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超越神の世界旅行  作者: sena
第9章 魔術学院編
245/266

242話 学院長の力

 

 数分後、レインは影の中に気配が戻ったのを感じた。


(どうだった?)

『やっぱりぃ、他も同じようでしたぁ』

(そうかグレイはどうだった?)

『学院長は自分の部屋の中にぃ……攻められていましたぁ』


 その報告を聞き、レインは納得した。同時に、襲撃者の目的も凡その見当がついた。


(強者の内二人がグレイのとこに行ったんだろ?)

『その通りですぅ』

(残り一人は、地下か……これで目的がハッキリしたな)

『禁忌魔導書……』

(そう。と言っても、その禁書すらも人間が作った物だろうがな)


 この際、誰が作ったかなどは関係がない。

『死者蘇生』『死霊魔法』と言った魔法は、誰しもが欲しがる魔法だろう。禁書は読んだからと言って、習得できるものではない。しかし、適正があれば、出来なくはない。


(と言うか、禁書って言うのは、持つだけでも、見るだけでも精神の弱い奴は死ぬがな)


 故に禁書。

 その内容だけが問題ではない。その魔導書に込められた魔力も脅威なのだ。


「そろそろじゃないか?」

「もうそんな時間か?向こうは終わったってことか」

「連絡は?」

「まだない。終わったならあるはずだが、なら終わっていない」

「まじかよ……まさか負けたりしないよな?」

「いやいやいや、そんなわけないだろ?」


 と言う風に、小声で話している。

 そんな話し声をレインは盗み聞きしながら、思考する。


(思った以上に時間がかかっていることに焦っている?)


 襲撃者の顔に戸惑いが浮かんでいる。


(さて、いつまで待っておくか。そろそろ飽きて来たぞ。人質ごっこ)


