196話 進化した力
sideレイン
「ーー『魂装』」
殺気のこもった眼でレインを睨みつけながら、ボソッと呟く。
グーレルの両手、胸、両足に魔力が集まり、形を成す。
グーレルの魂装は籠手のみだった。しかし、レインからの『神の祝福』を受けたことで魂にまで影響を及ばしていた。それは、魂を具象化している魂装にまで現れていた。
籠手の形も少し変わっている。胸当ても軽装と言える程のものだが、防御性能は高いだろう。足具はブーツのように太ももを覆うくらいの大きさだ。
魂装を出した瞬間、自分の身に沸き上がる力がさらに増えた。
魂装の耐久性も、前の十倍、いや、百倍にも上っているだろう。
今なら、ゼウスの『創命樹』、それすら殴り倒すことが出来るだろう。
「ーーーっ!」
グーレルは、短く息を吐き、地を蹴る。
そのあまりの疾さに、レインは見失った。
レインの認識を一瞬とはいえ、上回ったのだ。
グーレルの姿が消えた瞬間、レインは右頬に衝撃を喰らい、吹き飛ばされる。
「くく、すげぇ……っ」
「オラァッ!!」
吹き飛ばされている最中、今度は、腹を蹴り上げられる。
弾丸のような速度で上空へ打ちあがり、グーレルは地を蹴り、跳び上がる。そして、両手を合わせ、レインの顔面目掛け振り下ろす。
「がっ!?」
地面に一直線に飛んでいき、どでかいクレーターを作る。
そこへ、追い打ちをかけるように重力に従い落ちてくるグーレルの足がレインの腹へ突き刺さる。
「ぐぅ……」
「はっはっ……」
すぐに飛び退き、息を整える。
(物凄いパワーだ。しかもまだ本気ではない……魂装の力も上がっているっ)
手をグーパーと繰り返しながら確かめる。
グーレルの体感で半分、と言ったところ。まだまだ、全力ではない。
まだ、速すぎるスピードに溢れ出る力をきちんと制御出来ていない。さっきのレインへの突撃だって、何の考えもなく、怒りに任せ突進し、力任せに殴りつけたのだ。その後の連撃も衝動に任せたものだった。
(これなら行けるっ!)
いきなり力が上がれば、その力に振り回されたりする。制御するのが難しいからだ。
それも、レインの認識すら超える速度だ。無理もないだろう。
だが、グーレルは近接戦を主体とする。故に肉体制御の能力も高い。レインが受けに徹している限り、その肉体性能に慣れるのは時間の問題だろう。
「ーーよっと。いやぁ、びっくりだわ、その力。自分でやっておいて、びっくりだ。虚をついたわけでもなく、単純に俺の認識を超える速度、そして、俺を吹き飛ばす力。身体能力でそれほどの……ククク、いいぞ、実にいい!」
クレーターの中から飛び出たレインは、何事もないかのように語り掛ける。
後半に連れて、レインはグーレルの力に笑いを堪えることが出来ずにいた。
これほど楽しいのは、五帝と戦う時以来だと。そして、確かに感じていた。このまま力が上昇し続ければ、五帝に届くだろう、と。
「黙れッ!」
レインにこれ以上喋らせないよう、再度突撃する。
裂帛の声を上げながら、拳を構え距離を詰める。
今度は目を離さず見ていたために、捉えることが出来たが、それでも、辛うじてだった。
グーレルの体がブレる程の速さで、向かってくるグーレルに、レインは凄惨は笑みを浮かべながら向かい打つ。
グーレルの右拳がレインの右肩に迫る。それを、軽く体を捻るだけで躱すが、そこへ左拳がレインの腹へ突き刺さるーーかに見えたが、レインは腰を下げ、素早く後ろに下がることでこれを避ける。
だが、グーレルは引かずにピッタリとくっつくように近付き、連続で拳を振るう。
心臓を狙ってくる貫手を内側に入れた手で払い、続いてくる首を狙う手刀を同じく手刀で弾き、レインの意識が拳に向いているその瞬間に、意識外である膝蹴りを鳩尾に喰らわせる。だが、これを同じく片足を上げることでガードし、残った足で地面を蹴りジャンプ。そのまま蹴りを喰らわせる。それを、グーレルは腕をクロスすることで防御する。
「ぐっ……!」
ズザザザザッと地面を削りながら後退る。
以前のグーレルならこの蹴りで魂装ごと砕かれていた。しかし、今のグーレルの魂装には、ヒビ一つ入っておらず、より輝きを増している。
まだこんなもんじゃない、まだやれる、そんな風に見える。
(クソッ!やっぱつえぇッ!)
