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超越神の世界旅行  作者: sena
第9章 魔術学院編
229/266

226話 学院長との邂逅

学校ってどんな授業あるんでしたっけ?

魔法の授業とか受けたことないのでわかりません!

 

 扉を開けると、目の前に大きな壁が立ちはだかった。

 比喩ではない。実際に要塞のような重厚な壁が現れたのだ。


 男性教師は、一瞬狼狽えた素振りを見せるが、すぐに取り繕い、壁に向かって頭を下げ、部屋から退出する。


 学院長室だと思われる部屋に入り、いきなり目の前に現れた壁を前に一人にされたレインは、どうするか悩んだ。


 壁の正体は分かっている。

 部屋の扉から三メートル先に敷居を隔てるように出現した壁。

 その正体は、


(魔法……それも、幻惑魔法なんだが……)


 レインの目には二つの光景が見えている。

 一つは、幻惑魔法で見せられた壁。もう一つは、その奥にいる椅子に座っている人間。おそらく学院長本人なのだろう。


「気付いているんだろう?」


 レインの止まっていた時間は、二秒程だったが、アクションを起こさないことに疑問を覚えたのか、壁の向こう側から声がかかる。

 その声に対する答えとして、レインは幻惑魔法を破った。スゥッと消えていく壁を一度見てから、声の人物に目を向ける。

 そこにいたのは、見た目は二十代の男性だった。


「初めまして。グレイイース・フォル・レブンディース、気軽にグレイ、または学院長とでも呼んで欲しい」

「ふむ。俺のことは……知っているみたいだな」

「うん、ヘステルとは昔ながらの友人で……君のことを、編入させて欲しいと言われてね」


 グレイイースの喋り方は、良く言えば親しみやすい、悪く言えば軽薄な感じだ。もし、雪那がこの場にいたら、伯爵と同じ結末を辿っただろうと、レインは思った。レインとしては、グレイイースの人柄は、この短いやり取りで気に入り、言葉遣いも礼儀も訂正するつもりはなかった。今、この場所では、生徒と学院長と言う立場を尊重しようと思ったと言うことだ。だからと言って、レインが下手に出ると言うことはないのだが。


 伯爵と知り合いと言うことは、レインのことを聞いていると言うわけだ。どの程度聞いたのかは、分からないが、この少しのやり取りで、レインは、グレイイースが自分のことをどう思っているのかというのが分かった。


 グレイイースは上手く隠しているようだが、その目の奥にチラリと恐怖が覗いている。


「最初は私も、「子供に対して何をそこまで」と思ってたんだけど、視て確信したよ」


 恐怖を意思の力で抑え込み、僅かにも表面には出さずに、ゆっくり話始める。


「私は、これでも全盛期は名の通った魔法師でね、見れば相手の力量が分かるんだよ」


 そう言い、一度言葉を区切る。

 すると、「あっ」と言葉を漏らし、少し慌てた様子でレインを席に勧める。


「立ちっぱなしも何だから座ろうか」

「うむ」


 レインは未だに立ったままだった。

 話しとしては十数秒だったが、このまま立ち話は失礼と思っての行動だ。


 レインの目の前には、ガラステーブルを挟むように置いてある紺色のソファーへと腰を下ろす。

 レインが座ったのを見て、グレイイースも席を立ち、レインの対面へと座る。グレイイースが人差し指で、トントンとガラステーブルを叩くと、レインの前とグレイイースの前にソーサーに乗ったティーカップが現れた。中には、明るいオレンジ色の液体が入っていた。匂いからして紅茶だろう。


 グレイイースが紅茶を飲み、喉を潤す。

 ふぅ、と一息入れ、続きを話しだす。


「私には魂の色と波動が見えてね。色は大きく分けて三色。その色によって私に害をなす者かどうかが分かる。波動と言うのは、その者の力量と言えば分かりやすいかな。……それで、今まではどんな相手でも見えないと言うことはなかったんだよ。例え人でなくとも……」


 そこで、スッと目が細められる。

 威圧している、と見えるだろうが、一切そんなことはない。ただのポーズでしかない。その証拠に、一瞬で元に戻る。


「色は全く見えず、波動は弱々しいにも関わらず、底冷えするような冷たさを感じる」

「ほう?」


 レインは、ティーカップに手を伸ばし、一口。

 意外と美味しく、そのまま二口目を飲む。

 波動が弱々しいと言うのは、ステータスだろう。本来なら魂そのものを見ることが出来るのだろうが、今のレインの魂は、誰であろうと見ることは出来ないのだ(もし、本当に見たのなら瞳が破裂するか、最悪死んでいる)。上辺だけを見た感想なのだろう。

