218話 序列戦観戦
sideレイン
レインは天城翔太を一目見た時からその本質に気が付いていた。
天城翔太の本質、それは、承認欲求の塊。
日本と言う比較的平和な国で、悠々と暮らしていた翔太は、何かの才能があるわけでもなく、ただの一般人として日々を生きていた。
何でもいいから一番になりたい。
勉強でも運動でも、男なら女にモテたい。そう言ったことを願っているのに叶わないことを知っている。
抑圧された感情が偶然により引き起こされた空間に穴が開くと言う事態。
深く考えることもなく、ラッキー程度の認識でチートと呼ばれる能力を与えられ、そしてその力を振るうことが許される世界へと降り立った。
日本では何もいい所がない自分が、この世界なら一番に、それも男なら誰もが憧れる世界最強の力。
それに近しい、自分の行動範囲の中では世界最強と言えるだけの力を手に入れた翔太の性格が歪むのも当たり前と言える。
誰しも、突然大きすぎる力が手に入れば、恐怖する者もいるが、翔太の場合は願っていたことが起こった。つまりは、暴走。好き勝手に生きることが出来る世界へ行き、思い通りに生きることが許される力を持っている。ならやることは一つ。妄想だけに留めていたことをやるだけだ。
誰かに認められたい。誰かの上に立ちたい。思春期男子としても欲望を満たしたい。そんな思いに駆られるのは、至極当然のこと。
しかし翔太はどこまでいっても日本人の常識が根底にある。
つまり、人を殺すことは重罪である、ということ。殴り合いの喧嘩すらしたことがない人はいるのだ。翔太も類に漏れず、小学生低学年の頃数回と言う回数しかしたことがない。
異世界に行き、魔物を殺したが、人を殺すことにはまだ抵抗があった。だがそれも一度してしまえば、忌避感も薄まる。
人間誰しも、やり続ければ慣れるものだ。翔太も一度や二度ではない殺人を犯している。だが、何の罪もない一般市民を、というわけではなく、盗賊や野盗といった『殺してもいい人間』を殺していた。殺人まで犯してしまえば、今度は暴力に対しての抵抗も薄れる。殺さなければいいじゃないか、という。
レインは嫉妬心丸出しのその感情を感じ取り、だが、警戒はしない。する必要がない。
それでも、
「いずれ、仕掛けてくるだろうがな」
「え?何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
ボソッと呟いたレインの言葉をレインの前に座っていたシスティナが広い、聞き返す。
それに、何でもないと言い、視線を落とす。
レインがいるのは、食道。
システィナとファルナとナトラと一緒に学食を食べていた。
基本的に学院から出てはいけない生徒は、学院での生活に不自由がないように設備が整っている。要するに、学外に出ずとも充分生活に支障はないと言うことだ。
「そう言えばこの学院は何があるんだ?」
「え、と。訓練室?と……」
「カジノとかはないのか?」
「学院にそんなのあるはずないです!」
レインが娯楽はないのかと言うと、声を張り上げながら反論する。
遮音結界を張っているから周りには聞こえていないものの、席を立てば、奇異な視線を向けられてしまう。だが、ただでさえレインの容姿のせいでどこに行っても注目を集めてしまうため、軽度の認識阻害の魔法を使っている。これで、余程注目したり、レインを探そうとしていなければ、認識が難しくなっている。
「なんだつまらん。やはり学生の本文は勉強ということか」
「勉強と言っても、魔法のですけどね」
「まぁ、そうだな。魔術学院と言うくらいだからな」
「あ、それと、第三訓練室の予約が取れました」
「おおそうか。って、訓練室はいくつあるんだ?」
「生徒が授業以外で使える訓練室は三つです。一年生が授業で使う特別訓練室は四つです」
「それだと、二、三年はそれ以上あるのか?」
「はいっ!一年生より二年生、二年生より三年生の方が強力な攻撃魔法を習うので一クラスの人数を分けて、訓練室を二つ使うこともあるらしいですっ!」
システィナが答えようとするのを遮るように、ナトラが元気よく説明しだした。
十五歳で成人とされるが、まだまだ子供だ。
大人しいシスティナとお淑やかなファルナが大人びていると言えるだろう。
「なるほどな。高威力の魔法は確かに危険も伴うからな。ん?」
そこで、ふと疑問が湧き、率直に聞くことにした。
「怪我をした時は、どうする?回復魔法を使えればいいが、全員がそうじゃないだろう?」
「そうですね。私も軽い回復魔法くらいしか使えませんし……この学院に限って言えば、軍と同様の再生槽という再生装置が治癒棟に……あ、治癒棟と言うのは、訓練室の隣に設けられているんです。重傷者はすぐに入れれるように」
「……なるほど、カプセルか」
再生槽と言うのは、SFなどに出てくるような培養カプセルのようなものだ。その中に入れば、四肢欠損程度ならば、治すことが出来るらしい。その代わり、怪我に見合った魔力が必要になるらしい。だからこそ、重傷者が優先的に使うことが出来るようだ。
「ですけど、治るからと故意に傷付けることは許されていません」
「そりゃそうだろうな。そうなれば、虐めが増えるだろう?」
「はい。過去そう言った事例があったようですね」
ファルナが丁寧に説明する。
「それで、学院から出るにはどうしたらいい?」
「勝手に出ることはダメです!なので、先生方に許可を貰わなければいけませんっ!」
「めんどくさいな」
思わず眉を顰める。
全寮制と聞いた時点で嫌な予感はしていた。何か重要なことが、例えば、貴族の仕事などで自領へ戻らなければならなくなった時など。しかし、貴族の仕事と言っても、学生が当主でもない限りそうそうない。後は、貴族としての務めなどだろうか。こちらの方がよくあるだろう。