心の中で悪態を吐き、拳を構える。
「はあぁ……ふぅ」
息を整え、魔力の乱れを整える。
そして、身体の隅々まで魔力を行き渡らせる。次に魂装にも魔力を纏わせる。群青色の魔力が籠手を覆い、輝きを増す。
「ハアアッ!!!」
「ぬっ……」
カッと目を見開いたグーレルは、今度はまっすぐ向かわず、左に旋回するように走る。直線でないため、速度は落ちるが、それでも速い。グーレルは権能の使い方はあまりなっていなかったが、武の方はそうではない。歩法だけでも、かなりのものだ。緩急を付けながら走っているせいで、残像が生まれ、殺気をその瞬間に込めているせいで、レインの感覚を惑わせる。
レインの周りを回りながら走り、今度は足具に魔力を爆発的に込める。
空気を裂きながら、弾丸のように、レインの背後から襲い掛かる。
対してレインは集中し、殺気や残像には惑わされないよう感覚を一層研ぎ澄ませる。そして、向かってくるグーレルの背後からの攻撃をしゃがむことで避ける。
ギリギリでしゃがんだため、レインの長髪がはらりと切れ落ちる。が、それを無視し、レインは右拳を握り締める。そして、腹を殴りつける。
だが、直前でグーレルは足で右腕を蹴り飛ばし、上体を低くし、ジャンプする要領でアッパーを喰らわせる。レインはそれを、当たる寸前に開いている右手を差し込み、受ける。
パシィィィ!!!と衝撃が駆け抜け、レインの髪が逆立つ。
しかし、グーレルは一切攻撃の手を緩めない。
アッパーとは逆の手、左腕でレインの右脇腹を穿つ。レインは、左手でそれを受け止めようとするが、あまりの力に吹き飛ばされる。しかも、レインが吹き飛ぶ瞬間、グーレルは左足を軸にクルリと体を回転させ、同じ場所に回し蹴りを見舞う。
「うぐぅ」
もはやギャグのような速度で吹き飛ぶレインへグーレルも地面を蹴り駆ける。
一瞬で追いついたグーレルはレインの顔面をがっしりと掴み、地面へ叩きつける。
「オラアアアアアア!!!」
そして、地面へ押し付けたまま走る。
ガガガガガッと地面を削りながら、ジグザグに走る。
一方そんな状況においてもレインは呑気に考えていた。
(ん~、どうしようか……ダメージは全くだが……)
地面を削りながら、引きずられているレインだが、その実ダメージは然程喰らっていなかった。レインからすれば地面など、豆腐の上を泳いでいるようなものだ。
それより、
(このアイアンクローの方が問題だ……)
レインの顔面をがっちりと掴んで、今もなおギチギチ、メリメリ、メキメキと締め上げている方がダメージ的に大きいだろう。レインの顔を離さないように掴んでいるのだろうが、五指が皮膚に食い込み、血がたらりと流れる程の握力だ。
もし、グーレルがレインの状況に気が付き、両手で握り潰そうとすれば、いくらレインとてトマトのように潰れるだろう。
だが、幸か不幸かグーレルはそのことに気が付いていない。
万力のような力で握り締めながら、雄叫びを上げ走り回る。
しかし、レインもずっとそのままと言うわけではない。
(さて、そろそろ反撃するか)
レインは自分の顔を掴んでいる腕を両手で握り、締め折る。そして、足を跳ね上げグーレルの首に回す。太ももでがっちりと組みつき、上体を起こす反動でグルリとグーレルの首を捩り折る。そして、捻れた首を踏み台にし距離を取る。
「ふぅ、力はどうとでもなるが、如何せん疾いんだよな」
先一連の動作に少しでも遅れがあれば、グーレルは一瞬で反応しもう一度レインを地面へ叩きつけたことだろう。
グーレルはもちろん、全体的に身体能力が上がり、力も桁違いに上がったが、より強力になったのは、その速度だろう。
レインの認識すら超える速度、そう言えばどれだけ速いか分かるだろう。
「ぉ……ッ」
「まぁ、その程度の攻撃、効いてないよな」
一回転半した首はダランとしている。しかし、次の瞬間には、ボキボキと音を鳴らしながら元に戻った。
グーレルは首をゴキゴキと鳴らし、自分の状態を確認すると獰猛な笑みを浮かべた。
(すげぇ、すげぇぞ!力や速度だけじゃない。回復力も段違いに上がっている。これならやれるっ!)
グーレルは自分の力に興奮し、確信した。
この回復力に肉体能力を合わせれば、無茶な攻撃も出来る。そしてそれは、レインにも届きうると。
確かに自分の肉体性能を把握しだしたグーレルは、『神の祝福』を乗り切った直後の時より、遥かに強くなっている。権能も何も使わずにレインと渡り合っているのだ。いや、今の状況だけ見れば、押しているとさえいえる。
その気持ちを隠すことなく、表情に浮かべる。
「いやぁ、一方的にここまでやられるとは、あいつら以来だ」
「その割には全くダメージを喰らってないように見えるが?」
「そりゃそうだろう。確かに速く、強くなったが、それだけだ。まだ、重さが足りん」
「フンッ、すぐに殺してやる!」
「ククク、いいぞ?やってみろ!」
そう言うと、レインたちは同時に駆けだした。
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