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超越神の世界旅行  作者: sena
第9章 魔術学院編
236/266

233話 ヘル・ドライブ

 

 凍り付いた地面。

 その上は当然滑る。普段通りの踏ん張りは効かないため、魔法を使い移動している。


 白獅子がレインの目から消えた瞬間、上へ飛び魔弾を放つ。

 魔弾は白獅子の背中へ直撃したが、毛ほどもダメージを与えられていない。その白い体毛に阻まれ、身体にまで届いていない。届いたとしても、ダメージを与えられないことくらい、一度の攻撃で理解した。


(魔弾では無理か……よっと)


 左右にステップを踏み、ゆらゆらと位置を掴ませないよう動きながら、隙を見て反撃する。が、牽制にもなりはしない。


 魔弾程度の攻撃ならば、いくら喰らってもダメージがないと理解(わか)った白獅子は、益々攻撃速度を上げていく。魔弾を躱そうともせず、直撃してもお構いなしに突っ込む。


「ゼロ距離なら……!」


 突っ込んでくる白獅子の体当たりをしゃがむことで避け、右腕を上に突き出す。

 その手には椿が握られており、白獅子の顎に銃口が突き付けられている。引き金を引くと同時に、魔弾が発射され、顎を穿つ。しかし、狙い通りにはいかなかった。ゼロ距離から放たれた魔弾を避けたのだ。


 顔を背けるようにして魔弾を避け、六つの赤い瞳がレインを向く。

 ギロッと睨み付けるが、その顔は盛大に嘲りが含まれている。

 お前の攻撃は当たらない、とでも言いたげな表情だ。


 白獅子の避けると言う行動は、正解だったのだ。

 ただの魔弾ではなく、徹甲魔弾。

 ダメージを与えられるかどうか分かっていたわけではないだろうが、レインの攻撃は全て効かない、と言いたかったのだろう。


「チッ」


 体勢を低くした状態で連続したバク転をし、距離を取る。


(やっぱ単純な速度で負けるてるな)


 一度念の為、椿の銃口を白獅子へと向ける。そして引き金を引く。

 対象は白獅子の身体。放つ魔法は分解。しかし、魔法は効果を及ぼさなかった。白獅子の纏う魔力を突破出来なかったのだ。


(ダメだな。肉体に直接作用する魔法は無効化されるか……)


 レインが白獅子と拮抗出来ているのは、攻撃を見切り、白獅子の攻撃より先に避ける行動を取っているからだ。

 単純な話、レインは速さで、手数で負けている。


 力で負けているのはいい。

 人間が魔物よりも身体能力で劣っているのは自明の理だ。そのための技術だ。力の差を技術で埋めている。

 そして今のレインも単純な筋力と言う点で負けている。だが、速さと言う点で敵の方が圧倒的だった場合、戦術の幅が狭まる。

 なぜなら、レインが一回攻撃する間に白獅子の攻撃は三回から五回程の攻撃が出来る。レインはその攻撃を、どうにかこうにか避けに徹することで避け、攻撃はカウンターで反撃するに絞っている。


(まぁ、だからこそ面白いんだがな)


 レインの顔には、焦燥も悲観も浮かんでいない。

 浮かんでいるのは、ただただこの戦いが面白くて仕方ないと言う表情のみ。口角が吊り上がる程の笑みだが、レインが浮かべると妖艶な笑みとなる。


 対して白獅子もレインから何かしらの攻撃を受けたが、それを弾いたことを感覚的に理解していた。故に、嘲りいっぱいの嘲笑を顔に刻む。もし、喋れるのならば、腹がよじれる程の笑い声で馬鹿にしてきそうな感じだ。


 レインと白獅子の睨み合いーー白獅子は嘲笑を、レインはただじっと見ているだけーーは、白獅子が右前脚を上げたことで終わる。ドスッとスタンプするように叩きつけられる。


 すると、レインを囲むように氷の槍が地面から突き出される。


(跳んでも追ってくるな)


 その魔法の性質を一目で理解したレインは、背後から迫る氷槍を魔弾で破壊し、そこから逃れる。

 滑るようにして逃れ、しかし、再度そこから横に飛ぶ。


 後ろに避けたことで、レインを隠すようになっている氷槍ごと砕くように、白獅子が体当たりを繰り出して来たからだ。


 氷槍を砕き折り、そこにレインがいないことを知ると、咆哮を上げる。


 そしてグルリとレインのいる方向へ顔を向ける。

 咆哮による音の衝撃で、レインの位置を特定したのだ。


 一瞬で目の前に現れた白獅子の左前脚による引っ掻きを、力を受け流すようにして防ぐ。続く攻撃、左に体を移動されたレインの更に左から、一本の氷槍が突き上がるように出現する。


 氷槍が出現した瞬間に、分解する。


(魔法の分解は出来るが……!)


