250話 セブンディール
案の定風邪ひきました……
レインと雪那は、昼前になると学院から出ていった。
外出許可は得ていたため、不法外出にはならない。
まず向かうのは、魔術学院がある国、イグニティア王国の首都セブンディールだ。
セブンディールは、レインと雪那が伯爵からの招待を受ける時に観光していた所でもある。
首都との距離は七キロ半程。意外と離れている場所に学院があるのは、神の塔がその場所にあるためだ。
基本的に貴族の子息子女が多いため、学院の行き来は馬車でだ。しかし、レインは個人の馬車など持っていないため、徒歩での行動となっている。
セブンディールから学院への道、イリス街道を歩いているレインたちは、魔物による襲撃もなくすぐにでも飽きていた。
そんなレインの右肩にはハクが乗っている。レインが出るまでには間に合ったのだった。
「長い……本当長い」
「そうですねぇ」
「よし!走るーー」
「あ、主人」
「……なんだ?」
走るかと言おうとしたレインの言葉を遮るように、ハクが声を上げた。
「あの学院長から何か貰っていたのでは?」
「……あ、あーポストに入ってた手紙か」
ハクに言われ思い出したレインは、異空間収納に入れていた学院長からの手紙を取り出す。
封を切り、中から手紙を取り出す。
「えーと……『レイン君へ。君のことだからこれを読んでいるのは、セブンディールに行く道の途中だろう。暇になった、と言う理由かね?まぁ、前置きはこのくらいにして、セブンディールへと着いたら、北部区画へと向かい給え。宿を取ってあるから、そこから観光するといい。東には奴隷商店が並んでいるから、もし行くなら手紙と一緒に入っている紹介状を渡すといい。私名義で書いてあるよ。南東には、娼館が立ち並んでいるよ。もしよかったら行くといい。そして、南。そこには討伐者協会があるよ。会長に用があるのならと思って、会長用の紹介状も書いてあるよ』……ふむ」
「主様ぁ……?娼館……なんて、行きませんよねぇ?」
微笑んでいるのに、威圧するような声で言う雪那に、ハクは怯え体を縮こまらせる。
漫画ならば、背景にゴゴゴゴッと言う擬音でもつきそうだ。
「……ん?ああ、多分な。続きは、主だった観光場所が書いてあるな。で、紹介状が三枚っと。これか」
手紙を雪那へ渡し、封筒から三枚の紹介状を取り出す。
グレイイースの紋章が貼ってあり、本人からのものだと分かるようになっている。
「ふむ。さっさと向かうとするか」
レインは、色々と準備してあることを知り、早く向かうことにした。
レインが指を鳴らすと、前方に魔法陣が出現し、そこから一台の車が現れる。
「確か魔導車とか言うのがあったよな?なら、これでいいか」
この世界には、魔導車がある。
ならば、車の一台程度いいかと思い、馬車の代わりとなる物を出したのだ。
外観は黒塗りの高級車。
もちろんガソリンで動く車ではない。その点で言えば、魔導車と言えるだろう。
レインは後部座席に乗り込む。
そしてレインの横に雪那が座る。ハクはレインの膝の上だ。
運転席には誰もいない。
運転手もいなければ、レインが直接運転するわけでもない。
「データリンク。目的地セブンディール」
音声で目的地を入力すると、黒車が独りでに走り出す。
システムとリンクさせることにより、この世界の地図を入手。後は目的地を入れれば、勝手に目的地まで進むと言うわけだ。
「そう言えば、検問ってどうすればいいんだ?」
「そのまま入っては?」
「その場合、不法入国ってことになるんじゃないか?」
「ならぁ、学院のカードを使ってみればどうですかぁ?」
「なるほど」
王立魔術学院とも言える学院の生徒カードならば、イグニティア王国の民として入れるだろうと雪那が言う。
「まぁいいや。雪那、コーヒー」
「はぁい」
車内は少しも揺れていない。
例え魔物の攻撃が直撃しても衝撃が中に伝わることはない。つまり、車内で飲食してもいいと言うことだ。
雪那は脇の肘掛けにあるディスプレイを操作する。
静かな音を立て、レイン前にテーブルが現れる。テーブルの右上辺りに窪みがあり、雪那はそこへカップを入れる。そしてついでに、菓子類も置く。
「映画でも観るか」
「そうですねぇ。何を観ますかぁ?」
それから、レインたちは十数分の間、目的地に着くまで映画を観ていた。
首都セブンディールに近付くと、門に並んでいる人々の列を見つけた。
「多いな。あっちに行け」
レインは、行商人や討伐者だろう人間が並んでいる列とは別の場所へ行くように、黒車に命ずる。
そこは、平民ではなく、貴族が出入りするために使われる検問所だ。
魔導車を使うのは、基本的に貴族。そう言う認識があるため、レインが貴族用を使うことは、別段おかしなことではない。
ついでにレインは、グレイイースから貰った手紙を見せる。
すると、レインを見て見惚れていた兵士が途端に顔を青くし、急ぎながらレインの黒車を通す。
「かなりスムーズだったな」
「学院長のお家って、とても力があるんですねぇ」
「らしいな。あの男の顔が物語ってるな」
検問していた兵士の顔を思い出し、笑う。
セブンディールの通路は、馬車や魔導車が走っても十分な広さがある。ただ、速度だけは、注意しなければならない。何キロまでと言うような法は、厳密にはない。しかし、安全上の都合と言うわけで、出し過ぎは禁止されている。厳重に何キロ以上は違反と決まっているわけではないが。
レインはそのまま、グレイイースが取っている宿まで黒車を走らせる。
宿の駐車場に車を止め、宿に入る。
やはり話は通っていたらしく、すんなりと部屋へ案内される。
宿へ着いたのは昼前。
レインたちは早めの昼食を取った。
食べ終わると、街へと行き、北部からの観光を始めた。
レインと雪那は並んで歩き、ハクは相変わらずレインの肩に乗っている。
通り過ぎる人がレインたちを見ているが、中には珍しく美しい毛並みのハクにも視線を向けている。明らかに魔物と分かるため、討伐者らしき者たちは思わず戦闘態勢に入る者までいる。
だが、街中で攻撃をしてくる者はいなかった。
そしてそれは正解だった。もし、攻撃を仕掛けて来たならば、ハクの反撃により殺される可能性が高いからだ。
注目を集めながらも、レインたちに声をかけてくる者はおらず、普通に観光できていた。
北部を回りながら東部へと行く。
すると街の雰囲気がガラッと変わった。
「なるほどな。セブンディール……要するに、七つの区画からなっているわけか」
区画間は、大きな壁で区切られている。
区画の移動は簡単にできる。完全に隔てられているわけではなく、あくまで区画を分けるためのものだからだ。
東部では、奴隷商会が建ち並んでおり、行く人々が金持ちだと分かる身なりの者が多い。
いくら命が軽いと言っても、人の売買する値段までが安いわけではない。
それなりの値段が付けられており、庶民や討伐者でも稼いでいなければ簡単に買うことは出来ない。
その建ち並ぶ奴隷商の中で、レインは紹介状を貰っている場所に向けて歩みを進める。
目的の奴隷商へと着いたレインは、扉を開け、中に入っていく。
「いらっしゃいませ!」
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