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超越神の世界旅行  作者: sena
第9章 魔術学院編
241/266

238話 殺気のない敵

 

 注意を払いながら探索ーー散策?ーーを初めて、三分後。


 レインが二十四階層へ上がった時、水溜りで見つけた足跡をもう一度見つけていた。


(またか……近くにいるのか?)


 足音を立てないように歩き、そして見つけた。

 赤い体に上向きに生えている牙。そして、一歩歩くだけで軽い地鳴りが響くかのような歩み。狭い木々の合間を無理矢理抜けようとして、倒しながら歩いている。


(ん……あー、何というか、思ってたのと違う……)


 レインの想像としては、凄く大きく、荒々しい気質の猪だと思っていたが、実際見てみれば、こんまりとしていた。しかし、体躯は小さいながらも、発達した脚、その体重は五百キロは軽く超えているだろう。


(まぁ、何事も喰らわなければいいだけだがな)


 レインは、上の木に飛び乗り、赤い猪の真上に飛ぶ。

 落下する速度を緩めながら魔弾を放つ。


 改良した魔弾、貫通魔弾ならば、分厚い皮膚と頭蓋に守られていたとしても貫通出来る。

 頭部を狙った一撃は、レインの狙い通りに頭蓋を貫いた。


「って、またかよ!」


 猪の隣へ降り立ったレインは、バッと後ろを振り向き、魔弾を六発放つ。

 そこには、レインの警戒をすり抜けてきた狐の魔物が三匹飛び掛かってきていた。驚きと共に放たれた魔弾は、寸分の狂いもなく三匹の魔物に吸い込まれるように当たった。


「なんでだ?」


 レインは困惑していた。

 今回はきちんと警戒していた。斃したからと言って気を緩めてもいない。にもかかわらず、奇襲を許してしまった。


 レインが常に把握している距離は、自分を中心とする半径五百メートルの円内だ。つまり、飛び掛かられる距離まで来られれば、必然と気付くはずなのである。


「ま、いっか……ここまで近付かれれば気付くしな」


 攻撃を受ける寸前に気が付けば、どうとでもなる。

 殺気があればすぐにでも……。


「殺気?ああ、そういうことか」


 レインはカラクリが分かった。

 レインが感知しているのは、自分に向けられる敵意と殺意。そして、半径五百メートル以内の魔力を持つ生物、つまりは魔物だ。だが、狐の魔物の魔力は、この階層の魔物にしては少なく、そして隠密力が高いため、気付かせない。よっては、魔力感知にはほとんで微細にしか感じられず、更には殺気がないため直前まで気が付かない。


 殺気がない魔物など、知性を持ち合わせていない獣の中で出会ったことがなかった。


「それなら無視だな」


 カラクリが解ったレインは、感知範囲を狭めた。

 これにより、奇襲を受けることはなくなった。と言っても、出会う魔物全てと戦わなくてもいいのだ。階層を上がることだけを目的とした行動は、短時間で進んで行った。


 一階層ごとにかける時間は、約十分程。

 身体強化を常時使えないこともあり、体内魔力を活性化させるだけに留め、最短距離を進んで行ったのだ。

 一時間で六階層上がり、三十階層まで上がった。


「あっつ……」


 三十階層に上がった瞬間感じた熱気。

 環境が熱帯地など目ではない程の熱気の発生源は、マグマ地帯だったからだ。気温五十度を超える。しかしそれは、マグマから離れた場所の気温だ。マグマに近付けば、八十度は超えるだろう。


 ただ歩くだけでも、対策していなければ、数分と持たないだろう。


 レインは、耐熱結界を張ることで熱気を寄せ付けないようにしている。

 結界により、レインの周りの気温は適温になっており、若干涼しいくらいだ。


 マグマが川のように、左右の道の脇を流れており、ブクブク、ボコボコと泡立ち、その温度を表している。


 その時、バシャッと音を立て、何かが飛来してきた。


「おっと」


 レインが立ち止まると、その前をマグマを撒き散らしながら通り過ぎる。

 飛んできたのは、マグマフィッシュと呼ばれる身体が溶岩で出来た魚型の魔物だ。体温五百度以上の魔物であり、素手で触れば大火傷必須だ。


 レインは避けると同時に、魔弾で撃ち抜く。


「ふむ。こうなれば……来い、不知火」


 椿を消し、代わりに不知火を顕現させる。


 そして、マグマの中に突っ込む。

 不知火の刀身が脈打ち、マグマを吸収していく。


「そうそう、いっぱい喰えよ」


 約一分程吸収させ、引き抜く。

 刀身には、蒼白い炎が冷気のように纏わりついている。そして、不知火から感じる莫大な魔力。


 不知火は、炎属性を吸収し、己が力とすることが出来る。

 マグマも一つの炎だろう。温度はかなり違うが。


「さて、ちょうどいい魔力補給場が近くにあることだしな。不知火……中火」


 中火を発動させる。

 吸収したマグマを魔力に変換する。凡そ千万と少し。

 無くなれば、またマグマを吸収し、魔力を補給すればいいだけだ。この階層は、不知火の独壇場と言える。


「よっと」


 マグマがブクブクと泡立ち始めると、そこからマグマフィッシュが数匹飛び出してくる。レインは、不知火を二度振るう。

 パカッと真っ二つに体が割れ、二枚下ろしにされ、地面に落ちる。ビチビチッと跳ねているが、数秒も経てば勢いを失い絶命する。


「ふむふむ。斬ると同時に熱を奪えばいいのか……?」


 レインは色々と試行錯誤しながら、進んで行く。

 その間、マグマフィッシュが何度も飛び掛かるが、全てを斬り落としていく。


 その時、マグマ川からマグマが宙に浮かび上がり、弾丸のようにレインへ放たれる。


「ふぅ……ハッ!」


 納刀し、一閃。

 一撃で全ての溶岩弾が斬り飛ばされる。

 レインは、溶岩弾を放った敵を見つけるため、意識を集中する。


(あそこか……)


