204話 神皇と対面
レインVS神皇の戦闘は長くボリューム満点でお送り致します!
と言う建前で、ネタを思いつくまで引き伸ばします……。
侵入者の気配を感知したレインは、まっすぐ敵の元へ向かわず、廊下を歩いていた。
レインが住んでいる場所は、レインが独自に創った異空間だ。
この空間にあるのは、レインの住処である城と、その巨城に匹敵する程の浴場、強固な結界で囲ってある訓練場が三つ、レインが遊ぶための決闘場が一つある。
他にも娯楽類がある施設が二つ。カジノなどの賭け事や、スポーツなどだ。
城の北側には果てしなく続くかのような草原が、南側には荒れ果てた荒野が、西側にはジャングルの如き森が、東側には高く空まで届くかのような山々がある。
城の通路には、使用人が行ったり来たりしている。
メイド服に身を包み、美しい者、可愛らしい者、綺麗な者など様々だが、誰しもが整いすぎた容姿をしている。まさに、神から創られたと言える美貌だ。もちろん、レインが創った存在なためその通りなのだが。
レインの姿を見ると、歩いていた者は立ち止まり、作業していた者は手を止め、腰を折り、頭を下げる。だが、三秒程頭を下げると顔を上げる。これは、レインが使用人皆に言い聞かせているためだ。何も言わなければ、レインが見えなくなるまで下げ続ける。そんなことしていれば、作業が止まったままだ。ただでさえ、城は広い、広すぎるのだ。まさに一分一秒も無駄に出来ない、と言った感じだ。
しかし、使用人、メイドの中にはレインへ流し目、艶っぽい表情で色目を使っている者もいる。
レインからの寵愛を受けようとしているのだ。
まぁ、レインの傍にアシュリーやクリスティがいる場合は、睨みを聞かせているため、そう言ったことはないが、今回はレイン一人だ。
メイド服を軽くはだけるようにし、肩を出しながらウインクをしたり、ちゅっと投げキッスをしたり、そんなことをしながら誘惑している。
だが、レインはそんなものに流されるような相手じゃない。美女たちには目もくれず前を向きながら歩いて行く。
その時、レインを呼び止める声が廊下に響いた。
「主様っ!」
その声にレインは足を止め、振り返る。
「どうした?」
「これを」
走らず、だが速く歩きながらレインの元へ来たメイドが小さな袋をレインへと手渡す。
それを受け取り、何が入っているのかを聞く。
「これは?」
「クッキーです」
「なるほど。ありがとう」
「っ!失礼します!」
ニッコリとレインは笑いかけ、礼を言う。
その表情にメイドは顔を赤らめながらサッと一礼しパタパタと走って行く。少し歩いたところに二人程のメイドがおり、レインへクッキーを手渡したメイドが合流、そしてキャッキャと話し合っている。
聞こえてくる話は、「主様と喋れた!」とか「褒められた!」とか「主様綺麗だった!」などなど。
だが、レインは誰が作ったのかを聞くべきだった。
小袋の開け、中から一つクッキーを手に取る。
形はハート形。完全にレインへの好意を伝えている形だ。
そしていざ、口に入れようとした瞬間、焦った表情のセバスがレインの背後に転移してきた。
「主!それを食べてはいけま……遅かったですか」
セバスが来た時にはクッキーは口に入る一歩手前、セバスが口を開いた時にはクッキーは口の中へ放り込まれていた。
口に入れたクッキーを噛み砕く。
その瞬間、
「ぐはぁぁっっっ!!!」
「ああ、やっぱり……大丈夫ですか、主」
突然、大量の吐血をし膝を付いたレインへ駆け寄り、背中を摩る。
レインは食道に赤く焼けどろどろの鉄を流し込まれたかのように感じていた。いや、感じていたのではなく、実際幻覚などではなく、そうなっていた。肉の身体をとっているレインは、食道や胃がどろどろに溶けていた。
「こ、これってっ……!」
「ええ、アシュリーが作ったものです。私が気付いたのもつい先ほどでして……すみません、主」
「がはっ……何を使ったらこうなる?」
もう一度吐血し、呟く。
レインは小袋の中に残っているクッキーに目を向け、使われている材料を確認する。しかし、何も毒物などは検出されなかった。それも当たり前だ。クッキーを作るための材料しか使われていないのだから。
「クッ……益々、危険物になってないか?」
「全くその通りです。厨房への立ち入りは禁止しているのですが、どうやらこっそりと入っていたようで……」
「対アシュリー用の侵入防止結界でも作るか?」
真面目に本気でそんな結界を作ろうかと悩んでいた。
レインは毒でも猛毒でも効かない。しかし、そんなレインの耐性さえもただの菓子で通り抜けてくる。まさしく殺神料理だ。
「……しかも、後九つ。マジで殺す気か?」
「本当に申し訳ございません。再度注意しておきますので」
「ああ、俺からも言っておく。……なんだが、絶対にまたやるだろうな。よし、セバス、お前が監督しろ」
「え……」
セバスが呆けた顔をした。
セバスのこんな顔珍しいと感じ、クスッと笑う。
「アシュリーにはセバスと一緒なら厨房への出入りを許可しよう」
「え、あの……主?そ、それは……」