 冷たさと言うのは、レインの本質を直感で感じたのだろう。


 今度は、スッとレインの目が冷たさを帯びる。


「……すまない。詮索はしない」

「ああ、そうした方が身のためだ」


 すぐに謝罪したグレイイースにクスッと笑う。

 その笑いに場の緊迫した空気がフッと緩んだ。


「それで、どうかね?我が学院は……生活に不便はなく、ただ、君にしてみれば一年の授業は簡単すぎかな」

「そうだな。学院生活を送るつもりで来たわけではないからな」

「うん、聞いてるよ。システィナ嬢へ魔法を教えるため、とね」

「そう言うことだ。生活の方は全く不便はないぞ。嫌に良すぎるがな」


 レインの踏み込んだ言葉に、グレイイースは動揺しない。


「……いくらヘステルの紹介と言えど、これ以上は」

「言えないこともあるだろうさ。深くは聞かん」


 レインがそう言うと、明らかにホッとした雰囲気が伝わる。

 レインは、全く威圧感を放っていないが、それでも自分より圧倒的格上の存在に対して、否定の言葉で拒否するのは、勇気がいったはずだ。


「遅くなったが、序列一位おめでとう。入学当初からアマギ君は強さを誇示していたのでね。その力は学生レベルにとどまらない」

「だろうな。精霊、それも四大精霊を召喚出来るくらいだからな」


 と、言ってはいるが、翔太のことは一切興味の対象ではない。

 四大精霊を召喚できると言うのも、称賛しての言葉ではない。客観的に見たことを述べただけだ。


「それで、失礼かもしれないが、残高はどの程度かな?」


 残高と言うのは、生徒カードの裏にある『0』という数字の項目のことだろう。

 このカードが身分証プラスクレジットカード(のようなもの)になっていることには、システィナたちの話を聞いていれば分かることだ。ただ、入金は一度もしていないため、『0』なのは仕方ないが、学院内のショッピングモールでの買い物は出来ないことになる。それなのに、今日学院長室に呼ばれなければ、ショッピングモールに行こうとしていた。お金のことは、何とでもなるからだ。人間の法的には違法となるが。


「0だ」


 恥ずかしげもなく、ハッキリと言う。

 そのレインの言葉に、グレイイースは「それは良かった」と微笑み、懐から黒色のカードを出す。

 職員用のカードなのか、学院長しての特別な物なのか、それは分からない。しかし、視た限り、レインの貰った生徒カードよりも複雑で幾重にも魔法が掛けられているのが分かる。


「出して貰えるかな?」


 レインも言われた通りに、生徒カードを出す。

 うん、と一度頷き、黒色のカードの表面をスライドし始める。


(科学ではなく、魔法が根底にある技術か。空間ディスプレイに似たような感じだな)


 すると、レインの持っていたカードが僅かに発光する。

 裏面の残高だと思われる標示の場所を見ると、そこには、『1.000.000』と表示されていた。


「取り敢えず、百万程送って置いたから、大丈夫だと思う」

「これは、ヘステルからか?」


 そう言うと、驚いたように目を見開いた。


「そうだね。システィナ嬢への魔法指導、その報酬だよ。私から送って欲しいと言われてね」

「取り敢えず、ってことは、まだあるんだろう?」

「今すぐに欲しいと言うのなら、送るが……」

「いや、今はいい。対して使わんしな」


 今言ったこと本当のことだ。

 生活に必要な物は整っている。料理のための食材くらいしか、今の所必要ない。


 レインは、入金されたお金を見てシスティナが言っていた言葉を思い出した。

 それは、序列戦の賭けのことだ。最初、どうやって金の移動をやっているのかと思ったが深く考えなかった。それが、今分かっていた。生徒同士でも、今と同じようなことが出来るのなら、賭けの対象としてお金を賭けることは容易だ。一手間踏むだけで、出来るのだから。


「皆が序列戦に励むのは、このお金のこともあるんだ。というより、それが大半だろう。序列上位者には、破格の料金が与えられる」


 レインは再度送られた百万と言う数字に目を落とす。

 電子マネーーー魔法を使っているため電子と言えるかどうかは分からないーーの通貨。強ければ、お金まで貰うことが出来る、と言うのであれば、序列戦が頻繁に行われることにも納得がいく。


「振り込みは、月初めだからね。このまま順調に一位の座にいれば、更に多く入ることになるよ」


 何が面白いのか、ニッコリと微笑みながら言う。

 レインは、気を悪くした様子もなく、カードを懐に戻す。ふりをして、異空間へ収納する。


「さて、長く引き留めてすまない」

「いや、面白いことも知れたしな」

「ふふ。なら、よかった。可能な限りは便宜を図らせてーー」

「いや、特にいらん。特別扱いはしなくていいぞ」

「……そう言うのであれば、望む通りにしよう」

「ああ、波風を立てるつもりもないからな」


 そう言うと、おもむろに席を立ち、扉の方へ歩いて行く。

 続くように、グレイイースも席を立ち、自分の椅子へと戻っていく。ゆったりと腰掛け、レインが扉に手をかけたところで、声がかかった。


「何か困り事があれば、可能な限り手を貸そう。それに……いや、それはまたの機会に」

「ふむ。了解した」


 途中で言いかけたことを、言わせようとはせず、そのまま退出する。


 レインが退出したのを確認してからも数十秒程、グレイイースは扉を見つめていた。

 一度切り替えるように、目を閉じ、ふっと息を吐く。知らず知らずのうちに気を張っていたと、今気付いた。


「……ヘステル。君は、アレが人間だと思ったのかい?」


 誰もいなくなった室内に、グレイイースの震える声が消えていった。





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