 前方五メートル程先のマグマの溜り場。そこから強大な魔力の反応があり、レインへ殺意を放っている。

 駆け出すレインへ、近寄るなとばかりに溶岩弾が無数に放たれるが、居合抜きで斬り払っていく。背を低くしたまま駆け、一拍の内にマグマ溜りの前まで行く。


「爆ぜよ」


 不知火をマグマ溜りへと向け、唱える。

 瞬間、マグマ溜りが爆発する。


 が、予想以上に小さい。

 小爆発にも劣る爆発だった。


「抑え込まれたか……」


 ならば、と、不知火をマグマの中へ入れる。

 ドクドクとマグマを吸収していくが、突如それも止まる。

 そしてレインは、大きく後ろへ飛ぶ。


「お出ましか……」


 グツグツとただでさえ高温のマグマが更に高温になり、ボコッと弾け、火柱が立ち上がる。そこから現れたのは、全長十メートル程の溶岩で出来たゴーレムだった。


「ロックゴーレムのマグマ版って言ったところか……自分の餌を盗られて怒ったか?」


 挑発するように、唇をつり上げ言う。

 すると、レインの言葉を理解したのか、馬鹿にされたと感じたマグマゴーレムは、極太い両腕を上に掲げる。


 小さな灼熱の球体が現れると、莫大に体積を増す。

 直径一メートルになった時、高速でレインの方に飛んできた。


 レインは、不知火で斬りつけると同時に、熱を吸収する。

 二つに割れ、急激に温度の下がった球体は、黒く色を染めながら地面へ落ちる。


 今度は、マグマ川からマグマの帯が噴き上がり、レインを拘束しようと迫る。

 巻き取るようにカーブを描きながら迫るマグマの帯をジャンプすることで避け、帯を蹴ることで再度飛ぶ。空中へ身を躍らせたレインを好機と捉えたのか、三本の帯が巻き付こうと迫る。


 それを、再度帯を蹴ることで更に飛び、真下へ向け、一閃。


 ザクッと斬り裂かれたマグマの帯が、形を失い地面へ落ちる。


 レインは着地と同時に、不知火を地面へ突き刺す。そして、鍵を回すように捻る。

 突き刺さった不知火から、三条の亀裂が走り、マグマゴーレムまで突き進む。


 マグマゴーレムの所まで進んだ亀裂は、突然炎を吹き出し、蛇の形を取る。


「巻き取れ」


 レインの命令通りに、三匹の炎蛇はマグマゴーレムの足元から這い上がり、身体を拘束していく。

 腕を振り回し、マグマから足を引き抜き、暴れまわる。しかし、その抵抗も徐々に出来なくなる。頭部まで登った炎蛇は、頭部と両肩に噛み付く。

 噛み付いた場所から火花が飛び、牙が食い込まんと音を立てている。


「不知火……炎舞」


 不知火を地面から引き抜き、今度は頭上へ掲げる。

 狐火が百個現れ、一斉にマグマゴーレムへ飛ぶ。


 マグマゴーレムの身体はマグマで出来ている。

 つまり、千度を超える高温なのだ。火力の低い炎攻撃は無効化され、逆にゴーレムの力となるだけだ。しかし、不知火の狐火は、一万度を超える高温だ。たかだか数千度程度の温度は、(ぬる)いくらいだ。


 弾丸のように飛んでいった狐火は、未だ拘束から抜け出せず足掻いているマグマゴーレムを……穿つ。


 全長十メートルもある身体を、二十センチから三十センチの穴が無数に開く。抵抗すら出来ずに、穿たれたのだ。


「不知火……一ノ太刀・瞬閃火」


 上段に構えた不知火を振り下ろす。

 魔石を避けるように、中心を縦一文字に斬り裂かれる。一秒後、ズリッと身体がズレ、マグマへ身を沈める。


「って、魔石を回収せんとな」


 レインは左を上に向け、魔石を収集する魔法を発動する。

 マグマに沈んだ魔石がひとりでに浮き上がり、レインの手の中に収まる。


「二十、いや二十五……くらいか」


 二十五と言うのは、魔石の直径の大きさだ。

 マグマのように赤い魔石は、若干熱く、熱を持っている。


 ゲームになぞらえるならば、マグマゴーレムは中ボスと言ったところだろう。そして、その魔石は白獅子に並ぶ大きさだった。


「相性、ってことか。まぁ、レベルが上がったからってこともあるか」


 同属性の攻撃ならば、より強い方が勝つのは必然。

 白獅子は、攻撃力と速さが高かったが、マグマゴーレムの場合は、攻撃力とマグマを操ることに特化していた。攻撃力が高いだけであり、速さが足りない攻撃ならば避けるのは容易い。


 マグマを操る攻撃も不知火に劣り、対処は簡単すぎる。相性が良いとはそう言うことだ。


 レインは、正解の道筋を把握しながら、奥へ奥へと進んで行く。

 熱気も結界を張ったレインは、苦にしない。魔物もレインのレベルを上げるための贄としかなっていない。


 マグマ地帯を歩きながら、時節飛び掛かってくるーー襲い掛かってくるーー魔物を斬り捨てながら進んで行く。


 道中、マグマゴーレムより強い魔物は現れず、退屈していたところに、それは現れた。


「……スライム?」






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