物が来ているかも知れないでしょ」
「それも大丈夫だって!シルブリットさんが言ってただろ?強い魔物は、階層をあまり移動しないって。きっと縄張りみたいに自分の所からは出てこないんだよ」
なかなか理解してくれない。
すると後ろから吐くような声がしてきた。
「うぐえええ」
「げえぇ」
普通の高校生が、狼の斬殺死体や焼死死体と見ればそうなるか。
青褪め吐いている人数名、吐いてはいないが気分が悪くなっている人数名。
「今から、どんどん魔物を狩っていかないといけないんだ。このくらい慣れていかないといけないよ。どうしても無理なら、もう戦うこと自体やめた方がいい」
「ううん。私たちもやるよ」
まだ気持ち悪そうだが決意は固まったみたいだ。
ただ仲間外れが嫌なだけかも知れないが。
「よし。岡山くんと渋谷くんは、先走らないこと。こんな浅い層に罠があるとは思わないけど、罠察知とかのスキルを持ってる人いる?」
「僕持ってます……」
手をあげたのは、眼鏡をかけてい男子だ。
暗いイメージの感じだが、別にコミュ障ってわけではないらしい。
「よし、いきなり先頭を行かせるのもあれだから、僕の隣に来て。スキルに反応があったらすぐに伝えて。いいね?」
「はい!」
あまり元気じゃなさそうに元気よく返事をした。
それから、20分くらい進み3回戦闘をし、全員に魔物を1匹は殺してもらった。殺すとき躊躇って攻撃を喰らったり、また、吐いたりしたが概ね順調だ。
僕も殺したけど、もうレベル8だ。
ステータスを軽く見たけどあり得ないほど跳ね上がっていた。多分称号の所為だろう。
宝箱も発見したけど、いいものが入っていなかったので取っていない。
それに、今のところワイルドウルフやグリーンウルフしかあってない。グリーンウルフは、緑色の体毛に風魔法を使ってくる狼だ。風魔法は、透明で見えにくいため、ただの方向かと思ったら横腹を斬られた人がいて、注意して相手するようになった。
僕はと言うと、レベルが10となり、満足したので14人に戦闘を任せることにした。指示だけをして、なるべく戦闘には参加しない。
みんなも順調にレベルが上がっていった。
side一之瀬光輝
「よし別れて行くぞ!」
俺は、気合をいれて進んでいく。
模擬戦を太樹と何度もやったけど、一回も勝てていない。そのため、レベルを上げたいと心から思っている。そうすれば勝てる、と。実際に、太樹のユニークスキルは強力過ぎる。本気を出したあいつは騎士団団長のシルブリットさんとさえ、レベル1の状態で互角の勝負をしている。
「本当反則だよな」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何もない」
呟きが漏れたのか、すぐに誤魔化した。
しばらく進むと、魔物が現れた。幸い一体だったため簡単に倒せたが、やはり気分はよくない。中には吐いている者もいるし、俺も吐きそうだった。多分、向こうのグループも同じような感じだろう。
それからは順調に進み、戦闘にもだいぶ慣れてきた。
それでも、まだ肉を斬る感触に吐きはしないものの気分が悪くなる人がいる。
それも仕方ないかと思う。自分たちは、一週間前までは普通の高校生だったんだ。戦いとは無縁の世界で普通に暮らしていたから。
まだ宝箱を見つけていないため、それも仕方なかっただろう。
何が起きたかと言うと、扉があり、開けてみると宝箱が置いてあった。
シルブリットさんは、俺たちの後ろにいるため対処が遅れた。
東郷が、一直線に宝箱目掛けて走り、ちょうど俺たちが部屋に入った瞬間、バタンッ!と扉が閉まった。
それに対して、東郷に、「触るな!」と警告したが遅かった。
開けた瞬間、部屋いっぱいに魔法陣が広がり、俺たち全員光に包まれた。
数秒後、光が収まり、目を開けるとそこには、二足歩行の牛が立っていた。
俗に言うミノタウロスだろう。
「か、『鑑定』!」
