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超越神の世界旅行  作者: sena
第9章 魔術学院編
213/266

210話 伯爵からの願い

そう!次のネタと言うのは学校生活です!

そう言えば、書いてないなと思いまして……。

 

「こちらは、今日から編入することになったレイン・ニヒリティさ、君です」


 レインは配属されたAクラスで、担任教師から生徒へ紹介されていた。


 レインを呼ぶ時、教師が戸惑ったのは、レインを紹介してきたのが、伯爵だったからだ。もちろん、この学院には貴族も在籍している。しかし、伯爵本人から失礼の無いようにと、幾度も念を押されていたからだ。


 レインがいるのは、高等魔術学院だ。

 その一年生として編入することになったのは、レインの意思ではなかった。


 こうなったのには理由がある。

 事の発端は、三日前。

 フィストーラ伯爵の元を訪れたことで始まった。






「こちらでお待ちください」


 レインと雪那は伯爵の屋敷へつき中へ通され、その客室へと案内されると、そこで待つよう言われた。


「伯爵と言うからには、それなりの権力があるんだろうが……はてさて、何を考えていると思う?」


 レインは、遮音結界を張り、正面に座っている雪那へと話しかける。

 雪那は出された紅茶を優雅に飲みながら一息つき、レインの質問に答える。


「そうですねぇ。わらわたちを手に入れる、とかですかぁ?」

「ま、それもあるだろうな。いくつか考えられるが……俺たちと接点でも持ちたかったんじゃないか?」

「接点……ですかぁ?」

「ああ、どこかの貴族とでも思ったんならの話だがな」


 レインも出された紅茶を飲み、「あ、結構美味い」と思ったが、そんなことは少しも表に出さず、話を続ける。


 この客室には、五人程のメイドが壁側に控えている。と言うのも、何かあれば呼びつけろ、とのことだろう。レインたちは今、傍から見れば、口パクで喋っているように見える。しかし、メイドたちはそれを不審に思ったりはしていない。なぜなら、レインは遮音結界と同時にもう一つ魔法を使っていた。それは、幻惑魔法だ。普通に普通の会話をしているように見えている。だが、幻惑魔法をかけずともよかった。なぜなら、メイドたちはレインと雪那の美貌に見惚れ、ぼーっとしているからだ。熱に浮かされたかのように、頬を赤らめ、無表情をキープ出来ずにいる。