「勝手に出たらどうなる?」
「まず、学院の周りには強力な結界が張られていて、いくつもの魔法で監視されているんです。なので、無関係の人間が勝手に入ることも、生徒が無断で出ることも出来ないようになっているんです」
「なるほどな。厳しい規則があるわけか、そしてそれを護る限り、学院の設備を使えるわけか」
確かに、いくら何でもこの学院は快適過ぎる。
まるで、肥え太ってくださいとばかりに。
だが、そんなことを考えているなど全く悟らせないように口を噤む。
「後四十分くらいか……この後、どうするんだ?」
「私は、図書室で魔法学の勉強を、と思ってます」
「わたしもファルナについていきますっ!」
ファルナとナトラは図書室に行くらしい。
魔法書の類もあるらしく、文学系の生徒はそこで魔法に関する知識を習得していくらしい。それ以外の生徒は、序列戦を観戦しに行くみたいだ。序列戦は手っ取り早く知名度を上げれると言うこともあり、毎日一戦はあっているらしい。と言っても、序列戦だけじゃなく、普通の模擬戦も行われるとのことだ。誰しもが、負ければリスクのある序列戦をしたいとは思わない、と言うことだろう。
「先生はどうしますか?」
システィナがファルナとナトラに続き、自分もついていくと言わなかったのは、レインと行動したいがためだった。
本当に短い間、会っている時間だけを取れば、十数時間しか経っていない。しかし、システィナはレインのことを無条件に信頼していた。
表すのなら、子供のペットが初の飼い主に懐く、といった感じだろうか。レインの雰囲気などがシスティナに安心感を与えているようだった。レインとしては、特に柔らかい物腰や、優しく当たっているわけでもないため、なぜ懐かれている?と思っているが。
「俺は序列戦を見に行ってみるつもりだ。どういった感じでやるのか、気になるからな」
「なら、私も行きます!」
レインは決闘、序列公式戦を見てみるつもりだった。それも、レインは近いうちに序列戦をしなければならないと解っている。誰が仕掛けてくるのかも。
学生、しかも公式戦と言うこともあり、ルールがある。まず、相手を殺してはならない。これは当たり前だろう。しかし、偶然、というのは起こりえることだ。その場合は国に引き渡され、そこで決まる。
殺さなければ基本的に何でもありの試合だ。ただ、薬物の仕様や、高威力広範囲の魔法は禁じられている。魔術学院と言っているが、近接戦ももちろんあり。魔法により剣を作り戦っても、拳を使ってもいい。戦闘スタイルは人それぞれだからだ。
「じゃあ、行くか」
「はい!二人とも私は行きますね」
レインが席を立つと、システィナも続いて席を立ち、残っっている二人に短く挨拶をして、食堂から出る。
システィナに案内される形で序列戦が行われる場所へ行く。
「序列戦と言うのは、どこであるんだ?」
「外にある闘技場を模して作られた会場があるんです。客席は千席程で……あ、生徒以上の数があるのは、外から来る人も時々いて、その時の催しとして序列戦の見学を行うこともあるので、余分に作られた、と聞いてます」
「なるほどな。最大で480人、500人以下。余分といっても五百程度でいいはずだが、千という倍の数」
「そう言えばそうですね」
レインの独り言を聞き、確かにと今気が付いたようだ。
この学院は、些か行き過ぎている。設備にしろ、生徒の待遇にしろ、普通ではない。それはレインがしばしば思っていたことだ。
確かに、入学試験を受ける者は数千に上る。しかし、入学できるのは、160人と十分の一以下だ。その厳しい門を突破した者が好待遇を受けることが出来ると、それを前面に押し出し、それ以外に疑問を抱かせない。そんな風にレインは感じていた。
(まぁ、実害もないしな。調べる必要性はない……か?いや、雪那に調べされるか。こういう時、眼が使えればいいが、どうせ、何かあるとしても地下だろうからな)
闇の組織や裏の人間や悪人が何かを隠す時、地下に隠している場合は多い。隠し扉や結界で護ったり、といったことがよくある。
(人体実験でもしてんのか?国が背後にあるなら、非合法の研究機関と言うこともあるな。ま、俺には関係ないが)
いくつもレインの頭に浮かんだが、自分とは関係ない。もし、何か自分に対して被害が起こるようなら対処すればいい。と、そう考えていた。
そんなことを考えていると、いつの間にか学院内闘技場についていたようで、システィナが扉を開けた瞬間、大歓声が聞こえてきた。
「ほぉ、中々ににぎわっているな」
「ですね!」
闘技場の広さは三百メートル程。魔法を使うため広く作られているようだが、レインの見てきた闘技場に比べれば小さい。しかしそれも仕方ないか、と思った。学生レベル、そして乱闘ではなく、一対一の試合だからだ。
「見に来ているのは、三十人くらいか」
「戦っているのは、先輩方みたいです」
「ん?序列戦はここだけしか、場所がないのか?」
「はい。あそこを見てください」
システィナが闘技場の壁際を指差す。
「あれは、教師か」
「はい。序列戦は教師が審判をするんです。危険だったらすぐに止めれるようにって」
外から、客席からじゃないのは、闘技場を囲むように半球体に結界が張ってあるからだ。中からも外からも攻撃が通らないようになっている。
「ふむ」
レインは戦いをじっくりと見るため、システィナを伴って前列の席へ移動した。
評価、ブックマーク登録、感想、ありがとうございます!
励みになりますので、入れて貰えると嬉しいです!!!