「よろしく頼むぞ。ではな」
「あ、ちょーー」
セバスはまだ何か言いそうだったが、どこかの部屋へ強制転移させる。
「ふぅ、そろそろ治ったか……どんな劇薬だよ」
この後戦いが待っていると言うのに、その前に死んでしまうところだった(実際、死ぬことはないが)。
周りにいたメイドもレインが吐血し、顔を青褪めさせ、駆け寄ろうとしたが、セバスが来たことで駆け寄ろうとしていた足を止めざるを得なかった。
吐血した血液の量は二リットル程。
廊下の中央に敷いてある高級な絨毯はレインの血を大量に吸収したが、絨毯にかけられている魔法により、すでに綺麗になっている。
「……しかし、これどうしよ」
レインは目を右手に持っている小袋に落とし、若干引き攣り気味の顔で呟く。
「これ食ったら俺、寝込むことになりそうなんだが……」
そこまでレインに思わせるだけのものだった。
破壊力は素晴らしく、暗殺には持ってこいだと思った。
「よし、これは収納しとくか」
そう言い、ポイッと空中へ放り投げると途中で消える。
よくあるアイテムボックスや異空間収納と言った物だ。別空間を創りそこへ入れているのだ。
「さて、そろそろお客の所へ行くか」
レインが行った先は城の城門だ。
城門から出てまっすぐ草原の方へ歩いて行く。散歩気分で草原を歩きながら、チラッと後ろを見ると、あれほど大きかった城が二回り程小さく見える。
「さて、この辺でいいか……」
ボソッと誰ともなく呟くと、上を見上げる。
すると、相手もレインに気付いたのか上空から高速でレインの元まで飛んでくる。
音速を超える速度で地面へと向かっている。そんな速度で地面と激突すれば、地面が陥没しクレーターが出来上がるだろう。しかし、その相手は、地面へぶつかる直前重力がなくなったかのようにピタッと止まり、音も立てずに地面へ降り立つ。
「ほぉ、お前が神皇と言う奴か。確かに、感じる圧は十神将以上だが……」
レインは笑みを隠そうともせず笑い、艶やかの黒髪の美女へと目を向ける。
美女はピクリとも表情を変えず、無表情のままでレインを見据える。神皇、そして十神将とレインが言った時、顔は無表情のままだったが魔力が揺れた。
(はてさて……どんな力を持っているのやら)
じぃーっと見合っていると、神皇が口を開く。
「貴様が我が配下を殺した者か?」
凛とした声音、しかし確かな威厳のある声で話しかける。
その声には、怒りなどの感情は込められていない。声に抑揚もなく、ただ確認しているかのようだ。
「ああ、そうだな。グーレルはどうだ?強くなっていただろう?」
「……確かに強い……か。だが、我には勝てぬ」
レインの問いに答えず、しかしレインから目を逸らさず言う。
「我は戦いに来たのではない」
レインと話す気などないのか、独白するかのように、ひとりでに話し始める。
「平伏せ」
「…………ん?」
「平伏せっ」
「………………ん?」
突然の言葉にレインは首を傾げる。
いきなり「平伏せ」などと言われても従うわけがない。
ここで初めて戸惑った表情をしている神皇は、少し声を上げ、再度命令する。
「平伏せ!」
「いや、だから何だよ」
「なぜだ!なぜ効かぬ!?」
今度は無表情を維持することが出来ず、声を荒げる。
レインは呆れたように言いながら、神皇の言ったことについて考える。
(効かぬ……と言うことは、なるほど、言霊の類か。この場合は、神言や呪言と言った方が正しいか)
レインの推察は正しかった。
神皇はアシュエルが使う呪言縛鎖と似たような能力を使っていた。
神の國では、神皇の『言葉』に逆らえる存在がいなかった。と言うのも、こういった『言葉』を用いる能力などは、格上には効かない。この場合の格上とは、格が上の存在と言う意味だ。
「あり得ぬ!死に絶えよ!」
狼狽えながら、明らかに冷静さを欠いた神皇を見やり、レインは眼を向ける。
(ふむ。まだ見えんな。もう一段上げるか)
レインは眼をもう一段、上の次元へ上げる。
レインの眼には神皇が命令を口にする度にいくつもの鎖がレインの中心に向かって縛ろうと伸びているのが視えた。この鎖はレインが視やすいように具象化した物だ。実際に鎖がレインを縛ろうとしているわけではない。
レインを縛ろうとする鎖は、レインへ触れる寸前で霧散するように消える。
「……まさか、それだけが力だとは言わないよな?」
「そんなはずは……あり得るはずがない!」
レインは恐る恐る話しかける。
しかし、神皇はレインの声が聞こえていないかのように、混乱している。いや、聞こえていないのだろう。それほど錯乱しているとも言える。
「これは聞こえてないな。仕方ない、戻すか」
「がっっ!?」
レインは指を鳴らす。
すると、神皇の体がボールのように吹き飛んでいく。
「これで、戻るといいんだが……」
微かな落胆を感じながら呟く。
地面をバウンドしながら吹き飛ぶ神皇に視線を向けながら、次の攻撃を用意する。
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