動揺したのだろう。声に出さなくてもいいのに叫んで、スキルを発動した。
「どうだった!?」
「大丈夫だ!俺たちでも倒せる!」
その言葉を聞き、安心した。
一体しかいなかったことも幸いだった。
「よし!まずは、魔法を放て!その後俺が突っ込む!新谷は回復を!行くぞ!」
『おう!!!!』
一通り指示を出し、攻撃に移る。
横長が、炎の槍を3本出し撃つ。それに続いて、水の槍、風邪の刃が放たれた。
「ブモオオオオオオオ!?」
悲鳴を上げ、タタラを踏む。
魔法と同時に駆け出し、ミノタウロスの後ろに回り込み聖剣を心臓に突き刺す。
ザクッと刺さった音がし、断末魔をあげながら倒れた。
「よし!勝ったぞ!」
「お、おい光輝……」
聖剣を上に上げながら、ガッツポーズをしていると、俺の後ろを指差しながら青褪めた表情をしている。
なんだ?と振り返ると、そこには、直径2メートルの魔法陣が5個あり、そこから、一つの魔法陣につき、3体、計15体のミノタウロスが出てきた。
「な、なんだと……?ステータスはどうなっている!」
「ステータスは最初のと対して変わってないよ!ただ、真ん中のやつだけが身体強化を使えるみたいだ!」
「ならそいつは、俺が倒す!他は任せた!龍牙が指揮を取ってくれ!」
「了解!」
「すぐ倒して加勢するから!!」
そう言い、光の矢を放ち自分に注意を向ける。
それから、どのくらいが経っただろう。
30分か1時間か。
傷だらけになりながらも、倒し切った。
「今度こそ勝ったぞ!!!」
声を上げる気力もあまりないのかぐったりと座り込んでいるが、顔は、やり切った!と笑顔だ。
喜んでいる所を狙ったかのようなタイミングで、紫の魔法陣が現れた。大きさにして3メートル程。
そこから、出てきた魔物を見て、俺たちの顔が絶望に染まった。
「う、うそ……だろ?」
「い、いや、いやあ!」
ミノタウロスの皮膚は、通常茶色い。
だが、こいつは、全身が黒く、強者のオーラを出していた。
俺も鑑定が使えるため、見てみて後悔した。
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【種族】ブラックミノタウロス 【性別】雄
【称号】ミノタウロスの亜種
【Level】58
【HP】18.000/18.000
【MP】3.000/3.000
【STR】15.000
【VIT】13.700
【DEX】17.400
【AGI】9.600
【INT】2.000
【ユニークスキル】
[黒牛の咆哮][再生][狂化][眷属召喚]
【スキル】
[斧術Lv.5][身体強化Lv.6][指揮Lv.4]
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「なに!?」
見て驚いた瞬間、轟音が走った。
その正体は、咆哮だ。ユニークスキルにある、『黒牛の咆哮』と言うやつだろう。
身体の芯から恐怖が湧き上がってきた。が、なんとか抑え込む。
他は大丈夫か後ろを確認すると、尻餅をつき無様に倒れていたが、笑うことはできない。
『精神魔法』を持つ、久美に魔法を使って落ち着かせるように言う。久美自身も恐怖に震えていたが、ビンタしてでもなんとかした。
唯一動けるのが、俺と龍牙だけだと言う事実に、咆哮一発でこの状況と言うことに苦笑する。
恐怖から戻った者から叫びながら、必死に逃げていく。
「仕方ない。俺が殿をやる!手伝ってくれるか、龍牙?」
「おうさ!こんなとこにお前一人だけ残していけるかってんだ!」
「なら私も」
「いや君たちは、混乱しているみんなを落ち着かせるためにみんなと一緒に言って欲しい」
そう言われ、美しい少女は唇を噛みながら俯く。
「早くいけッッッ!!!」
「絶対戻ってきてよ!」
こんなところでは死ねないさ、と思いながら聖剣に魔力を流し込んでいく。
「行くぞ!牛野郎ッッッ!!!」