230話 二度目の突入と新魔弾
しばらくバベル攻略が続きそうです……主人公一人で。
それと、魔物の名前教えて欲しいです!
一度神の塔での実戦授業が始まれば、Aクラスの生徒の士気も上がった。
強くなっているのが身に染みて分かるからだ。実戦程、自分の力を確かめられるものはなく、実戦の方がより強くなれるからだ。単純に数値として見れると言うのもある。レインもレベルアップするのを見て、楽しんでいたのだ。子供である生徒たちは、レイン以上に楽しい、と言うより嬉しいのだろう。
それに、負傷者が一人もいなかったのも、神の塔へ再度早く行きたいと思える一因だろう。
初めて神の塔へ突入した翌日。
その放課後、レインは神の塔へまた一人で来ていた。完全に不法侵入の形で。
「ふぅ、今度は迷わ……じゃなくて、攻略を進めて行こう」
転移球がある階層には、登録することでその場所に転移することが出来る。レインは、三階層へと登っていた。
「ここも洞窟か……」
三階層へ上がったレインは、一、二階層と同じく、薄暗い洞窟の中を進んで行く。ただ、三階層で出てくる魔物は、種類が変わっていた。
「ゴーレムか」
大岩の人形がレインの目の前に二体、うろうろとしている。
二体の内の一体がレインに気付き、その赤い目を光らせた。
ドスン、ドスンと洞窟を響かせるような足音を鳴らしながら、ゆったりとレインへと迫る。
「ゴーレム系、それも最下級ならこの程度か……」
正式名称、『ロックゴーレム』の足取りは、遅い。ステータスが、攻撃力と防御力に割り振られているからだ。一撃の威力は、同級魔物の中でも最上位だろう。ただ、弱点もある。
「ゴーレムを動かす核を壊せばいい」
椿の銃口を体長三メートルを超える大岩の魔物に向ける。
放つ攻撃は、神の塔へ来て使っている魔弾だが、銃口から発射するのではなく、椿の能力『座標射撃』を用いての攻撃だ。指定する座標は、ロックゴーレムの核、人間で言う心臓部分だ。照準を定め、引き金を引く。
「ゴゴゴッ……ゴ、ゴ」
パキンッと何かが割れる音がし、油の切れた人形のように動きが止まる。
外傷はなく、赤く光っていた目は、光が失われている。
レインは続けて、後ろにいる二体目のロックゴーレムへと銃口を向け、魔弾は発射する。
一体目と同じように、動きが止まる。
「む?そう言えば、核が魔石となるのか?」
レインは、魔物の心臓が魔石となっている世界もあることを思い出し、そう呟いた。
魔石とは、魔力の塊、結晶と呼ばれる。魔物全てが魔石を持つわけではない。普通に心臓を持つ魔物もいる。ただ、これも世界により違いがある。迷宮の外の魔物でも、死ぬと消え、その場にドロップアイテムだけを残す世界もある。魔物が魔石を体内で生成しない世界もある。
そして肝心のこの世界は、神の塔の外の魔物は試していないため分からないが、神の塔に限って言えば、魔物が死ねば、その身体は神の塔に吸収され、そして魔石が残る。ただ、核が魔石となっているため、核を傷付ければ、残る魔石にまで傷が付く。そのため、通常核は壊さないように、攻撃する。
つまり、レインが倒したロックゴーレムの魔石は破片しか残っていないと言うことだ。
「心臓が魔石か、この世界は……なら、あまり壊さない方がいいか」
核を壊された魔物は即死するため、自分より強い魔物が相手の場合は、核を狙うことが多い。ただ、核(魔石)とは、魔力の塊、易々と壊れたりはしない。
「ゴーレムなら頭部を破壊すれば止まるか?」
レインは、大粒の破片となり、砕けている魔石を見ながら独白する。
ゴーレムには痛覚もなく血も流れないため、倒すならば生命力を削り切るしかない。しかしレインは、チマチマ攻撃するより、破壊してしまうとしても魔石に攻撃する方が性格にあっている。
「……ま、試せば分かることか」
視線を魔石の破片から前に向けると、新しく現れたロックゴーレムがレインを敵と認識していた。
「『徹甲魔弾』」
通常の魔弾ではなく、貫通に特化した『徹甲魔弾』を椿を介して放つ。
魔弾より二倍程速い徹甲魔弾が、ロックゴーレムの頭部へ直撃した。徹甲魔弾の大きさは、直径十センチ程。砲弾と言えるが、ロックゴーレムの頭部の大きさは、三十センチを超える。顔面に大穴を開けるには、そのくらいの大きさがなければ意味がない。
「ふむ……これは使えるな」
頭部の中心を貫かれたロックゴーレムは、前のめりに倒れる。
威力は申し分ない。レインの今の魔力でも十分使える。魔力の練り込みにより、少量の魔力でも十分な威力を出せると分かった。
「徹甲魔弾は頑丈な奴には使えるな。ただ、魔弾の消費魔力の1.5倍から2倍ってところか」
効率のいい魔法と言えるだろう。
だが、どちらにせよ、敵の防御力に合わせて魔力を込めなければならないため、全ての魔物に使えるかどうかは別だろう。
「今度は団体か……使うつもりはなかったが、今日は攻略が目当てだからな。少し急ぐか」
レインは、目と閉じ、知覚を広げる。