 レインはサッと(かが)む。

 その頭上を白獅子の薙ぎ払いが通過する。レインは左手を軸に回転し、足払いを喰らわせる。


 片脚を振り切った状態の白獅子には、耐えることが出来ず、前のめりに倒れる。すぐに立ち上がり、左拳を突き出す。


 ズシンッと衝撃が白獅子の身体を突き抜ける。

 直接的な攻撃は効かずとも、衝撃により脳を揺らすことは出来る。


 これは狙い通りにいき、白獅子の視界が一瞬揺れ、ほんの少しの間だが立ち上がれなくなる。


(魔弾を改良……威力は上げなくていい。貫通力だけを上げる。回転を加え、分解を纏わせる。魔弾の弾頭だけに纏わせればいい)


 思考時間は、0.04秒。一瞬未満の時間で巡らされた思考だった。


(魔弾の改良完了)


 銃口を額へ突き付け、改良した魔弾を放つ。


 貫通魔弾が白獅子の額を抉るように貫く。いや、貫こうとした。額に一センチ程抉った時、強引に顔を顔を背けたのだ。

 魔弾は、額の皮膚上を抉りながら飛んでいった。


(あれを避けるか……)


 これには、さすがのレインも驚いていた。

 もう一度貫通魔弾を放とうと引き金を引こうとしたが、衝撃から立ち直った白獅子が自分の真下から、突き上げるように氷を出現させ、逃れる。


 地上から数メートル程上がった所で止まった白獅子は、もう嘲笑の笑みは浮かんでいなかった。


 焦りは覚えていないまでも、この敵はおかしいとは思い始めていた。

 本能による警告が響き始めたのだ。


「やっぱ速さが足りんな」


 心の中だけの声が、外に出る程、そう思っていた。

 速さが圧倒的に負けていると言うのは、とても問題がある。なぜなら、攻撃を当てることが困難ということだからだ。こちらが攻撃しようとしても、すでに相手は届く場所にいない。そんなことの連続が起こるのだ。

 速度は単純な移動速度だけではない。攻撃速度と言うことでもあるのだ。


 白獅子のステータスは、速度だけでなく力も高い。防御力にも秀でており、全体的に高水準なのだ。


 そこでレインが取った方法は、力でも防御でもなく、速さ一択だった。


「ふぅ。やるしかないか……ヘル・ドライブ」


 そう言った瞬間、レインの身体から赤黒い色の魔力が放出され、バチバチと雷のように弾けている。


 そして次の瞬間、レインの姿を白獅子は見失った。


 自己加速魔法や脚力強化という魔法があるが、それらは身体強化とは違い、速度だけが上がる。力も防御力も上がらない。そしてレインの使った『ヘル・ドライブ』も強化されるのは速さだけだ。