 レインは呑気に欠伸をしながら、そう思う。







 所変わって学院長室。

 時間は、レインの教室へと襲撃者が来たところまで遡る。


「いや~よく来たねえ」


 軽薄な笑みを浮かべながら、自分の部屋の扉を開けて入ってきた者に言う。


「今日こそ貰っていくぞ」

「それは困るねえ?私の財産だよ?やるわけにはいかないね」

「元々は我々の物だ!」

「そうだ!貴様が奪っていったんだろうが!!」


 怒りを感じ、怒号を浴びせる。

 殺気が学院長室を包み、グレイイースへ叩きつけられる。

 常人ならば、死んでしまう程の殺気だが、飄々とした態度で受け流す。


 グレイイースの許を訪れた襲撃者二人が、己が武器を手に取り、構える。


「やめてほしいねえ?私の部屋を荒らさないんで欲しいんだけどね?」

「それは出来ない相談だ。貴様が返すと言うならば、考えんでもないが」

「いや、こいつは殺す。シルグ、そう決めただろうが!」

「争わないに越したことはない。超越者『幻神』グレイイースを相手に戦闘は避けたい」

「あ!?なら、何のためにここに来たってんだ!」

「はぁ……それーー」

「喧嘩するならお帰り願いたいねえ」


 武器を構えられても、椅子から立ち上がる様子さえ見せない。


「アルフ、目的を忘れるな」

「うるせえ!こいつはここで殺す!」

「アルフ」

「お前は手を出すーー」

「アルフレッド。俺にもう一度言わせる気か?」

「くっ……チッ、わぁったよ。くそが……」

「おや?漫才はもう終わりかい?」

「どこまでもふざけた奴だ」


 シルグと呼ばれた男は、ダークブラウンの髪に青色の瞳。腰には一本の剣。

 アルフレッドと呼ばれた男は、くすんだ銀髪に灰色に近い瞳。腰のベルトには短剣が計十本差さっている。


「飛べッ、剣たち!」


 アルフレッドがそう言うと同時に、腰に差さっていた短剣が四本、ひとりでに鞘から抜かれ、浮かび上がる。

 アルフレッドの頭上まで浮かび上がると、一斉にグレイイースに向け、発射される。


 グレイイースは、迫りくる短剣を一瞥する。

 すると、グレイイースの目前三十センチでピタリと止まる。


「先走るなアルフ。奴の力は知っているだろう」

「分かってる。試しただけだ」


 アルフレッドは短気だが、愚かではない。


「あまり時間をかけたくないんだがねえ?」


 グレイイースは、机を指先で二度叩く。

 シュウゥゥッと音を立てながら、景色が変わる。


「アルフッ、ここは、奴のフィールドだ!気を抜くなよ!」

「分かってる!」


 まず景色が変わる。

 室内から室外へ。そして、木々が生える。


「見た目に惑わされるなよ」

「これが幻術……なのか?」


 アルフは、見た目そして感じる匂いまでも、本物だと認識している。

 シルグから聞かされていたとは言え、どこから見ても幻術だと思えない。


 グレイイースは姿を消すのではなく、いつの間にか立っており、二人から十メートル程離れた所にいる。


「さぁて……始めようか」


 グレイイースの前に一つ、いや一冊の本が浮かんでいる。

 シルグはその本を見た瞬間、警戒度が跳ね上がった。


「飛翔せよ!」


 残りの短剣を全て浮かせる。

 弾丸以上の速度でグレイイースへ向け放たれる。縦横無尽に飛び回る短剣は、様々な方向からグレイイースを襲う。


「何ッ?」


 短剣はグレイイースをめった刺しにした。が、その身体からは血の一滴も流れていない。


「いや~痛いねえ?」

「効いていない!攻め立てろ!」

「ああ!」


 シルグが駆け出す。

 剣に魔力を注ぎ、一閃。

 グレイイースの首を落とす。


「あっはっはっは!」

「は?なんで生きている?」

「馬鹿野郎!攻撃の手を緩めるな!!」

「あえ?」


 グレイイースは首を落とされても笑っている。

 そこに、シルグの追撃が突き刺さる。振り上げ、逆手に持った剣を落ちた頭へ突き刺す。


 だが、その時、アルフレッドが足元から崩れ落ちた。


「あ、足に力が……?」

「クソッ!もう幻術の中かッ!?」

「ふふ、長々と漫才をしてくれている時に仕掛けさせて貰ったよ」


 グレイイースの体と頭がスッと消え、いつの間にアルフレッドの後ろに立っていた。


「馬鹿な……そんな気配は」

「ここは私のホームだ。君たちの力は私に通用しない」

「糞っ!」


 倒れたアルフレッドを横目に見て、シルグは剣を構え、突撃する。


「はああっ!!!」


 グレイイースの魔導書がパラリと一ページ開かれる。

 氷の槍と炎の槍が五本ずつ現れる。


 シルグの右から氷の槍が左から炎の槍が飛ぶ。


「ッ!」


 当たる寸前、軌道が分かっているかのように最小限の動作で避ける。


「天眼、衰えていないようだねえ?」

「当たり前だ!貴様を斃すために今まで鍛えてきたのだからな!」


『天眼』。

 簡単に言えば、知覚力強化能力だ。一瞬だけ思考を加速させ、視野を広くする能力。

 相手からすれば、未来が分かっているかのように感じるだろう。

 もちろん代償もある。それは、脳に負荷がかかることだ。だからこそシルグは、攻撃を受ける瞬間に発動している。


「剣よ、応えよ」


 シルグの持つ剣が光を放ち、グレイイースとの距離はまだ三メートルはあるにも関わらず剣を振るう。

 光の斬撃が飛び、グレイイースへ飛ぶ。

 一度ならず何度も飛ばす。


 その攻撃を、グレイイースは障壁により防御する。

 一撃、二撃、三撃……その全ての攻撃を弾く。


「くっ……さすがは超越者……っ!」


 グレイイースは軽薄な笑みを浮かべたまま、右手を掲げる。

 魔導書がパラパラと開かれる。


 グレイイースの右手に光が集まっていく。

 そして右腕を振り下ろす。あたかも剣を振るうように。


「こんなもの!……うがああッ!?」


 腕を振り下ろすと、光の斬撃が飛ぶ。

 シルグと同じ光の斬撃だったため、真似と感じ、剣で斬り払おうとする。しかし、グレイイースの放った斬撃は、シルグの剣を透過し、その身で斬撃を喰らう。


 左肩から左脇腹にかけて斬られた痛みに、叫ぶ。


 思わず、右手で斬られた箇所を触る。

 しかしそこには血の一滴も流れておらず、傷もなかった。


「うわあああああ!?なんで俺の体がッッッ!?」


 突如シルグの背後で絶叫が上がった。

 この場にいるのは、三人だ。必然的に誰の声か分かる。


 シルグもその絶叫に顔を向けると、そこには足元からドロドロにされているアルフレッドがいた。


「『幻刃(ファントムエッジ)』……初めて見る技かな?」


 ご丁寧にグレイイースは、先程の魔法の名前を言う。

 だが、シルグはグレイイースの言葉を聞く余裕はなかった。


「おい!アルフ!しっかりしろ!!!」

「し、シルグッ!助けてくれぇ!?か、体が言うことを聞かないんだッ!?」


 アルフレッドは、体が溶ける痛みに絶叫を上げているが、それでも口調はしっかりとしており、シルグに助けを求めていた。


「あ゛あ゛あああああ!も、もう首まで、でで、でぇ?」

「おい!アルフ!アルフレッド!!!」


 すでに体が溶け、首まで溶けていたが、すぐに顔まで溶け始め、全身がドロドロに溶けた。

 シルグは、アルフレッドに何も出来ず、見ているしか出来なかった。

 ガンッと地面を殴りつける。


「まだかね?」

「糞っ!」


 悪態を吐き、立ち上がったシルグは、すぐに構える。

 グレイイースは隙だらけだったシルグには攻撃を仕掛けずにいたが、急かすように声をかける。そんなグレイイースへシルグは一息で距離を詰める。


「糞ッ!糞ッ!糞ッ!!」

「あっはっはっは!効かないねえ?」


 グレイイースの体を何度も斬り裂くが、その剣は、グレイイースの体を透けるように通り過ぎる。まるで、空を切っているようだった。


「がっはっ!?」


 突如右胸に殴られたような痛みを感じ、剣を取り落とす。

 続いて左胸を殴られる衝撃。足を斬られる痛み。頭を鈍器で殴られる激痛を感じ、シルグの意識は闇に呑まれていった。


 それから数秒後。

 学院長室には、二人の体が傷一つない状態で倒れていた。


「……私も行かないと行かなければないないねえ」





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