大きい魔力の塊が四つ、十三メートル先に感じる。その右奥に、少し弱い魔力を一つ。左奥に、同程度の魔力が二つ。
「目先のやつはゴーレムではない?」
色々制限を重ねたレインは、魔法的感覚も知覚能力もかなり低下している。それでも、集中すれば、自分を中心とする、半径数十メートル程度ならば把握できる。
それでも、詳しい敵の情報は分からない。漠然とした気配だけが伝わる。
「通路は左右と正面の三つ。いや、正面の道に逸れる道があるのか」
目を開いたレインは、走りながら正面の通路へ入り、突き進む。
出会う魔物は片っ端から撃ち抜いていく。
レインが無視した弱い魔物。魔物の名は、ラビットバット。兎か蝙蝠かどっちかにしろと言いたいような名前だ。兎の体に蝙蝠の羽を持っているから付けられた名前だ。大きさは、体長三十センチから五十センチ程。地面を走ることも天井にぶら下がり、少しの間なら飛ぶことも出来る。
三匹から五匹の群れで行動しているが、レインからすれば、楽な相手だ。素早さが高いだけの魔物では、魔弾だけで事足りる。
「雑魚の魔石は放置するか」
チラリとラビットバットの魔石を見て、すぐ視線を前に向ける。
ラビットバットの魔石は直径一センチ弱。小石も小石だ。
「十級魔物は弱すぎる」
そう呟きを残し、駆け抜ける。
落ちる魔石には見向きもせず、進むことだけに意識を割き、走る。速度五百キロ程だろうか。
「ここか?」
キュッと0から100の加速の逆バージョンで停止する。
大きな四つの魔力が数メートル前にあり、レインが止まった左に別の通路がある。
「どうするか。空間把握で道を確かめてもいいが……むむ、そうすれば方向音痴と認め……じゃなくて、分からなん、でもなく、遠回りするかもしれんしな。まぁ、大きな魔力の方へ向かえばいいか」
そんな勘頼りだが、行く道を決め、そのまま走り出す。
数十秒したところで、感じた魔力の場所へ着いた。
「ゴーレムじゃないか……でかいけど」
そう、レインの感じた大きな魔力の魔物とは、先程からもちょくちょく出会っているロックゴーレムだった。しかし、今までのロックゴーレムが、三メートル程だとすれば、今レインの前にいるロックゴーレムは、五メートルを優に超える。それも四体。
腕の太さなどレインの胴程もある。
レインを補足した四体全てが、巨体を揺らし二体が迫る。残りの二体は、後ろで両腕を前に向けている。
「魔法か……!」
次の瞬間、二十の岩弾が放たれる。
前に見たゴルネイヤの岩の弾丸よりも威力は低いが一回り程大きい。弾丸と言うより、杭に近い形だ。
ーー座標指定、照準セット、岩弾。
椿を向け、分解の魔法を放ち、岩弾を同時に無効化する。
自分の魔法を消されたと言うのに、動揺しないのは、意思がないからだ。ゴーレムに課せられた命令は、敵を排除すると言うもの。そのための行動を取る。一度魔法を無効化されたから攻撃をやめることはない。続けて、二度目の魔法攻撃を放とうとするが、その前にレインへ突撃していた二体のロックゴーレムが、腕を振り上げ、レインを潰そうとする。
「『部分破壊』プラス『徹甲魔弾』」
右から迫るロックゴーレムの腕の付けねを破壊することで、攻撃をいなし、左から迫るロックゴーレムの頭部を徹甲魔弾で破壊する。
「む……」
しかし、右のロックゴーレムの腕は破壊できたが、左のロックゴーレムの頭部は、少し砕くだけで貫通には至らない。
ならば、と、
「連射するだけだがな」
椿に魔力を注入、引き金を引く。
左右のロックゴーレムの頭上に、魔法陣が二つずつ現れ、徹甲魔弾が放たれる。
一発目がロックゴーレムの頭皮ーー皮ではないがーーを削り、二発目が完全に破壊する。
レインに迫ってきた二体のロックゴーレム倒すと同時に、入れ替わるように、岩弾が放たれていた。狙いは正確で、確実にレインを殺せるだけの数、威力だが、どんな攻撃だろうと当たらなければ意味がない。
ゆらゆらと、いや、ふらふらとが正解だろうか。そんな動きで、岩弾を避け、一息で魔法を放っているロックゴーレムとの距離を詰め、グッと腰辺りで右拳を構え、突き出す。
ロックゴーレムの腹部へと突き刺さった拳は、岩の体を破壊し、大穴を穿つ。そのまま、右足をキュッと右へと向け、最後の一体へと踏み出す。
ロックゴーレムでは反応出来ない速度で動いているため、ロックゴーレムはレインの姿を見失っている。
ロックゴーレムの背後に出現したレインが、椿の銃口を頭部へ突き付ける。
「チェックメイト」
引き金を引くと同時に、徹甲魔弾を放つ。
今までと同じようだと威力が足りないことは分かっていたので、更に練り込み威力を増していた。その徹甲魔弾は、予想通りにロックゴーレムの頭部を一撃で破壊し、活動を停止させる。
「っと……後はここをまっすぐ進むだけか」
大広間を抜ければ、四階層へと続く階段があることは、知覚能力を広げた時に分かっていたため、寄り道をせず、四階層へと上がる。
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