「なんでもいいさ。今回は俺らしかいないからな。他は今の所呼ぶつもりはない」

「ふふふ、と言うことは、旅行ですねぇ」


 嬉しそうに流し目を向けながら言う。

 あながち間違っていない。


 それから十数分。

 紅茶がなくなればメイドに言いつけ、注ぎ足して貰い、時間を潰した。

 コンコンとノックされ、扉の近くにいたメイドが扉を開ける。

 すると騎士鎧に身を包んだ男が、レインたちの元まで歩み寄り、一礼し話し始めた。


「……主がお呼びです。こちらへ」


 一瞬、レインたちへ顔を上げ、動きが固まったが、すぐに任務を思い出し、若干頬を染めキリッとした顔をしながら言う。

 レインはカップを置き、席を立つ。続いて雪那も席を立つ。


 騎士について、屋敷の中を歩き、目的の場所についた。


「お連れしました」


 扉をノックし、しばらくしてから「入れ」と言う声が聞こえた。


 扉を開け、レインたちが中へ通される。

 騎士は礼をすると、すぐに退出した。元々案内だけだったのだろう。


「初めまして。私がヘステル・ヒス・フィストーラだ。名前を伺っても?」


 敬語ではないが、レインたちに敬意を示しているのが分かる。

 椅子から立ち上がり、軽く自己紹介をしたら、レインたちへ座るよう促す。

 まぁ、レインはそんなことも待たずに、部屋に入った瞬間、席に着いたが。それを見た伯爵は、一瞬目元が引き攣ったがすぐに微笑みを浮かべる。


 レインたちに見惚れるのも一瞬、そこはさすがに高位貴族だと言うことだろう。

 事前に報告を受け、心の準備が出来ていたのもある。


「俺はレイン、こっちが雪那だ」

「どうもぉ」


 レインに続き、雪那をレインの隣に腰を下ろす。

 レインの一人称『俺』と言う言葉に、反射的に聞く。


「……失礼、男性なのですか?」

「あ?そうだが?」


 思わず敬語で問うた伯爵に、何を当たり前のことを、とでも言いたげなレインを見つめ、ごほんと咳をし、慌てて取り繕う。


「ご、ごほんっ。それでお呼びした理由だが……っ!?」


 話し始めた伯爵へレインは冷めた目を向けながら、まず、()()()()()()()()。つもりだったが、レインより先に雪那が動いた。


「立場を弁えなさい、人間」

「がぁっ!?」


 凍えるような殺気が伯爵を襲う。

 雪那は我慢していた。それは、レインが人間たちにタメ口を使われていることすら、雪那にとってはギリギリだったのだ。だがそれは、しょうがないこと、だと頭では分かっている。正体を明かしていないし、人間のフリをしているからだ。しかし、だ。ナメられる、とまではいかずとも、同等だと思われることすら雪那にしてみれば、人間如きが、となるわけだ。


 それがついに、ここに来て爆発したと言うわけだ。


 いつの間にか取り出していた扇子を口元に当てた雪那は、殺気のこもった目で伯爵を見る。


「ああっ!?がっ……!」

「主様にタメ口を聞くなんて、無礼にも程があります」


 普段、間延びした話し方をする雪那が、普通に話しているだけでもその怒りの具合が分かるだろう。

 それに、雪那がここまで怒っているのには、他にも理由がある。

 それは、伯爵の目に、レインたちを利用してやると言う意図が垣間見えたからだ。その()()()()()()()()瞬間に怒りが頂点に達したのだ。


「そもそも、人間は這い蹲り、口を開く許可を貰わない限り、喋る権利すらありません。しかも主様にーー」

「雪那、そこまでだ」


 グチグチと一度言いだしたら止まらなくなったのか、雪那はいかに人間が愚かで虫けらの如き存在かと言うことを淡々と語っていた。その間、殺気は放ったままだ。

 伯爵はガタガタと震えながら、必死に頷くしか出来なかった。貴族としてのプライドも権力も、今は邪魔なだけ、と言うよりも無いに等しかった。ただただ、恐怖と言う感情に支配され、早く怒りが収まるのを待つばかり。


 奇しくもレインたちをここへ案内した男たちの時は逆の立場となった。

 レインは雪那へ制止の声をかける。

 その瞬間、ピタッと止まった雪那は今まで自分が何をしていたのかを思い出し、恥ずかしがるように目元まで扇子で覆い隠し、こほんと軽く咳払いする。


「主様ぁ、すみません……」

「いいさ。俺が何も言わない分、お前がこうなるのは分かり切っていたからな」


 レインは最初から分かっていたと言い、雪那を宥める。

 しかし、それで人外の殺気を向けられた伯爵は堪った物じゃない。だが、それは自業自得の面もあるため、どっちもどっちと言った所だろうか。


 貴族として、相手の身分も分からない時に、畏まったままだと下に見られる。かと言って、最初から威圧的に話せば、相手が自分より上の身分だった場合に困ったこととなる。


「さて、これで分かっただろうが、俺たちが上だ。お前が下」


 レインは言わずとも分かって入ることをわざわざ口に出し言った。

 そんなレインの言葉に、伯爵は勢いよく頷く。


「さて、話を戻そうか。で、なぜ、俺たちを呼んだ?」

「そ、それは、部下からあまりにも現実離れした美しさの女性が二人街中へ現れた、と部下から報告を受けまして……それで、お呼びした次第です」


 完全に上下関係が築かれた瞬間だった。

 高位貴族として上に立ってばかりだった伯爵は、今や下級貴族のようにぺこぺこしながら、レインのご機嫌を取っていた。そして、機嫌を損ねないように、言葉を選びながら話していた。


「なるほどな。で、それだけじゃないだろう?」

「はい、さすがはレイン様ですね」


 何がさすがなのだろうか。今日初めて会ったのだから、さすがも何もない。


「今日お呼びしなのは、我が国の学院へご招待したいと思いまして」

「学院?学校か……」

「そうでございます。私の娘もそこへ通っているのですが、戦いを教えて欲しいのです」

「戦い?剣か?魔法か?」

「どちらかと言えば、魔法です」

「なるほどな。なら、家庭教師と言う形でもいいんじゃないか?」


 レインの言っていることはもっともだ。

 一人に教えるのなら、わざわざ学院に入学せずとも家庭教師で充分だ。

 だが、レインたちを学院に招待したのは、伯爵にも思惑があった。


「見た所、レイン様方の歳も娘と同じくらいかと思いまして……ならば、学院に通うのも手かと思い……」


 と言う理由だ。

 会って感じた高貴な出。まさか、相手が神だとは思っていなかったが、位の高い人間だと伯爵は思った。なら、お近づきになりたいと思うのも無理はない。地位の高い者とのパイプはいくつあっても困らない。