「速さは力だ」なんて言っている者のいるが、攻撃力がなければ、高防御力の相手にダメージを喰らわせることは出来ない。

 例えば、高速で動いたとしても、壁にぶつかれば肉体が耐えれずに、ベチョッと壁の染みになるだけだ。


 だが、防御力を貫通するだけの攻撃を持っているならば、速さは力となる。


 白獅子がレインを捉えた時には、すでにそこにはいない。

 白獅子の腹下へと潜り込んだレインは、立ち上がるバネを利用し掌底を放つ。


「グラァアァアアッ!?」

「もういっちょ」


 椿を消し、右手で掌底を放つ。

 衝撃が背中から突き抜ける。


「最後に」


 前に倒れるようにして手を付き、両足で蹴り上げる。


「グガァア!?」


 口から血を吐き出し、上へ吹き飛ぶ。

 発勁の要領で内臓へとダメージを与えたが、致命傷までには至らない。


 着地した脚は震えながらも、しっかりと立っている。

 ただでさえ赤い目は血走り更に赤く、怒りの表情を浮かべている。感情に伴い無差別に放たれた魔力が衝撃波となり、凍った地面を砕いていく。


 レインは消した椿を再度出現させ、銃口を向ける。


 先に動いたのは、白獅子だった。

 氷を砕きながら右回りに走っている白獅子へ魔弾を放つ。貫通魔弾を一度見せているため、身体で受けようとはしない。ジグザグに動きながら、冷気を放出する。


 辺りを薄く霧が立ち込める。

 レインはその霧を吸い込まないようにしながら、白獅子の突進を避け、その後を追随するように追いつき、蹴りつける。

 横っ腹を鈍器で殴りつけられたような衝撃を感じ、白獅子が吹き飛んでいく。そこへ追い打ちをかけるように、貫通魔弾を連射する。


 地面から氷の壁が現れ、魔弾を防ぐ。

 十発程喰らった氷壁は砕け散るが、レインは氷壁から視線を外し、氷壁から数メートル離れた所へ銃口を向け、魔弾を連射する。


「ガアアアアッ!?」


 移動先に照準を合わせたことで、もろに魔弾を喰らってしまう。

 絶叫を上げながら、両前脚を上げ、地面へ叩きつける。


 レインへ向け、氷の針が無数に飛来する。

 レインは右に回り込みながら、飛び上がり、虚空を蹴って移動する。


 白獅子はその移動を捉えることは出来なかった。

 そのため、レインの姿が消えた瞬間、今度は全方位に、氷針を飛ばす。

 視界を埋め尽くす程の氷針を、対魔法障壁で弾きながら、一息に距離を詰める。そして咆哮を上げた口の中へ右腕を突っ込む。


「終わりだ」


 椿へ魔力を注入し、放つ。

 それは、弾丸ではなく砲撃だった。


 体内を破壊しながら貫く砲撃は、口の中を一直線に進み尻から抜け出ていった。


 ビクンッと大きく痙攣し、その巨体が倒れる。

 白獅子の魔法により凍らされていた地面が魔法の効果が切れたことで元に戻る。


「はぁ、はぁ……ヘル・ドライブ。結構使えるな。でも、疲れる」


 ヘル・ドライブは、レインが圧倒的なステータス差を覆すために創った新魔法だ。

 速さだけでも優位に、そうでなくとも同等程度になれば、それだけで戦術の幅はグンと広がる。


 消費魔力の効率もよく、十分実戦にたる魔法だったが、問題は魔力より体力の消費だろう。レインでさえ軽く息切れを起こしている。


「肉体に疲労が蓄積される……が、まぁ、問題ない。さてと……遺跡を覆う結界も解けてるな」


 レインが白獅子と戦ったのは、何も戦いたくて戦っていたわけではない。

 遺跡に近付いた時、その守護者として現れたのだ。

 ゲームなどである、特定のモンスターを倒すと入ることが出来る場所、と言うやつだ。


「この遺跡の中にも魔物っているんだよなぁ」


 少しだけめんどくさいと思ったが、せっかく白獅子を倒したのだ。ならば中に入るのが礼儀と言うものだろう。


 きちんと入口から中へ入る。

 古びた如何にもな風貌の遺跡に突入する。


「ほう……」


 レインは感嘆の声を上げる。

 遺跡の中は、外見に反してしっかりした造りで、通路も整備されていた。

 ただ気になることは、魔物の気配がたくさんあることだ。


「大体何があるんだ?」


 気配を消し、進んで行く。

 人型の魔物が徘徊しているが、まるっきり無視して進む。左へ進む通路を曲がり、魔物の気配がより強い場所を目指して行く。


(ここは、本がたくさんあるな。魔導書か?いや、普通の本もあるな。って、なんだこれ)


 レインは本の一つを手に取り、開く。

 レインが訝しげに見たのは、中身が白紙だったからだ。


(そう言えば、表紙にも何の文字もなかったな)


 手に取った本を戻し、隣の本を取る。

 そうやって適当に手に取り見てみるが、どれも白紙だった。表紙は何年も経ったかのような手触りと見た目だが、中には何一つ書かれていない。


(ただの白紙じゃないか……魔導書はどうした)


 落胆の表情を浮かべながら、ため息を吐く。

 本の数は、数百から数千冊程度。その全てがただの白紙本とは思っていないが、それでもこの中から本物の魔導書を見つけるのは困難だろう。


 だが、魔導書とは魔力を伴っている物だ。

 知覚を広げて見れば、すぐに見つかるだろう。


(これか)


 知覚を視覚にまで広げる。

 レインの眼に、淡く光る一冊の本が映った。


 手に取り、この場では開かず異空間収納の中へ放り込む。


「さっさと帰ろ」


 もうすでに、神の塔へ入り六時間以上経っている。

 その間、ほとんど戦い尽くしだった。

 レインとしては大満足の結果だ。と言うわけで、そろそろ帰還したいと思っていた。


 だが、まだ遺跡の内部を全て探索していない。

 そのため、地面に陣を描き、マークを付ける。


「これでここに転移出来るようになった……はずだな」


 レインは転移球を解析していた。

 その仕組みの転移場所の保存機能を応用し、魔法陣を創っていた。つまり、転移球で転移できる場所に、この遺跡を含めたのだ。もちろんレインだけが使用できるバックドア的な物として。


「しかし、この陣はこっちからの転移機能はないんだよなぁ」


 ただ一つ問題があるとすれば、そこだ。

 遺跡に転移は出来るが、遺跡から外へは転移出来ない。つまり、神の塔から出たければ、転移球を介してではなければ、出ることが出来ないのだ。


「さて、転移球を探さんといかんが……この場所がどこか分からん」






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