247話 グレイイースと言う男
グレイイース・フォル・レブンディースは、天才だ。
幼少期の頃から、その才能を遺憾なく発揮した……わけではない。
むしろ凡人として知られていた。
しかし、ある時を境に才能が開花した。
と、世間では思われている。
が、実態は全く違い、幼い頃から天才と言う言葉では表せない程の才能があった。しかしその才能をひた隠しにしていた。
グレイイースは、魔法の才能とは別に、頭脳も子供の域には収まらなかった。
才能を隠したのも、公爵家の長男として利用されたり、国にグレイイースの力が知れ渡り、利用され尽くすと分かっていたからだ。
子供で精神が発達していない時期から周囲にバレれば、最悪洗脳されることもあり得る。それを子供ながらに理解していた。
ある時期、と言うのは、自分がある程度の権力を持ち、利用されようとしても跳ね返せるだけの力を手に入れた時のことだ。
その時の齢僅か十八歳。
そして最年少で『宮廷魔法師』の地位に就き、軍に身を置いた。
そしてその三年後、二十一歳となった時、『超越者』となった。
これは、異常とも言うべき速度だった。
世間は騒然とし、案の定国はグレイイースの力を利用しようとした。しかし、グレイイースはそれらを撃退。
『超越者』とは一般的に、個人で国を相手に出来る存在として知られている。
グレイイースも類に漏れず国が相手でも我を通し続けた。
そして二十六歳となった時、学院長の地位に就いた。
グレイイースは、それまで順調だった。
幼少期は魂の色が視えていたわけではなく、その下位互換と言うべき力。感情の色を視て、自身に好意ある人間か悪意ある人間かを判断していた。
超越者となった時、能力が進化し、魂の色と波動を視れるようになったのだ。
その力により、自身に降りかかろうとしている悪意などを事前に察知し、防いできた。しかし、眼の力と言うだけあり、見なければ意味がない。全てを未然に防げたわけではなく、危険な状況に陥ったこともある。だが、そんな危機も乗り越え、自分の力としてきた。
グレイイースは自分の『眼』を信頼している。
超越者となっても、神の塔には人知を超えた化け物がうじゃうじゃといるようなところだ。一対一ならば互角以上に戦える魔物でも囲まれれば危うい。
そんな時、眼で見ることで危険かそうでないかを判断し、生き延びてきた。
その甲斐あってグレイイースは人外の力を手に入れた。が、そのせいで退屈に感じる日々が続いた。どんな障害があろうとも、自分の力を持ってすれば、打ち破ることが出来るからだ。
その時、レインが現れた。
自身の眼が通用しない、視れない相手は今までいなかったのだ。
それが格上の存在でも幽霊が相手でも、だ。
しかし、レインは視れなかった。
そしてグレイイースはレインに興味を抱いた。
ヘステル・ヒス・フィストーラ伯爵から紹介され、急遽編入させたレインのことは最初から興味はあった。実際に会ってみて益々そう思うようになった。
レインが来てからの日々はグレイイースの乾いた心を潤わせた。
だからこそ、レインの自分勝手な行動などを笑って許していた。
レインが序列戦をする時は、グレイイースが闘技場へ足を運ぶ程なのだ。
その容姿と言うよりも、その魔法の知識に惹かれていたと言える。
いつか自分も戦ってみたい。
魔法のことについて語り合ってみたい。
そんな欲求が生まれていた。
その時を楽しみに過ごしている時、事件は起こった。
闇夜の銀糸団という裏組織が攻めてきたのだ。
それでもグレイイースは慌てることはなかった。
幹部二人を相手にした時も余裕を崩すことなく倒した。
だが、襲撃から翌日。
襲撃してきた団員の全てを捕えたと思っていたグレイイースだったが、一人逃れていたらしく、再度闇夜の銀糸団の団員と戦うことになった。
その男キールを視た時、内心驚いていた。
戦うことになってからも、グレイイースの得意魔法である幻惑魔法が弾かれた時は関心の声を上げた程だ。
キールの身体能力は、グレイイースの認識を上回っていた。グレイイースのステータスは魔法に偏っており、近接戦では本職に劣る。しかし、その辺の強者程度以上の身体能力はあるのだ。
魔法剣の威力も高く、魔力強度など超越者である自分に迫る勢いだと感じた。
戦いは終始グレイイースが優勢に見えたが、それ程余裕があるわけではなかった。ヒヤリとさせられた場面もあり、キールの一撃をまともに喰らえば、いくらグレイイースでも致命傷は免れ得ない。
それでも最終的には勝ち、キールを牢へとぶち込んだ。
そしてその翌日。
グレイイースは、魔術学院の地下牢へと足を運んでいた。
「やあ、昨日ぶりだねえ?」
「……っ」
「そんなに睨まないでくれ給えよ」
魔術学院には、レインの予想通り地下牢があった。
そこに魔封じの枷を嵌められたキールが、壁から伸びている鎖に繋がれ、動きを封じられていた。
「一つ聞きたいことがあるのだがね?……その力どこで手に入れたのかね?」
「……」
「だんまりか」
グレイイースも答えを期待して聞いたわけではない。
「その力には代償があることに気付いているのかい?」
「……っ!」
グレイイースがそう言うと、キールが反応を示す。
キッと俯いていた顔を上げ、グレイイースを睨み付ける。
「…………レイン」
「……」
ボソッと呟くようにしてレインの名を言う。
レインの名を出してキールの反応を伺ったグレイイースだったが、全く動揺していないキールを見て、内心首を傾げる。
(レイン君がやったことだと思ったけど、勘違いだったかな?……惚けているわけでも記憶を消されているわけでもなさそうだ。本当に知らないってことみたいだね)
そう結論付け、キールを見て問いかける。
「先に聞いておかないといけなかったね……その力、与えられたものだろう?」
「……っ!」
グレイイースは、キールの力が本人が努力して手に入れたものじゃないと決めつけていたが、もしそうだった場合、前提から崩れることになるため、聞いたのだった。
そして、キールの反応を見て、確信した。
(やはり、与えられた力。でも、人に力を与えることが出来る者なんて……それこそ『神』しか)
期せずしてレインの正体に近付いていた。
超越者に近い力をただの強者に与えることが出来る存在を、グレイイースは知らなかった。それこそ、高位存在と呼ばれる者しか出来ないことだろう。
力を与える。訓練によってではなく、スキルを与える。
身体能力を上げる。魔法によっての強化ではなく、ステータスそのものの数値を上げる。そんなことが可能な存在は、神以外に考えられない。
(……ふふ、そんな馬鹿なことはないか)
そこまで考えたグレイイースは、頭を振り自嘲気味笑う。
あまりに自分の考えが飛躍していたことに、おかしくなったのだ。
「他にも聞きたいことはあるんだが……一つ一つ聞いていくから、答えたくなければ黙ってくれて構わない」
「……」
「まず、一つ目……」
それからグレイイースは、いくつかの質問をキールにしていった。
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