 それに、レインの外見は15歳程の青年未満と言った感じだ。対して、雪那は妖艶な美女と言う雰囲気なため、十代にはお世辞にも見えない。


「まぁ、よろしいのではないですかぁ?主様も学校と言うのを楽しむのもいいと思いますよぉ?」


 そこで、恥ずかしがって黙っていた雪那が話に入ってきた。

 雪那のいい分としては、学院に通って欲しいらしい。目が、いや、目もそう言っている。


「雪那がそう言うなら、って、俺は日本でも学生をしていたんだが?またやれと?」

「ええ、見てみたいですぅ!」


 制服姿のレインが見たいらしい。普通は逆じゃないだろうか。


「……はぁ、分かった。と言うわけだ。入学してやる」

「ありがとうございます!入学式は一ヵ月前ですので、今からですと編入になりますね。手続きに二日ばかり時間を貰えたら、すぐにでも入れます」

「二日か……なら、三日後にしてくれ」

「三日後ですね。分かりました。三日後に用意しておきますので……そう言えばまだ宿はお決まりになっていませんか?」

「ああ、来たばかりだからな」

「なら、家に泊まってはいかがでしょうか。そして、三日後に私らでお送りしますので」

「ふむ。なら、そうするか。雪那、どうだ?」

「いいと思いますよぉ?」


 雪那の了承を得たレインは、後は伯爵に任せることにした。


 それから、数分話し、第一印象を軽くだが拭うことが出来ていた。

 伯爵のレインへの、正確には雪那への第一印象は恐怖だ。恐怖しか感じなかったのだから仕方ない。いくらとんでもない美貌を持った美女だったとしても、あの殺気を放たれれば恐怖に竦み上がってしまうだろう。


 それに、レインたちは最初から分かっていたことだが、天井裏にいる存在にも気が付いていた。

 それもそうだろう。伯爵と対面するのが得体のしれない存在なのだ。もしレインたちが伯爵に仇名す存在ならば、即座に始末できるように控えている者がいても不思議ではない。だが、雪那の殺気で動けなかった。そしてそれを、無様だと感じる者は殺気を受けた者の中にはいなかった。


 レインが話しの途中で、いつまでいるのかと聞いた時、伯爵が顔面を蒼白にしながら平謝りしだした時は、思わず笑ってしまった。


 そんなこんなで一応仲良く(?)なり、レインと雪那は与えられた部屋へ案内された。


 そして、深夜になり、一人ゆったりと寝室で寛いでいた伯爵の元へ一つの影が近付いていた。

 ベットの影からにゅるりと影が浮かび上がり、そこから雪那が現れた。

 雪那を視界に捉えた伯爵は思わず悲鳴を上げてしまった。


「ひぃぃぃっ!」

「もう、失礼しますねぇ」

「っ!すみません!そ、それで、何用でしょうか?」


 完全に雪那のことがトラウマとなっていた。

 一度心の底からの恐怖を抱いてしまえば、そう易々と拭うことは出来ない。それでも、表情筋を制御しながら笑みを浮かべ、用件を問う。


「今回の学院への入学、主様だけでお願いしたいと思いましてぇ」

「と、言いますと。レイン様だけの編入、と言うことでよろしいのでしょうか?」

「そう言うことですねぇ」


 ニッコリと笑いかけられ、思わず恐怖を忘れ見惚れてしまった。

 男とはとにもかくにも妖艶な美女には弱い者だ。


「それではお願いしますぅ」


 そう言うと、現れた時と同じように影に消えた。


 今度こそ一人となった伯爵は、大きく息を吐き、呟く。


「怖かった……もしかしたら、私はとんでもない相手を迎え入れたのではないだろうか……」


 その問いに対して、伯爵は答えを持っていなかった。


 再度吐いたため息は部屋の中に消えていった。






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